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(6)

「そうか。噂の新人というのは、貴女のことだったんですね」

「ええ。アリス・マーガトロイドよ。よろしく」

「いやはや。美人な人間と遜色が無いので、思い至りませんでした」

 世辞を言うことに余念が無い烏天狗である。

 ただ、事実としてアリスは美人だったので、霊夢は黙っていた。

「ま、魔女だと……?」

 そんな彼女を小娘と侮り、さっきまで上から目線で接していた店主は動揺した。

「証拠を見せましょうか?」

 アリス得意気に手のひらをかざせば、二体の人形が現れた。

 その人形たちは、空中で踊る。

 まるで生きているように、滑らかにダンスを舞う。

 自己紹介と身分の証明を兼ねたパフォーマンスに、周囲を取り巻いていた人間たちから拍手が起こった。

 アリスは改めて、露店に並んでいたブローチを手に取り、

「魔具としては使えないわね。装飾品として売りに出すことはできるかもしれないけれど……」

 値札を見て失笑する。

 その様子から察するに、ずいぶんと値を水増ししているようだ。

 たちまちに顔を歪ませる店主。

「あははは。悪いことはできませんねぇ。世の中、上手いこと出来ているものです」

 文が笑いかけると、その場から逃げようとしていた店主は、身体を硬直させた。

 そこに警備と書かれた腕章を付けた、数人の白狼天狗が飛んで来て立ちはだかる。

「椛。ご苦労様です」

「いえ。この店がおかしいことには気づいていたのですが、確証が無いので迷っていたんです。おかげで助かりました」

 アリスに頭を下げる。

「さて、ご店主。本部までご同行願えますか?」

 もの言いこそ丁寧だが、鋭く店主を睨みつけて、けん制している。

「素直に従ったほうが身のためですよ。白狼天狗の瞳からは逃げられません」

「くっ……」

 店主は渋っていたが、文が、これ以上の悪あがきは無駄と諭すと、白狼天狗たちに連行されていった。

「ちっ。せっかくの祭りだってのに、嫌なものを見たぜ」

 人だかりの中から、魔理沙が沸き出て来た。

 店主と目が合うと、帽子を深くかぶって、視線をさえぎる。

 店主は忌々し気に、地面に唾を吐いた。

「魔理沙さん。あの人って……」

「やめてくれ。あいつの話はしたくない」

 魔理沙は文の言葉をさえぎり、

「それにしても、あの人形はどうやって動かしてるんだ?」

 互いの自己紹介も済んでいないうちから、興味のおもむくままにアリスに質問した。

 アリスも、自分の魔法に興味を持ってくれるのがうれしいようで、魔理沙の問いに、丁寧に答えてあげていた。

 落ち着いた口調で話すアリスと、子どものように目を輝かせて、アリスの説明に聞き入る魔理沙。

 その対比がおもしろい。

「霊夢さんは、アリスさんとは初対面では無かったのですね」

 魔法談議に花を咲かせている魔女たちには混じることができないので、文は、霊夢に話題を振った。

「こないだ、紫の家で顔を合わせたのよ」

「紫さんが? わざわざ霊夢さんを家に呼んだのですか?」

 文は、腑に落ちないようだった。

「そうよ。そんなに奇怪な話かしら?」

 アリスが幻想郷で暮らすことになったから、紫は、あらかじめ霊夢と面会させておいた。

 また、アリスのことを気にかけてやってほしいとも頼まれた。

「それだけですか? それだけのために霊夢さんを家に招いて、直接、アリスさんのことを頼んだのですか?」

「いやに掘り下げようとするわね。なにが気になるのよ」

「いま言ったことですよ」

 第一印象にすぎないが、アリスは、見るからに大人っぽくてしっかりしていそうだ。

 幻想郷の秩序を崩壊させてしまいそうな、暴れん坊の困ったちゃんならともかく、そんなアリスのことをよろしくと頼むだけで、博麗の巫女を呼び立てるものだろうか。

「なにか、奥がありそうな……」

「言われてみれば、そうね」

 紫のことは嫌いだが、意味の無い嫌がらせをするような輩では無いことを霊夢は知っている。

 わざわざ霊夢を家に呼び、他の幻想郷の住人に先んじてアリスを紹介したというのは、ねらいがあってのことだろう。

 ただ、現時点では、その実態がわからない。

「ま。掴み所が見つからないうちから、あーだこーだと考えてもしかた無いわよ」

 波が立っている湖の底を覗き見ようとしたところで、無理なものは無理。

 そういうときは、波が鎮まるのを待つのが賢明である。

「それもそうですね」

 それに、今日はせっかくのお祭り。

 真面目な話をするなんて、無粋というものだ。

「いや、すまんすまん。いままで同族が居なかったもんだから、つい話が弾んでしまってな」

 金髪を掻きながら詫びる魔理沙。

「私も、いままでは魔法の話を理解してくれる人が居なかったから、口が滑らかになってしまったわ」

 上品にほほ笑むアリス。

(……?)

