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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

二度目の人生も捨て子スタート

作者: 桝田光汰朗

前作品のラスト投稿から時間が経ってしまった……。


初と言っても過言ではないバトル展開があります。

もし読みづらい時はアドバイスなどをいただければ幸いです。


『人間生きていると何が起こるかわからない』


 これは中学卒業するまでお世話になった孤児院の先生がよく口にしていた言葉。

 小さいころから耳にタコができるほど聞かされた言葉でもあり、俺の好きな言葉の一つでもある。

 先生は「生きていれば良いことも悪いこともたくさんあるんだから、若いうちに死んだら損だよ」と言いながら教えてくれた。

 先生の言っていることはもっともだったが、小さい頃の俺は「生きていたら面白いことがたくさんあるのに、死んだら意味がない」という意味でとらえ、それを先生に話したらニコリと微笑んでくれたのを今でも覚えている。

 だから小学校で『親無し子』とバカにされても、中学校で『親に捨てられた奴』といじめられても、高校で『キモ孤児オタ』とバカにされいじめられても、いつか訪れるであろう「面白いこと」のために生き続けてきた。

 苦しい人生を送ること十七年目にして、ようやく面白いことは訪れた。それも死んだ後に。

 当初不謹慎にもワクワクした。死んでしまったというのにこれから面白い人生が送れるんじゃないかと。


「……ただ、ここまでとは思ってなかったよ」


 俺は今、身動きが全く取れない状況で森の中にいた。

二度目の人生。生まれてすぐに捨てられてしまいました。


「どうしてこうなったんだっけ……」


 ファンタジー系プロローグでありがちな言葉をつぶやきながら、こうなった原因を思い出す。

 それはまだ一度目の人生を送っていたころだった。









 高校二年に進級して二ヶ月がった六月のある日。

 俺たち二年三組は担任の真白(ましろ)(ゆき)先生が企画した親睦会を深める遠足に出かけていた。

 高校二年生にもなって遠足なんて、と思ってしまうが、この遠足のおかげで授業が潰れたことでクラスメイト達はものすごい乗り気だった。

 現在もなおバスの中で大はしゃぎしている。

 そんな中、数少ない不満組の俺こと優木(ゆうき)心太朗(しんたろう)は何かをするわけでもなく、静かに外の景色を眺めていた。

 そんな俺を見かねてか、隣に座っていた一人の女子生徒が友人とのおしゃべりを止めて声をかけてくる。


「優木君。楽しんでる? 体調とか悪くなってない?」

「……大丈夫。楽しんでは無いけど」


 隣に座っているのは遠藤(えんどう)優樹菜(ゆきな)さん。ウチの学校で知らない人はいないほどの有名人で、容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群とまさにラノベから出てきた王道ヒロインのような人で、学校にはファンクラブまで存在しているという噂がある。

 そんな彼女がなぜオタクで陰キャの俺の隣に座っているのかというと、いつの間にかこうなっていた。

 俺自身適当に座った席だったこともあり、隣に遠藤が座るかなんて予想にしていなかった。

 そのせいで、クラスの男子たちからは嫉妬の視線が今なお向けられていた。

 特に十亀(とがめ)海斗(かいと)のいるいじめっ子グループと、明徳(めいとく)王牙(おうが)のいる陽キャ軍団の男子たちからの視線が強い。

 まるで今すぐ俺たちと変われとでも言いたげない視線。


「……なんで俺がお前たちのために動かないといけないんだよ。面倒くさいし面白くもない」

「ん? 優木君、今何か言った?」

「気のせいじゃない?」

「そっか。もし話したくなったら言ってね!」

「ああ」


 それだけ言った遠藤は近くに座っていた仲のいい女子たちとお菓子を食べながら、楽しそうにおしゃべりを再開していた。


「なあなあ遠藤さん。俺も一緒に喋っていいか?」


 そう言いながら遠藤に近づいてくる十亀だったが、答えは遠藤たちのグループでは無いところから帰ってくる。


「こら十亀君! 運転中に席をたったらいけませんと何度も言ってますよね! 遠藤さんたちとお話したいのは分かりましたが、危ないので自分の座ってた席に戻ってください!」


