『密かな想い ― 初夏の詩(うた) ―』
『密かな想い ― 初夏の詩 ―』
初夏の陽射しが、
ビルの壁面に反射し
私の瞳に柔らかなまばゆさを届けた
目を細めたその瞬間から、
今日という日が特別な輝きを放ち始めた
日曜日、市の中心街——
久しぶりに足を踏み入れる百貨店の並ぶ一角
歩道にはテラス席が並び
西洋風の喫茶店からは
笑い声とグラスの涼やかな音が
風にのって私の心まで届いてくる
その音はまるで
私の胸の高鳴りを奏でるメロディのようだった
口元が自然に緩み
幸福が胸の奥で膨らんでいく
ガラスの向こう、季節を纏ったマネキンたちは
まるで私の秘めた想いを祝福してくれるようで
陽の光の粒子が舞う中で静かに佇んでいた
「随分と混雑しているな……」
そう呟いた声に、笑みがにじむ
人の波にもまれても、今日は心が軽い
なぜなら、今日は特別な一日
——彼女の誕生日が、もうすぐそこにある
何を贈ろうか
その問いかけだけで心が弾む
彼女の笑顔を想像するたび
胸の奥で花火がきらきらと咲き、散り、舞う
この賑わいの中に身を投じることさえ
今日はひとつの冒険だった
彼女を想うたび、心が羽ばたく
それは蝶が空を舞うような軽やかさ
それでいて、しっかりとしたぬくもりを秘めていた
彼女の微笑みは、水面に落ちる雫のよう
波紋が静かに広がるたび
私の心もまた静かに喜びを増していく
百貨店の扉をくぐれば、
冷房の涼しさと香水の香りが
宝の洞窟のように私を包む
一階の化粧品売り場では
女性たちが鏡に向かって笑みを映している
彼女も、あの鏡のように
自らを見つめながら
美しさを確かめているのだろうか
そう思うだけで胸がぽかぽかと温かくなる
エスカレーターで二階へ昇る
装身具売り場には、夜空の星のようなきらめき
ショーケースの中で
ネックレスやイヤリングが静かに瞬いていた
「特別な人への贈り物を」
店員にそう告げる私の声も
どこか柔らかくなっていた
彼女の美しさは
どんな装飾品にも勝るけれど
それでも、彼女の笑顔を引き出せる何かを探す
その行為そのものが、私にとっての宝だった
小さなペンダントが目にとまる
月の形をした石が、銀の鎖にゆれている
「綺麗だね」と彼女が言うとき
その横顔は、まるで月光を湛えた静謐な絵画のよう
その幻影だけで、胸がいっぱいになる
——もっと探してみよう
きっと、彼女にふさわしいものがあるはずだ
足取りは希望を孕んで、さらに軽やかになった
三階の書籍売り場で
私は詩集の前に立ち止まる
愛を歌い、恋を紡いだ言葉たち
その行間に、私の想いが忍び込む
けれども、詩人たちの言葉よりも
私の胸に宿る言葉で伝えたい
風のように形を持たないけれど
確かに存在する、穏やかであたたかな想いを
彼女の声が、一日の光を連れてくる
彼女の存在が、私の世界を色づけていく
その奇跡に、ただ心が震える
四階の喫茶店に腰をおろす
窓辺から見下ろす街の流れは
まるで川のように静かに、力強く動いていた
その流れのどこかに、彼女がいる気がした
アイスコーヒーの涼やかさの中に
私は彼女の笑顔を思い浮かべる
それだけで、こんなにも満たされるとは
五階の雑貨売り場では
色とりどりの小物が並ぶ
マグカップ、ハンカチ、観葉植物
どれも彼女の笑顔を引き出してくれそうで
見るたびに胸が弾む
だけど、私が本当に贈りたいのは
形あるものではなく
共に過ごす時間
その笑顔を見つめる時間
声に耳を傾ける時間——
それは何よりも愛おしく、かけがえのない贈り物
隣の百貨店へ足を運びながら
心は歌い続ける
軽やかなリズムで、彼女への想いを奏でるように
市内の百貨店を巡り終えた夕暮れ
人の波に包まれながら
私は言葉も交わさぬ誰かとすれ違いながら
心だけは、遠く離れた彼女のもとへ
翼を広げて飛んでいく
夕陽が橙色に街を染めてゆく
この光景さえ、彼女への贈り物のように感じられる
足取りは軽く、胸は優しさに満ちて
私は家路についた
——今夜、彼女の笑顔が
夢の中に現れるだろう
それはきっと、
世界で一番美しい微笑みとなって
私の心を照らしてくれる
明日がまた来る
彼女への密かな想いを抱いて
静かに、そして鮮やかに
新しい日が始まってゆく