 霊夢の胸がざわついた。

 違和感。

 本当にわずかだけど、霊夢の直観が、違和感を告げてきた。

 でも、なにに対して違和感を覚えているのかわからない。

「霊夢さん。どうかしましたか?」

 文が心配してきた。

 新聞記者の真似事をやっているだけあって、観察眼がある。

(いや。もしかしたら、逆なのかもしれないわね)

 優れた観察眼を使いたいがために、目を皿のようにしてネタを探し、新聞など発行している。

 持っている能力を、なんらかの形で発揮したいという欲求は、人妖問わず、備わっているはずだ。

 それなのに、昨今の妖怪たちときたら、能力を持て余して無気力に生活している。

 そのうちに、欲求不満に陥って、欲求が暴走してしまわないだろうか。

(心配しすぎか……)

 文もそうだが、直観力や観察眼のある者というのは、細かいところにまで目が行き届くものだから、危機感を感じやすく、すぐに心配をしてしまう。

 こんなんじゃ、心が疲れてしまう。

「なんでも無いわ。それより、そろそろ花火の時間でしょ」

 仮にも文は撮影係なのだから、霊夢なんかに気をとられているうちに、本日の目玉メインイベントである花火を撮影し損ねたら大変だろう。

「そうでした。湖畔に急ぎましょう」

 文は、集団の先頭をきって歩き出した。

 その後を、霊夢、魔理沙、アリスが追う。

 アリスと魔理沙は、遅ればせながら自己紹介をしていた。

 相手の名を知るよりも、知的欲求を満たしたり、得た知識を披露したりすることを優先する。魔法使いってのは、そういう人種なのだろうか。霊夢には、理解できない世界であった。

「みなさん。早く早く」

 撮影係の権限を利用し、見物場所を確保していた文が、霊夢たちを急かしてきた。

「はしゃいでるわねー」

「人間の子どもみたいだな」

 そういえば文は、今日は霊夢たち以上に祭りを堪能していた。

 長く生きていても、祭りとか花火というのは、心が躍るものなのだろうか。

「きっと、長く生きているからこそ、なのよ」

 アリスが推論を述べた。

「長く生きていると、生きることに飽きてくるから」

 だから、こういうイベント事は、人間以上に楽しく感じてはしゃいでしまうのだと言うアリス本人は、はしゃいでいるようには見えなかった。

「そう言うわりには、アリスは落ち着いているわね」

 そのことを霊夢は指摘した。

「だって、子どもみたいで恥ずかしいでしょ」

 と、髪を払って耳にかけるアリスの瞳を見つめてみる。

(紫に似てるかも……)

 宝石のように美しく、妖しく、そして深い。

 底の見えない、海のような碧眼の瞳。

 簡単に己の腹の底を見せない、紫の瞳に似ていると霊夢は思った。

「お待たせしましたー! そろそろ打ち上げの時間ですよー!」

 拡声器を使って、河童たちが呼びかけると、わらわらと観客たちが集まって来て、霧の湖の湖畔は大賑わいとなった。

「あれは、魔法じゃないわよね? どうなっているのかしら?」

 アリスは、河童たちが使っている拡声器に興味を惹かれたようだ。

 論理が理解できない優れた技術は、魔法と大差が無い。

 外の世界では、優れた技術を持つ者たちが魔女だと恐れられ、迫害を受けた歴史もある。

「しかしなんだな。山の河童はなんでも作るな」

 感心しているようだが、魔理沙の声には、少々の嫉妬が混じっていた。

「よくわかりませんが、機械を作る工程が理解できれば、ほとんどのものは作れるらしいです」

 冷めた声色で、文。

 文と河童たちは、妖怪の山の仲間だ。

 ただ、はっきり言って河童たちはオタクで、内向的な者が多く、社交的な文とはやや相容れないのだ。

本当マジかよ……。そのうち、魔法も作り始めるんじゃないだろうな……」

「どうでしょうか? 連中、基本的には機械いじりにしか興味が無いみたいですから、魔理沙さんたちの専門分野を荒らすことは無いと思いますよ」

「あんまり便利なものを作らせるなよ」

「私に言われたって、どうしようも無いですよ。勝手に発明するんですから。それに、せっかく便利な道具を作ったなら、使わずにはいられないでしょう?」

「そんなんじゃ、外の世界と変わらなくなってしまうぞ」

 文明が発達している外の世界では、科学的根拠に基づいて、魔法や妖怪が否定された。

 幻想郷で文明が発達していったら、魔法や妖怪が否定されて、世界のバランスが崩れてしまうかもしれない。

 と、魔理沙は幻想郷の秩序を危惧した。

(違うわね)

 しかし霊夢は、魔理沙のそれは建前だと看破した。

 看破することができたのは、霊夢の能力もあるが、それよりも、自分と魔理沙を結んでいる縁を感じとっているからだった。

 直接、身の上話を聞いたわけでは無いが、つき合っていれば、なにも言わなくても見えてくるものはあるし、風聞というのは、聞きたくなくても耳に入ってしまうものである。

「始まりますよ!」

 ひゅーっ……と、光が天に昇っていく。

 それが霊夢の目には、天に召された人魂のように映った。

 どぉん……!

 胸の奥にまでこだまする大きな音が鳴って、夜空に大輪の花が咲く。

 観客から感嘆の声が漏れたときには、花は散っていた。

 また次の花が咲く。

 咲いては散っていく。

 ほんの一瞬だけ咲き、見るものを魅了していなくなる。

 美しい。

 そして、儚い。

 儚いから美しい。

 だから感動する。

 美しき弾は、人も妖怪も関係が無く、みなが心を打たれる。

(なにかしら……? なにか閃きそうな……)

 霊夢の胸に、予感が去来する。

 記憶のどこかに、とても大事な手がかりがあるような気がした。

「そうだわ!」

 思いついたと同時に、霊夢は駆けだしていた。

「おい霊夢!」

「ごめん魔理沙。先に帰るわ」

 すぐに形にしないと、また忘れてしまいそうだから。

(まったく……。なんでこんな大事なことを忘れてたんだか……)

 この日、霊夢は寝食を忘れて筆を走らせた。


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