 十亀に注意した真白先生。すでに何度目かもわからない十亀の席離れにしびれを切らし、今日一大きな声で説教していた。

 その姿に周りから笑いが起き、遠藤たちのグループも遠藤以外はみんなクスクスと笑っていた。

 遠藤は何も言わずに十亀を見ている。


「っ! ……ちっ!」


 恥ずかしくなってしまった十亀は、俺を睨みつけ舌打ちをして自分の席に戻っていった。

 俺が座った後に遠藤が席に着いたのだから、俺に舌打ちをされても困る。何より笑われたのは十亀自身の責任なのだから、俺に当たらないでほしい。

 十亀の嫉妬を見に受けながらほのぼの気分で窓の外を眺めていると、バスの運転に違和感を感じる。

 先ほどまでまっすぐ進んでいたのに、今は左右にぐらつきながら進んでいた。

 そこまで大きくないぐらつきのせいか、通路を挟みながら話している遠藤たちだけでなく、真白先生すらこのぐらつきに気づいていない。

 気のせいという可能性もあり、言うべきか悩んでしまうが何か起きた後では意味が無いため、先生に報告することにした。


「真白先生」

「鈴木君? どうしました?」

「あの、気のせいだといいんですけど、先ほどからこのバス左右にぐらつきながら進んでいるんですけど」

「左右にぐらつきながらですか。……確かに少し危ないかもしれませんね。少し様子を見てきます」


 そう言って先生が席を立ちあがった瞬間、バスが右の方へ大きく振らる。

 席を立っていた真白先生と後ろで立ちながらふざけていた十亀たちは振られた反動で倒れ込み、席に座っていた俺も反動で遠藤の方に倒れてしまった。


「す、すまん遠藤!」

「だ、大丈夫……きゃぁっ!?」


 今度は左の方に振られ、遠藤が俺の方に倒れ込んできた。

 倒れ込んでいた真白先生は座席で体を支えながら立ちあがっており、今度は倒れずに住んでいた。


「ご、ごめんなさい」

「大丈夫。怪我無いか?」

「う、うん。……きゃっ!?」


 再び右の方に振られるが、不可抗力とはいえ遠藤に抱き着いて背中に全体重を乗せていたおかげで俺たちが右に振られることはなった。

 ただ、突然の出来事に全員パニックになっており、先ほどまでにぎやかだったムードは既にどこにもない。

 そうこうしているうちに真白先生は運転席にたどり着いており、運転手の様子をうかがった後、焦るように声を荒げていた。


「すみません! 起きてください!! 居眠り運転は危ないです!!」


 先ほどから起きている左右への揺れは居眠り運転下が原因だということが発覚する。

 真白先生は何とか起こそうとしているが、左右への揺れが収まることはない。

 このままではいつ事故が起こってもおかしくない状況の中、真白先生は素早く自分の席に戻り、水筒をもって運転席へと向かう。

 水筒を開けた真白先生は運転席に水をぶっかけた。


「え、え? ———ああぁぁっ!?!?!?!?」

「え、きゃぁ!!!!」


 聞こえたのは2人の悲鳴。

 その瞬間俺たち全員の目に入ったのは、バスが崖に突っ込んでいる景色。

 一瞬。ほんの一瞬の出来事だったが、バスが落ちている瞬間は時が止まっているように感じ、バスは崖の下の地面に衝突した。

 それと同時に、視界が真っ暗になった。


「……ん」


 眠りから目が覚めるような感覚だが、眠気は一切なく瞼はすぐに開いた。

 最初に視界に入ったのは白い空間。周りには起き上がりつつあるクラスメイト達。その中で何よりも視線を集めたのは空中に座り頬杖をついている謎の女性。

 謎の女性は目を覚ます俺たちを小さく笑いながら見ていた。


「み、皆さん。大丈夫ですか!」


意識を取り戻した真白先生は、今いる場所や目の前にいる女性に気を取られることなく俺たち生徒のことの心配をしていた。

いつもならだれか一人は返事するのだが、今回は誰も返事しない。

全員が目の前にいる女性の方に気を取られていた。

 先生も俺たちの方を一度見て、皆が見ている方に視線を向けて女性の存在に気づく。

 真白先生が女性の方を見た時、女性は頬杖を解き立ち上がり下に降りてくる。


「皆さんこんにちは。私は神です」

「…………な、なにを言ってるんですか! ここはどこですか! 何かの撮影何ですか!?」


 急な神宣言に全員が困惑する中、最年長の真白先生だけはすぐに我を取り戻し謎の女性に声を荒げ質問を投げかける。

 先生の質問に我に返った生徒たちは辺りを見渡し、カメラを探し始めた。

 そんな生徒たちを笑いながら見ていた自称神は、説明を始める。


「フフフ、皆さん落ち着いてください。真白雪さんの質問に一つずつ答えましょう。まず何を言っているのか。そのままの意味で私はあなたたちの世界で言うところの神に当たります。ただ、地球の神ではなく異空間の神ですけどね。次にここはどこか。ここは異空間です。最後に何かの撮影か。残念ながら撮影ではなく現実で起こっている出来事です」


 三つの答えに再びざわつき始める。

 目の前にいるのは異空間の神。ここは異空間で、今起こっていることは現実という。にわかに信じがたい出来事。


「ふ、ふふふ、み、皆まだ理解できてないでござるか」

「あぁ? 何言ってんだよデブオタァ!?」

「ひぃ!!」


 全てを理解できたといったデブオタこと部太吉(ぶたきち)満志(まんじ)に十亀は睨みつけながら怒鳴る。

 それに興味を持ったのは他でもない異空間の神だった。


「ほぉ、今の起こっている現象だけでこの状況を理解できたんですか。では部太吉満志君。あなたの考えを教えてください」

「は、はいー。お、恐らくでござるが、我々二年三組は何かがきっかけで全員死んだでござる。なのにここにいるということは異空間の神様が我々の体を回収にこの異空間に閉じ込めたでござるよ」

「あぁ? なんでそんなことすんだよ!!」

「そ、そそそれは我々が異世界に召喚されるからでござるよ!!」


 異世界召喚という言葉に少なからずとも全員が驚きざわつく。

 数年前までは異世界召喚なんて誰も信じなかっただろうが、ここ最近で異世界召喚系作品は日の目を浴び始め、十代であればオタク以外でも少しの知識は持っているものになっている。


