ダイガサイザン地区2
俺たちはまたダイガサイザン地区に入っていた。寂れた食い物屋で食事を済ませた俺たちは宿を探して見つけた宿に泊まることにした。今回は部屋は別にしてもらった。シトは金がかかるとゴネていたが、また前回みたいな展開にもなりかねないので俺のわがままを聞いてもらった形だ。
これで少しは死亡フラグを回避できただろうか。
俺は用意された部屋に入り、即座にベッドに倒れ込む。
疲れが溜まっていたのだろう。
俺はそのまま眠ってしまった。
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カンカンカンカンカンという金属同士がぶつかる音で目が覚めた。
外が騒がしい。今は真夜中のはずだが、外は騒然としていた。
俺が飛び起きたと同時に部屋の戸が叩かれた。
俺はすぐに扉を開けた。
シトが焦ったような表情を浮かべて扉の前に立っていた。
「何があった?」
俺はシトに問いかける。
「奇襲だ!逃げるぞ」
俺は「え?」と言ったが、シトは俺の手を取り走り始める。走るたびにシトの尻尾が腕にあたり少しこそばゆい。
「待て待て!何があったんだ」
俺は走りながら問いかける。
「わからん!だが何者かが攻めてきた。単騎でだ。かなりの手練れだぞ。関門が突破された!」
断片的ではあるが、シトは的確に答えてくれた。
俺の脳裏に覆面の男がよぎる。
あれは確かに桁違いの戦闘力を持っていたが、まさか俺を追って攻めてきた?
どうやって見つけたんだろうか。
とりあえず逃げなければ。
俺はシトを追いかけるように走る。
人々が逃げ惑う中を縫うようにかける。
刹那、ヒュンという音がした。
俺は咄嗟にシトを突き飛ばしていた。なぜ突き飛ばしたのかわからない。そうした方がよさそうだったからしたのだ。
瞬間俺の視界がぐらりと揺れて地面に激突する。
とてつもない痛みが右腹部を襲った。
「あああああああああああっ」
俺はあまりの痛みに絶叫をあげる。
四つん這いの姿勢のまま俺はゴロリと回転し空を見上げる姿勢になる。俺は必死右手で患部を押さえるがあまりの痛みで意識が飛びそうになる。右手にドクドクと伝わる振動は血管なのかそれとも血なのか見当もつかないが俺の右脇腹は無事ではないことだけは理解できた。
「痛い!痛い!痛い!」
俺はあまりの痛みに脂汗と鼻水を流しながら絶叫する。それも束の間、口の中に鉄と血生臭い香りが広がり、俺は嘔吐してしまう。
「ゲボッゲハッガポッ」
「あのる!!!!!」
突き飛ばしたはずのシトが俺に駆け寄る。俺は涙と自分の血でシトの姿を正確には視認できなかったが、シトの悲痛な表情が今の俺の状態を物語っていた。
俺は「こひゅぅこひゅぅ」と必死に呼吸するが次々と食道を伝って血反吐が口の中に供給される。幾度となく吐き出して気道を確保しようとするがうまくいかない。
失血によるけたたましい耳鳴りが俺を襲い意識が遠のく。
俺…また死ぬんだ…また…でも…シトが無事で…よかった…。
何が起こったかはわからないが俺はシトが無事なことに思わず安堵し、そして、死んだ。