儚き 霧川氷河の物語
俺は世界にとっていらない人間だ。
どうでもいい人間だ。
それは比喩ではなく、物理的にだ。
世界には、与えられた容量というものがある。
だがある日から、それがなぜか少なくなってしまった。
そのため俺という存在は、欠けたパズルのピースを埋め合わせるために、生み出されたのだ。
けれど本物のパズルと違って、ピースさえあればいいと思われているから、絵柄なんてどうでもいい。
元の欠けたピースになんてきっと寄せられていないし、周囲のピースとの調和なんて考えられていない。
それが、俺。
代わりの聞く存在。
だから、いつ消えてもおかしくない人間だった。
人間ではあるけれど、根本的に異なる生き物だ。
そんな俺は、とある物語の発生を観測できる。
その物語では、とある人物が主人公だった。
俺が通ってる中学の、同級生。
クラスメイトの少年。
光河満月。
奴は、リーダーシップを発揮して皆を率い、誰をもとりこぼさない完璧な主人公だった。
よくある異世界転移の物語でも、懸命にストーリーイベントをこなし続けた。
奴は、巻き込まれた物語の中でも、光を放ち続け、絶えず他の登場人物たちを照らし続けていた。
それは、俺も例外ではない。
奴は平等に、俺という存在も照らす。
その物語は、成功が約束された物語だった。
大した苦労もなく、行きつく先は必ずハッピーエンド。
なのに、俺だけはその恩恵にはあずかれない。
いつ消えるか分からないし、実際なんどか消えかけた。
きっといつか俺の立場には、まったく顔の違う誰かが居座るのだろう。
こんな悲惨な事があるだろうか。
この身にまとわりつく理不尽に憤った俺は、決意した。
世界から要らないと言われるこの俺は。
ただの現象でしかなく、生き物ではないと言われるこの俺は。
何かの拍子に消えかねないこの俺は。
だから世界が欠けている原因を突き止め。
欠けているものをどうにかして埋め合わせた。
遠い昔に世界からはじき出された神の一つをどうにか別の世界から呼び戻して、俺はその力を奪った。
神様であるならば、なんだってできる。
俺は主人公として物語をやりなおし、ハッピーエンドを享受していたはずのものたちから、俺が得られるものを得られるだけ手にした。
努力なら当然したさ。
スタートラインは平等だ。
だからこれは、おかしな結末なんかじゃない。
俺は理不尽な簒奪者なんかじゃない。
ただ、当たり前の権利を行使して、人間に与えられた努力を正当に磨き上げて、ハッピーエンドを手に入れただけ。
「嘘をつくな! 人を物のようにしか、思いをただの情報のようにしか見ていないくせに! お前の光は自分の都合の良い物しか照らさない! それは光を模したただの幻にすぎない!」
今日から俺の名前はライトだ。
みすぼらしい元主人公を見て、俺は耳を傾けずにその場を立ち去った。




