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1・デビュタントの日から始まった

新しい分野での挑戦です。

よろしくお願いいたします。

「そこの娘、待ちなさい!」


そう聞こえたと同時に、掴まれた腕を離そうとした勢いで、少女は後ろを振り向いたのだった。


それが全てのことの終わりに向けた、始まりの合図だったのかもしれない。


☆☆☆


本日は、デビュタントを迎える晴れの日。


ロズウェルト国の王城に備わる舞踏会場にて、年若い男女が社交界でのデビューとしてダンスを催す慣例行事である。


16歳から20歳くらいまでの、貴族家の子息令嬢を中心に集まり、盛大な祝いの場が齎される。


そんな華々しい場に、今年16を迎えるソフィア・クロウは、憧れのデビュタントを迎える為に、この王城の舞踏会場に立っていた。



王室専属の楽団がいつもの舞踏会とは違い、軽やかで、より華やかな音色を奏で、それに合わせて、若い男女が初々しく踊る姿はまさに、デビュタント!と言えるもの。


そんなデビュタントの子息令嬢の姿を微笑ましく見つめる紳士、淑女がダンスをする若い者達を囲んでいる。


緊張した一曲目とは違い、二曲目のダンスでは、少し余裕を見られだした者もいるくらいに、本日の行事も恙なく終わりそうだと、周りの大人たちはそんなことをそれぞれが思う中、デビュタントによるダンスの時間が終りを迎えた。


曲が終わると同時に、会場には盛大な拍手が鳴り響いたのであった。


その拍手を受けて、漸く、ダンスをしていた子息令嬢にも笑みが浮かびあがる。


誰もが、今日の日の為にと習ってきたデビュタント向けのダンスを踊り終え、安堵の様子になっている。隣に居合わせた者と軽く会釈する者や手を繋いで見つめ合う者など、素敵な社交界デビューになったと、皆が思うような和やかな場へと包まれていく。



そんな中、同じく先程、デビュタントの一員として、皆と共にダンスを踊っていたソフィアは、まだ、少し息が上がるのを誤魔化しながらも、早々に、ダンスのフロアーから外れて移動していた。


ずっと、憧れていた今日という日、この日の為に、苦手なダンスも沢山練習してきたソフィア。

招待状が届いた日から思いは募るばかりで、昨日なんて、なかなか寝付けなかったくらいであった。父と共に、王城に足を踏み入れてからは、色々な物が目に留まり、全てが驚きの連続であった。

そんな中、全身に緊張を走らせながらも、念願の舞踏会でのダンスを踊り切ったソフィアは、本当に、嬉しさで全てがいっぱいになっていた。


この初めての高揚感に浸りながら、また、憧れのデビュタントをやり遂げた思いを胸に、ソフィアは、本日、共に会場入りをしてくれた父のところへ向かうのである。


いつもあまり邸にも長く居ない父が、娘のデビュタントには時間を設けてくれ、また、ソフィアをエスコートしてくれたことも、今日のソフィアにとっては考えられないくらいの出来事であった。


ソフィアの家、クロウ子爵家は、小さいながらも領地を所有する貴族である。

父、ジェフィスは元々は侯爵家の次男として生を受けたが、婚姻を機に侯爵家が他にも持つ爵位の一つである子爵の地位を受け継ぎ、また、母であるリリスの生家となるバルコ伯爵家と共に事業をも起こして、子爵家としての財を成すなど、下級貴族としては、順風満帆の生活を送れるほどの恵まれた環境にあった。


ただ、他と違っていることも少しあって・・・


ソフィアはこれまで他の貴族家との接触を持たずに来たことである。


それは、偏に、母リリスが、婚姻後の社交を一切行っていないことが原因であった。


そんな母リリスは、娘のソフィアから見ても、口数も少なく大人しい人物だ。社交が嫌いなのかまでは良くわからないが、特段好きそうなタイプではないようにも思う、だが、貴族の家に生まれ、また、嫁いだ先も貴族ならば、社交は必要不可欠であると、ソフィアも家庭教師から教わっている。だが、リリスは社交は行っていない、特に、健康面に問題があるような感じもない、普通の貴族夫人に思う。


その一つに、教会や孤児院などには出向き、奉仕活動に力を注いでいるからだ。


なので、ソフィアもリリスと共に奉仕活動の場へは何度も伺い、多くの時間を過ごしている。


そんな活動の場でのリリスは、よく気が利き、また、よく世話をして、多くの人に慕われている。


ソフィアにとっては、母リリスは素敵な女性だと思えるくらいであった。


ただ、もう一つ気になるのは、政略結婚であったからだとは思うが、父ジェフィスと母リリスの仲も良くないようにも感じる。だからなのか、父からも社交に関しては母に何も咎めはないようだ。


2つ下の弟も、父母の関係が良くないことはわかっているようで、そんな我が家は、一見穏やかな家庭に見えて、冷えた関係になっている。


そんなクロウ家だからこそ、長子であるソフィアのデビュタントも期待はしてはいけないのだと、少し思っていた。


でも、15の年を半年過ぎた頃、リリスがソフィアのデビュタントを気にする発言が増えたことから、ソフィアの期待もここに来て大きく跳ね上がったのであった。


女の子の憧れとなるデビュタント。いくら貴族家同志の付き合いがない家ではあるが、貴族家の子とした教育や作法は、家庭教師などを雇い、施されている為、ソフィアの耳にも多くの情報は入っている。


母が意識を向けてくれたことで、自分も人並みに憧れの舞踏会でダンスが踊れるのかと思うと、ソフィアの心は大きく弾むのであった。


日が経つに連れ、デビュタントの準備にも入り出し、また、招待状が手元に届いた時には、父がエスコートをする話まで上がり、ソフィアは嬉しさで心が舞い上がっていた。


でも、この晴れの日も、やはりリリス自身は留守番を申し出、その言葉に、ソフィアは少し気落ちしたのである。


一体、母には何があって、社交を控えているのかと気にはとまったのであった。


でも、それは「自分には関係のないこと」であると、その時、思い直してやり過ごした。


だから、まさか、デビュタントの日に、「自分には関係のないこと」としていたことが、「自分にも関係すること」になるとは思わずいたのである。


デビュタントのダンスをやり遂げた思いに耽りながら、一刻も早く、普段、なかなか顔も合わせれない父の元へ戻り、ソフィアは、父からの今日という日に向けた言葉を貰おうと逸る気持ちを押さえながら、会場内の方々へ目を走らしている。


だが、先程のダンスにより熱気に包まれた会場は、人も多く散らばり、なかなか父の姿が見つからない。


見知った顔も、この会場にはいないのでソフィアは見当たらない父に対して、少し不安が募り出してきた時だった。


女性が声を張り上げて、ソフィアの腕を取ったのは・・・


「そこの娘、待ちなさい!」


振り向いた先にいたのは、ソフィアには知らない女性であった。



最後までお読みいただき、ありがとうございます。

いいね、☆印、ブックマーク、お気に入り登録などで、応援していただけると大変嬉しく思い、また、活動への励みになります。

どうか、よろしくお願いいたします。

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