「ど、どうでござるか神様! 拙者の考察は!!」


 部太吉の一人称が我から拙者に変わっている。今の部太吉はかなり余裕がある感じだ。

 この考えに相当自信を持っていると見える。

 対する異空間の神は表情を変えることなく口を開いた。


「部太吉満志さん、お見事です。点数をあげるなら七十点というところですね」

「な、七十点でござるか。百点を狙っただけに悔しいでござるね」


 余裕が出てきた部太吉は緊張することなく話し始めていた。


「因みに残り三十点は何でござるか?」

「はい、それはこれからお話いたします。質問は最後に聞きますので静かに聞いてください」


 異空間の神は口の前で人差し指を立て、主に真白先生を見ながら注意を促し、説明を再開する。


「先ず部太吉満志君の説明であっていたところは皆さんが死んだということだけです」

「えっ!?」


 部太吉は最初の一部分しかあっていないことに驚きの声を出していたが、すぐに口をふさいだ。


「なぜそれだけで七十点なのか何名か疑問に思っているかもしれませんが、死んだことに気づけるのは素晴らしいことですよ。だって皆さん、自分たちが死ぬ前の記憶を思い出せないでしょ?」


 神のその言葉に体が冷める感覚を覚える。

 何を言ってるんだ、と思うが先ほど部太吉が「何かがきっかけで全員死んだ」といった時から、俺たちが何で死んだのか思い出せない。

 記憶に残っている最後の景色はバスに乗って景色を眺めていたシーンまで。


「皆さんが死んだときの記憶はパニックを引き起こさないため意図的に消させていただきました。ただ言えることは事故が起こり、皆さんが死んだということ。そして死ぬのは皆さんではなく本当は運転手だったということです」

「それはどういう……!?」


 驚きの真実に真白先生は口を開くが、神は再び口の前に人差し指を立て真白先生の方を見る。


「運転手が死ぬはずでしたが、運命が変わり運転手の代わりに皆さんが死んだということです」


 運命が変わっただけで死ぬ人間が変わった。

 その事実を素直に受け止められるのはこの場に何人いるだろうか。

 ほとんどが自分の帰りを待っている家族がいる。だが、運命が変わったことでその家族と二度と会えなくなってしまう事実。

 もう家族がいない俺にはあまりわからない感情だ。


「ではここからは部太吉満志君の説明を訂正していきますね。まず彼は『体を回収にこの異空間に閉じ込めた』と言いましたが、少し違い異空間に閉じ込めているのは皆さんの魂だけです。体の方は地球の事故現場に残されています」


 部太吉は「そっちでござったかぁ~」と悔しそうな表情を浮かべていた。


「最後に、彼は異世界召喚だと言いましたが、残念ながら皆さんには異世界転生をしてもらいます」


 今度は部太吉だけではなく、彼のオタク仲間も「そっちか~」と悔しそうにしていた。


「簡単な説明を終わらせていただきます。何か質問はありますでしょうか」

「はい」


 一番最初に手を挙げたのはやはり真白先生。


「真白雪さん」

「地球に帰る方法は無いんでしょうか」

「ありません」

「神様ならなんとかできなんですか!?」

「……できないことはないのですが、意味がないんです」

「それは、どういうことですか?」

「口で言うよりも実際に見た方が早いですね。ただ、子供たちには刺激が強すぎますのであなただけにお見せします。覚悟してください」

「いったいどういう。…………うっ!? おぉぇ」

「ユキちゃん先生!?」

「ちょっ! ユキ先生に何したし!」


 いきなり嘔吐し始めた真白先生に女子生徒たちが近寄る。

 一人の女子が異空間の神に問い詰めようとしたが、神は何事もなかったかのように答えた。


「地球のあなたたちに起こった悲劇を見せただけです。それほどに刺激が強い出来事があなたたちの身に降りかかりました。なので生き返るという考えは捨ててください」


 誰も生き返らせて、ということができない。

 自分たちよりも大人な真白先生が一瞬であそこまでひどい状態になる。これだけで戻る気持ちは完全に消えていた。


「他に質問はありませんか?」

「はい」

「はい、明徳王牙さん」

「あなたの言う通り異世界に転生するしかないということは分かりました。ただ私の知る異世界転生では貴族の家に生まれることができ、特別な力が貰えます。私たちにもそれに近い何かが貰えると思っていいのでしょうか」


