第ニ話:寡黙で忠実な騎士
「運命の鍵」が眠る場所を示す星の光が、私の胸に飛び込んできてから数日が経った。
手がかりを求めて、私は夜な夜な、沈黙したままの「星の書」と向き合い続けていた。
でも、手がかりは見つからない。
その夜も、私は一人で書庫の奥深くにいた。
星の書から受け取った光は、微かに私を導いているようだったが、その力が弱すぎて、どこへ向かえばいいのか分からない。
その時、背後から冷たい声が聞こえた。
「夜間の無断立ち入りは、規則違反だ」
振り返ると、そこに立っていたのは、王国騎士団の団長、シリウスだった。
漆黒の鎧に身を包んだ彼の姿は、星の光が降り注ぐ中でも、威圧感を放っていた。
「シリウス様……! これは、その……」
私は、彼の厳格な規律を破ったことに、思わず身がすくんだ。
彼は、私の言葉を遮るように、静かに近づいてくる。
「図書館の番人とはいえ、夜間の独断行動は許可されていない。何をしている」
彼の視線は、私の手元にある「星の書」に向けられていた。
「星の書が……魔力を失ってしまって……。どうすればいいのか、探していたんです」
私の言葉に、シリウスは眉一つ動かさなかった。
「くだらない。そんな個人的な感情で、規律を破ることは許されない」
彼の言葉は冷たかったが、彼の言うことは正しかった。
私が勝手な行動を取ったせいで、もし図書館に何かあれば、私の責任になる。
私は何も言い返せず、俯くしかなかった。
その時、私の魔力に反応して、手から鷹の光が飛び出した。
鷹は、シリウスの周りを一回転すると、彼の腰につけられた剣を、まるで玩具のように突いた。
「……無礼な」
シリウスは、驚きもせず、ただ静かに剣を握りしめた。
しかし、その瞬間、彼の剣から、淡い光が放たれた。
それは、私を導いていた星の光と、同じ色だった。
「……シリウス様、その剣は?」
私は、思わず尋ねた。
シリウスは、警戒するように剣を鞘に戻す。
「これは、先代の国王から賜ったものだ。……それが、どうした」
彼が身につけているものが、星の書の「運命の鍵」の一つだと、私の直感が叫んでいた。
「その剣……探していた星の書の鍵なんです! 私に貸していただけませんか?」
私が剣に手を伸ばそうとすると、シリウスは私の手を取り、冷たい声で言った。
「軽々しく、王家から賜った剣に触れるな。君は、自分の無謀さを理解していない」
「も、申し訳ありません……」
ため息を付いた彼の言葉は冷たかったが、その手は、私を傷つけないように、そっと握られていた。
「貸すことは出来ない。……君の魔力は、私を導く。だが、君の力だけでは足りない。私が、君の盾となろう」
「ありがとうございますっ!」
シリウスは、私を解放すると、静かにそう告げた。
彼の言葉は、規律を守るための厳格さと、私を守ろうとする不器用な優しさが混在していた。
こうして、私は忠実なる騎士と共に、運命の鍵を巡る旅を始めることになった。
彼の規律正しい厳格さの奥にある、確固たる信念が、私を強く惹きつけていた。