第三話:飄々たる魔術師との出会い
シリウス様と運命の鍵を巡る旅を始めた私は、次なる手がかりを求めていた。
彼の剣に触れると、星の光が微かに反応するものの、それがどこを指しているのかは、私には分からなかった。
このままでは、星の書の魔力回復には繋がらない。
そこで私は、星の書に記された魔力の歴史に関する記述を探すため、学園の宮廷魔術師であるルナリス様の研究室を訪れた。
彼は歴代最年少で宮廷魔術師となった天才だ。
研究室の扉を開けると、そこは無数の魔法陣と、見たこともない奇妙な道具で埋め尽くされていた。
彼は、椅子に座り、つまらなそうに頬杖をついていた。
「やあ、図書館の番人さん。僕の退屈な研究室に、何の用かな?」
ルナリス様は、私を一瞥すると、すぐに興味を失ったかのように、窓の外を見つめた。
「あの……星の書が魔力を失ってしまって、その原因を探しに……」
私の言葉に、彼はふっと笑った。
「ああ、あの鈍い本かい? あれはもう、時代の遺物さ。新しい魔法の時代には、不要なものだ」
彼の言葉に、私はショックを受けた。
この国を支えてきた大切な書物を、彼は「不要なもの」だと切り捨てたのだ。
「そんな……! あの本は、王国の歴史そのものです!」
私が反論しようとすると、ルナリス様は再び、面白そうに私を見た。
「まあ、そう怒らないでよ。僕はただ、君の『反応』を見たかっただけさ」
彼は、私に近づいてくると、私の魔力に反応して光る胸元の星の光に、そっと指を伸ばした。
「ふむ……君の魔力は、随分と面白いね。
まるで、古い本の匂いがする。君自身が、星の書そのものじゃないか?」
彼の言葉は、私の心を乱した。
その時、私の魔力に反応して、また鷹の光が飛び出した。
鷹は、ルナリス様の研究室の机の上にあった、古い羊皮紙をくわえて、私の元へ戻ってきた。
「……おや、なんて無礼な鳥だろうね」
ルナリス様は、鷹を睨んだが、すぐにその視線は羊皮紙へと移った。
「これは……失われた古代魔法の設計図! なぜ、君の魔力はこれを見つけ出したんだ?」
彼の瞳に、初めて知的好奇心の光が宿った。
彼は、私の手を取り、興奮したように言った。
「うん、面白い! 君の魔力は、ただの本の番人じゃないね。
君は、僕が探し求めていた、新しい魔法の『鍵』だ!」
ルナリス様は、羊皮紙を奪い取ると、私を研究室へと引きずり込んだ。
「君の魔力を、僕の研究に協力してもらいたい。
その代わり、星の書の魔力回復方法について、君に教えてあげようじゃないか」
彼の言葉は、私を利用しようとする意図が見え見えだったが、私には拒否する術がなかった。
こうして、私は飄々とした天才魔術師と共に、運命の鍵を巡る旅を始めることになった。
彼の知的好奇心は、私を、そして星の書の謎を、どこまでも深く探求していくのだろうか。