 さうが明徳だ、と感心しておく。

 目の前で真白先生があんな目に遭っていたのに、すぐに次のことを考えている。

 明徳の質問にオタクたちが「当り前だろ」と言いたいばかりにニヤつくが、帰ってきたのは予想外の答えだった。


「残念ながらそんなものは無いです」

「なに」


 さすがの明徳も冷静さは保てなかったか、いつもよりも低い声が出ていた。

 オタクたちは予想外の答えにあたふたしており、このタイミングで真白先生が女子たちに支えながら話に戻ってくる。


「もらえないとはどういうことだ」

「そのままの意味です。私ができるのは異世界に転生させることだけで、あなたたちに特別なりからを授けるなんてことはできません」

「意味が解らない」

「なるほど、ではあなたに聞きます。あなたは自分から望んで明徳家に生まれてきたのですか?」

「当り前だろ」

「なるほど。あなたの考えは予想通りですね」

「なんだと」

「では、そうですね。……優木心太朗くんはいますか」

「……え、おれ?」

「はい、あなたです」


 急に名指しされて戸惑ってしまう。

 全員の視線がこちらを向いて少し気持ち悪い。


「あなたは確か親がいませんよね」

「……あぁ」

「ではあなたは自分から望んで子供を捨てる親の元に生まれたのですか?」

「んなわけないだろ。何バカ言ってるんだ?」


 親がいないと言われたとき笑っていた連中がいたが、俺が神に対し暴言まがいな言葉を返すと、驚きの表情を浮かべていた。


「では望んで生まれたわけではないと」

「そうに決まってるだろ。そもそも望んで生まれるって何だよ。馬鹿なのか?」

「おい、それはどういう意味だ」


 神と俺の話に突っ込んでくる明徳。声は冷静だったが表情は完全に激おこだった。

 だが、この際だから包み隠さず話すことにする。


「どういう意味も何も、自分で生まれる場所を選べるわけがないだろ。もし自分で生まれる場所を選べるんだったら、この世に『親ガチャ』って言う単語は存在しないし、全員お金持ちで裕福な家を選ぶだろ。少し考えればわかることだ」

「フフフ、あはは! 君の言う通りだよ、優木心太朗くん。自分で親を選ぶことはできない」


 神は先ほどまでとは違い、愉快に笑い始める。心なしか口調も少し変わっている。


「それと君はいいことを言ったよ。『親ガチャ』まさしくその通りだ。君たちはこれから親ガチャをすることになる。もしかしたら前世よりも良い親に巡り合えるかもしれないし、前世よりも悪い親に巡り合うかもしれない」

「ち、チート能力は無いんですか!」


 今度は部太吉の仲間のオタクが声を荒げて質問する。


「そんなものないですよ」


 口調が戻った。


「あなたたちの言うチート能力というのは世界を破壊しうる力のことです。そんな能力ポンポン渡すわけないじゃないですか。ただ一つ言えるのは才能と努力、後は運次第で強くなることができるということです」

「そ、そんな……」


 質問したオタクことガリオタの細道(ほそみち)長門(ながと)は絶望したかのように膝をついた。


「あ、一つ言い忘れていましたが、前世の記憶は引き継いで転生しますので、努力の形次第では前世以上の活躍ができます」

「はい! 異世界に魔法はありますか!」

「あります!」


 魔法という言葉に全員が興味を示す。

 地球ではフィクションだったものがノンフィクションになる世界。

 死んだだのチートがないだの親ガチャだの色々言われたが、魔法があるというだけでその世界にほとんどが興味を示すことになった。


「では最後です。質問がある方はいませんか?」

「はい」

「おや、もういいのですか?」

「はい。生徒の前でいつまでも醜態をさらせません。それにもう生き返らせてとも言いません。」

「なるほど、では真白雪さん」

「転生してもこの子たちに出会うことはできますか?」

「……それは私にはわかりません。ただ、あなたの思いと努力次第で出会うことはできると思いますよ」

「なるほど、分かりました」


 先生は納得したのか、それ以上は何も聞かなかった。


「では皆さんを転生させますが、()()何か言いたいことはありますか?」

「皆さん。私は皆さんを見つけるために異世界に行っても努力します。なので皆さんも、異世界で自分のやりたいことを見つけて頑張ってください!」


 それは真白先生としての最後の言葉。

 俺たちを鼓舞するために捻り出した最高の言葉。


「フフフ、あはは! 見事だったよ真白雪さん。……では転生させます。第二の人生、幸有らんことを!!」


 神がご機嫌になると同時に、光が俺たちを包み込み、再び視界が暗くなった。


「んんっ!」


 目を開くと視界に入ったのは風に揺られる大きな木だった。


                   ☆


 今一度状況を整理しよう。

 地球で死んだ俺たちは異空間の神の力によって転生させられた。転生時のチートなどは無く、生まれは完全にランダム。

 そして目を開けたら大きな木の下に俺一人。力が全く入らず、動かすことができない。あの神は前世の記憶を引き継ぎ生まれ変わると言っていた。

 体の感覚で仮定するなら、俺は生まれたばかりという結論が出る。


「(……詰んでね)」


 明らかに詰んでいる。

 まず俺は生まれたての赤子。次に周りには誰もいない。

 つまり俺はこの大きな木の下に捨てられたということ。そして、生まれたばかりの俺が大きな木の下に捨てられたらどうなるか。

 答えは単純。飢えて死ぬ。つまり餓死するということだ。


「(声も出ないし、体を動かすこともできない。前世の記憶があるおかげで考えることはできるが、間違いなく死へのカウントダウン始まってるじゃん)」


 このまま死んでしまうのかと、ほんの少し覚悟を決めた時、異世界転生系の作品にある一つのパターンを思い出す。


「(この場面。なろう系の展開だと、なんかすごい人が俺を見つけて育ててくれるパターンじゃね? もしそうなったら、何をしようかな)」


 その考えが出ると急に生に対しての希望が見えてきた。

 先ほどまで焦りで目の前のことしか考えられなかったが、今は無事に助かったら何をしようかと先のことまで考える余裕が出てきた。

 気づけば異世界に転生してから一週間が過ぎていた。

 最初の一日は「まだ来ないなー」と心の余裕があったが、二日目は「……まだかなー」、三日目は「まだ来ないの?」と一日経つにつれ心の余裕がなくなっていき、気づけば一週間が経過していた。

 なお、一週間経過しても誰かが来る気配は全くない。

 ただ、代りと言ってはあれだが、俺は不思議な発見をした。


「(全然お腹空かない)」


 一週間たったのに未だに空腹を感じない。

 それどころか常に腹八分状態の感覚がある。

 最初は前世で孤児院を出た後の貧乏暮らしで空腹に対する体制がついているのかと思ったが、流石に一週間となると疑問を持つ。


「(不思議な感覚。だけどこれは不幸中の幸いだな。おかげで餓死の可能性が薄れた)」


 とはいえ完全に安全が保障されたわけではない。

 今なお体を動かすことはできないし、しゃべることもできない。

 ここは異世界。モンスターがいてもおかしくないし動物が襲ってきても不思議ではない。


「(他のみんなは安全感じで生活してるのかな。いきなり森スタートは面白かったけど、そろそろ不安になってきた……)」


 今後に対しての不安と、少しの楽しみを胸に秘めながら、誰か来てくれるのを待つ。

 しばらく空の景色を眺めていると、異世界に転生してから約一ヶ月が経過した。

 その間、俺のもとに誰か来ることはなかったし、腹が減ることもなかった。ただ不思議なことに何も栄養を取っていないはずなのに、俺の体は成長していた。

 転生したばかりのころは動かすことができなかった腕を、今は上にあげることができる。声に関しても言葉は喋れないが発音をすることはできる。

 一ヶ月前から掛けられていた毛布が少し小さく感じることで、身体の成長を感じることもできた。


「(いったいなぜ、という疑問は残るけど、深く考えたところで答えは出ない。今はとりあえず、しっかり成長出来た後のことを考えよう!)」


 疑問を残しつつも、成長できる喜びを感じ、早く大きくなれるのを待つことにした。


 起き上がれない期間は空を見ながら体がなまらないように動かしていると、早一年が経過した。

 その間、ここに誰かが来ることはなかったが、大きな発見としてここは安全地帯というのが分かった。

 というのも、転生して半年たった頃、森に大きなイノシシが現れ「俺の人生もここまでか」と覚悟を決めた時、こちらの様子をうかがう猪だったが、何かに怯えた様子で去っていった。その後もオオカミやクマが出現したが、イノシシと同じようにおびえながら去っていく。

 その時、今俺がいる場所はこの森唯一の安全地帯だと理解した。

 それによりこの場で死ぬのではないかという不安がなくなった俺は、大きくなった体を動かし、ようやく俺が入っていたかごから出ることができた。

 立つことはできないが、ハイハイは何とかすることができる。


「(しばらくはこれまで寝転がっていた分の運動をするとして、しばらくしたらこれからの生き方や目標について考えよう。今はとりあえず、……眠い)」


 久しぶりの運動で張り切ってしまった事もあり、一気に眠気が襲ってきたため、かごの中に戻り睡眠をとることにした。


 異世界に転生してから早七年。

 一年目はハイハイだったものが、今では立ち上がり、走ることまでできるようになった。

 いまだに一度も食事をとっておらず、走るようになれた当初は「周りにいる動物を倒してご飯を食べよう」という考えに至ったが、この森の動物はおかしなことに倒しても死体が残らなかった。かわりに体内から石を落として灰になって消える。

 その瞬間、今まで見てきた動物はモンスターだと瞬時に理解した。

 最初は俺の知る動物ではないということに恐怖心を覚え、木の下で怯えながら過ごしていたが、徐々に「楽しくない」という感情が沸きだし、いつしか、一日一討伐を掲げる生活を送っていた。


「普通に喋ることもできるようになったし、暫くはこの森にとどまるとして、もう少し経ったら森の外にも行ってみよう!」


 今後の目標が決まったところで今日の活動を終了する。


 異世界に転生して十二年。

 現在俺は三匹のモンスターたち戦闘をしていた。


「今日戦いを始めよう!」

「アオォォォォン!!」

「オオォォォォォ!!」

「フゴッ!!!」


 この森にはいくつもの群れがあるが、その中で各地方を収めている群れがあり、今俺が戦おうとしているのはその群れの長たちだ。

 東を収めている狼の群れ。長は片目が隻眼の黒い狼で、他の狼が体調一メートルほどなのに対し、長は二メートル以上ある。

 南を収めている熊の群れ。長は顔や体にいくつもの傷を覆っている体長三メートル以上ある熊。熊は群れないと聞いたことはあるが、異世界の熊は百近くで群れていた。

 西を収めている猪の群れ。長は額に大きな傷を持っており、体長は他の長と比べ一メートルほどしかないが、目つきが鋭く歴戦の猛者だということがわかる。

 そこに俺を含めた四人で争っている。

 普通なら一撃食らったところで、俺の体は粉々になっていてもおかしくないが、生まれつき丈夫な体なのか、傷を負うことはあっても致命傷になったことがない。


「ふぅ」


 一息吐いて戦闘姿勢を取ると、早速目の前にいた猪が突っ込んできた。

 それを見た狼は熊に飛びつき、熊は狼に攻撃する。

 猪の攻撃は一直線に突っ込んでくるため横に回避する。まさに『猪突猛進』。

 攻撃をかわされた猪はこのまま走れば木にぶつかる。だが普通の猪とは違うのが西の猪。

 木にぶつかる直前、木の方に飛び直撃を避ける。それだけでなく、その木を足場にすることで再び俺の方に突っ込んできた。今度は初撃よりも速い速度で。

 後ろを振り向いた時にはすでに二度目の突撃に入っており、先ほどみたいに避ける余裕が作れなかった。このままでは直撃し、かなりのダメージを受けてしまう。

 だが既に次の手は決まっている。


「ふぅっ!」


 飛び込んでくる猪を右手で殴る。振り向いた際にできた遠心力を生かして。

 顔面左側に直撃した猪の体は左側に飛んでいき、今度は体が木に直撃した。

 体勢を整え直すまで時間がかかる猪から警戒を解き、俺たちの後ろで争っている狼と熊の方を見ると、いつの間にか俺の真後ろまで来て戦っていた。

 急いで体勢を整えようとするが、そうはさせまいと狼が熊の腹を足場にして飛び込んでくる。


「あうっ!」

「くっ!」


 突然の攻撃に対応することができず、狼の攻撃をまともに受けてしまう。

 高い威力に体の置きさも相まってかなりのダメージを受ける。

 ただ、俺に攻撃したことにより狼に隙が生まれてしまい、腹を足場にした熊が右手を振りかざそうとしていた。

 このままでは狼に大きなダメージが入ると思われたその時、左側から一頭の猪が攻撃態勢に入ったことで隙が生まれた熊に突っ込んだ。


「ぐおっ!!」


 猪はそのまま熊を大きな岩に押し付けた。

 その隙に狼は体勢を立て直そうとしていたが、後ろから顔面に飛び蹴りをくらわす。


「きゃうっ」


 体を飛ばすことはできなかったが、空中でバランスを整え狼の腹を左足で蹴り上げる。


「おっも!」


 あまりの重さに少ししか浮かなかったが、すぐに左足を地面につけて右回し蹴りで体ごと蹴り飛ばす。

 攻撃がヒットした瞬間血を吐きながら狼の体は何度も地面に叩きつけられながら飛んでいった。


「フゴッ!」

「チッ!」


 体勢が整っていないのをいいことに猪が突っ込んでくる。

 体勢を立て直す時間がないため、ぎりぎりのところまで引きつけ、当たる直前、左足で跳躍し、突進してきた猪のケツを右足でけり飛ばす。

 後ろからの攻撃を受けた猪は顔面を引きずりながら木に直撃した。


「よしっ! ……ッ!? しまっ!!」


 作戦が上手く行ったことに気が緩み、すぐそばまで来ていた熊の存在に気づけなかった。

 熊は頭の上で両手を構えすでに振り下ろし始めていた。

 避けることも反撃することもできないと一瞬で悟り、頭上で両手をクロスさせてガードする。


「がはっ!」


 だが、大きな巨体から振りかざされる攻撃は予想以上に威力が高く、体ごと地面に叩きつけられる。

 急いで起き上がろうと仰向けになるが、先ほどの攻撃で両腕が痺れ起き上がることができない。

 熊は既に次の攻撃の準備に入っており、視界に入ったときにはすでに上空に飛んでいた。

 上空に飛んだ熊は俺の腹めがけて足を振りかざす。

 避ける手段がない俺は覚悟を決め熊の攻撃を受け止める。


「くっ! ガハッ!!!!」


 覚悟はできていたとはいえ、熊の巨体にのしかかれ大ダメージを受ける。

 丈夫な体だからよかったものの、前世の体だったらすでにお陀仏だった。

 再び上空に飛び攻撃をしようとする熊だったが、狼が飛びつき上空で受け身を取ることができない熊は地面に背中を叩きつけられる。


「アオォォォォォォォォン!!!」


 勝利の雄たけび。

 完全に伸びきっている猪に、動けそうにない人間の俺、最後の一撃で伸びてしまった熊。

 決着がついた。

 今日の勝利は東の長の狼だ。


 決着がついたことで、近くで戦況を見守っていた各群れが戦いの場に入り、それぞれの長を回収する中、今日の勝者である狼は起きられないでいる俺を口にくわえ、森で一番大きい木のところに向かい、そこに俺を投げ捨てる。

 群れを持たない俺が負けた時の恒例行事だ。

 俺を届けてくれた狼はすぐに自分の群れの元に戻っていった。


「はぁ、今日も負けたか」


ここ最近の勝率は俺が一割なのに対し、他三長が三割。しかも俺の勝利は三長のうち二匹が倒れ、疲労困憊の一匹にとどめを刺すという、勝利とは言い難い勝ち方。


「……この森を出る前には圧勝しておきたいな」


 体が丈夫とはいえ、受けたダメージは小さくない。今日はその場で睡眠をとった。

 それからさらに月日は流れ、ついに異世界に転生して十四年たった。

 十四歳になった俺は、身長百七十四センチと前世と同じくらいの身長まで成長した。体重は分からないが、そこまで重い感覚は無い。


「……そろそろか」


 今日は月に数回の決闘がある日。

 十二歳の頃まではぎりぎり勝てるくらいだったが、十三歳に第二成長期が来て以来負ける回数が極端に減り、十四歳になった今、負けることがほとんどなくなった。

 特に過去三回は三匹相手にほぼ無傷と圧勝に近い状態。

 おそらく今日が最後の戦いの日になる。


「……最後は絶対に勝つ!」


 気合を入れて戦闘が行われる広場まで行く。

 俺が広場に着くころにはすでに各群れが到着しており、戦いが行われる広場には三長が横並びに俺を待っていた。

 東の長の狼。すでに五メートルを超えるその巨体に過去何度も苦しめられた。大きくなるにつれて的が広くなったと楽観視していた当時の俺を殴りたい。

 南の長の熊。体調十メートルを超えるその巨体は既に顔が森から飛び出している。大きくなるにつれ足元がお留守になったと侮っていた当時の俺を殴りたい。

 西の長の猪。他二長とは違い、猪だけは隊長が大きくなることはなかったが、スピードが出会った時の数十倍上がっている。身長が変わらないことを侮っていた当時の俺を殴りたい。


「さて、三長とも気合十分って感じだな。悪いが今日の戦い俺が勝ったらこの森を出る。最後も勝たせてもらうぞ」

「アオォォォォォォォォォォォォン!!!」

「オオォォォォォォォォォォォォッ!!?」

「フゴォッ!!!」

「さぁ、始めようかッ!」


 俺が戦闘態勢に入ると同時に三匹はそれぞれ御散らばった。

 ただし、これまでとは違い、俺を中心に三角形で囲むように散らばる。


「…………なるほど。そう来るか。いいよ、相手になってやる!」


 三長の狙いは三対一。俺に勝たせないつもりだ。

 卑怯なんて言わない。

 最後の戦いにふさわしいし、これで俺が勝てば名実ともにこの森の王者になることができ、快くこの森を出ることができる。


「フゴッ!」


 最初に攻めてきたのは猪。鳴き声がすると同時に上に飛んだ瞬間、猪と反対側の木が折れた。その数秒後にドゴンッという音が森に響く。

 木の折れた音ではない。猪が木にぶつかった音だ。


「相変わらず音が遅れてやってくる。どういう原理だ?」

「ガウッ!」


猪を交わした後、右側にいた狼が俺の右腕めがけて噛みつきに来るが体をひねらせ攻撃をかわす。

 あのまま攻撃を受けていたら間違いなく右腕を食いちぎられていた。


「あれ、熊はどこに。…………ッ!?」


 二匹を相手にしていると、いつの間にかいなくなっていた熊。

 空を見上げると、上空に飛んでおり足をあげて攻撃姿勢に入っていた。

 すぐにバックステップで攻撃をかわす。

 俺に当たらなかった熊の攻撃は地面に衝突すると同時に大きなクレーターを作り上げる。もし両腕でガードしていたら、骨が完全に砕けていたかもしれない。

 それにしても完全に連携している。

 こんな姿を群れの連中に見せてもいいものかと、外で待機している群れの連中の顔を見ると、全員が覚悟を決めている顔をしていた。


「…………なるほどな」


 こいつらは長だけでなく群れ全体で俺を倒しに来ている。

 本来なら長が協力してたった一人を倒そうとするなんて恥でしかない。それこそ長としてのプライドを完全に捨てることになるし、群れに対しての示しがつかない。

 何より、この森のトップが俺だということを長が決めつけていることになる。

 もし群れの連中が何も知らなければ、驚愕や怒り、困惑の表情が出ているはず。だが、群れの連中は「分かっていた」「覚悟はしている」といった表情をしている。


「あはっ、嬉しいねぇ。俺を強敵と認めてくれている。三長が協力して俺を倒しに来ている。群れすらもこの戦い方を黙認している。いいな。この森での最後の決闘。かかってこい、全力で相手になってやる」


 ここからは俺も攻撃をする。

 地面を蹴り熊のいる方に向かう。

 この中で一番厄介なのはこの熊だ。

 唯一両手が使えるこいつは、速度を生かした猪や機動力を生かした狼と違い、攻撃のバリエーションが多い。


「ふっ!」

「ぐおっ!?」


 大きい相手と戦うときの定石通りまずは足を狙う。

 一撃目で転ばせるつもりだったが、耐えられる。


「ならもういっぱ——」

「ガウッ!」

「フゴッ!」

「うおっ!?」


 二発目を入れようと逆足の方に攻撃を仕掛けようとすると、狼と猪に邪魔をされる。

 熊の最大の弱点である足元をこの二匹がカバーしている。

 隙ができた瞬間一気に畳みかけたかったが、二匹の妨害により仕留め損ねた。


「チッ。先に二匹から仕留めるか?」

「ハウッ!」


 俺が次の手を考えていると、狼が俺たちの周りを囲うように走り始める。

 徐々にスピードが上がっていき、狼の形は見えなくなり黒い影のみが俺の周りを走っているように見える。


「フゴォッ!!」

「ッ!? 危なっ!! ……なっ!?」


 狼に注意が向いている俺に猪が突っ込んでくる。

 最初からトップスピードの猪に驚きながらも攻撃をよけた瞬間、驚きの光景が目の前に広がっていた。

 猪は本来一度突進したら向かいの方面に足場がない限り方向転換ができない。だが猪は円の中で何度も何度も方向転換をしながら突っ込んできている。

 いったいなぜ……っ!


「そうか、狼の体を足場にっ!」


 それしかない可能性たどり着くが、簡単に考えが思い浮かばなかった。

 猪が方向転換をするとき、その時に使った足場は必ず穴が開くか粉々に壊れている。

 それほどに猪の突進は強力で方向転換をするときの力は計り知れない。

 それをまさか狼の体で行うなんて、思いもしなかったし考えつかなかった。なぜならこのコンビネーションは常に足場となる狼への疲労が大きすぎるから。

 猪が方向転換するたびに狼は大きなダメージを受け続けているということ。

 普通なら思いつかないし思いついたとしても実行しない。

 それを実行する度胸に恐怖を覚える。


「厄介だな。目で追うのにも限界だぞ。熊がいない! また空……いない? ……ッ!?」


 コンビネーションに気を取られ熊を見失う。

 また空からの攻撃かと猪たちに注意しつつ上を見ると、上空に熊の存在を確認できなかった。

 見失ったと思った次の瞬間、地面に穴が開き、熊が右腕を振り上げながら飛び出してきた。


「クッ!」


 したからの突き上げで上空に飛ばされる。

 そこにできた隙を猪たちは見逃さず、先ほどまで円の中で走り回っていた猪が上空にいる俺めがけて真下から突進をしてくる。


「クソッ」


 上空で体勢を整えることができず、猪の攻撃を直で受けてしまう。

 更に上へと飛ばされル。

受けた攻撃のダメージにより体勢を整えることができないまま最高到達地点に到着すると、自然と体が下へと落ちていく。

 下を見ると熊が攻撃の体勢に入っていた。


「(こいつをまともに食らったら、負ける!!)」


 頭で考えるよりも先に体が防御態勢に入る。

 地面に直撃する直前に熊のパンチが飛んでくる。その間に両腕を入れることでなんとかガードをするが、勢いだけは殺すことができず、周りにある木に背中から直撃した。


「いてて~。マジで頑丈で助かった」


 かなりの攻撃を食らったのにまだ戦える。

 だけどこれ以上のダメージは体がもたない。


「……残念だが、次で終わらせる!」


 相手側もすでに満身創痍。

 狼は猪の足場になったときのダメージがかなり残っている。

 熊は最初から全力ですでに息切れを起こしている。

 猪に関しては連続で全力突進をしたことにより、息切れを起こしている。

 かくいう俺も長たちの全力攻撃を何度も食らっているため、すでに限界が近い。

 次の攻防が最後になる。


「行くぞ!」


 三長めがけて地面を蹴る。


「フゴッ!」

「お前から来るか、猪ィ!!」


 猪が真正面から来るのに対し、俺も真正面から受ける。

 猪とぶつかるタイミングで右拳を繰り出し、猪を殴る。


「あばよ」

「フゴッ?!」


 右拳を振り抜く。

殴られたい猪は地面に叩きつけられ、血をはきだしながら気を失った。


「ガウっ!」

「次はてめぇか、狼ィ!」


 猪とは違い左右に揺さぶりながら近づいてくる。

 悪いが、馬鹿正直に振り回される気は無い。

 狼が左から右に移動する瞬間、俺も狼が移動する場所向けて地面を蹴る。


「ハウッ?!」

「じゃあな」


 すでに俺がいるのに驚く狼。その隙を狙い右足で頭を蹴り落とす。

 顔を地面に叩きつけられた狼は既に動くことができない。


「ガウッ!」

「悪いがすぐに終わらせるぞ」


 残り一匹になった熊は焦りが出たのか、両腕を大きく振りかぶった。


「焦ったか」


 大きくできた隙を見逃さないために、地面を全力でけり一瞬で熊の腹の前まで飛ぶ。

 一瞬の出来事に熊は驚きの表情を浮かべていた。


「ガウッ?!」

「楽しかったぜ」


 熊の腹めがけて右拳で殴り飛ばす。

 殴られた熊は体を浮かせ。いくつもの木をなぎ倒しながら自身の群れが待機している場所まで飛んでいった。


「勝者、俺!」


 勝利宣言をして、最後のたたきに終止符を打つ。

 決闘が終わったことで待機していた長の群れが、すでに動けないでいる長を連れて帰り始める。

 最後に三長を見送り俺も自分の住処へ帰る。


「明日、ここを立つか」


 出発日を決め、森で最後の一日を過ごした。


 翌日。

 天気快晴で最高の出発日よりになる。


「さて、行こうか」


 荷物などは無いため、起きてすぐにここを発とうと森の外側に向かう。

 しばらく歩いていると、北の方には生息していないはずのモンスターたちの姿が見えた。

 そのモンスターたちは左右に一列ずつ並び、お互いに向き合っていた。


「何してんだお前たち」


 そのモンスターたちは狼に熊、猪の三種。東・南・西の群れだった。

 何の真似だ、と言おうとしたとき、種族に関係なく並んでいる姿を見て一つの答えにたどり着く。


「見送りに来てくれたのか」


 モンスターたちは何も答えない。ただただ真正面を向いていた。

 俺もこれ以上は何も言わずにモンスターたちの花道を歩いていく。

 どこまでも続いているように見えた花道は森の外に近づくに連れ、終わりを迎える。

 最後に並んでいたのは東の長の狼。南の長の熊。西の長の猪の三長。


「お前ら、じゃあな」

「アオォォォォォォォン」

「オオォォォォォォォォ」

「フゴッ」


 最後に挨拶をかわして森の外に出た。





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