エチチ・シト3
「ゲホッ…」
俺は暗い場所で目を覚ました。妙に埃っぽいこの場所は今はもう住み慣れた場所と言っても過言ではない。
「またここか…」
俺はため息をつきながら今度はドアを開ける。
そこには見慣れた光景が広がっていた。
ドラゴンは飛んでいるが襲ってくることはないので俺は構わず前進する。
向かうはエチチ・シトのいる方角だ。
なぜ向かっているのかと言われれば、覆面の男にどうせ殺されるからだ。なぜ殺されたのか全くわからないが。
てなわけで消去法のエチチ・シトとの相対だ。
あいつは単体では弱いが能力を使えばレベルが変わる。ここはチャームを使ってないうちに殺されない共存の手段を見つける必要がある。
正直なところ単体ならば俺でもあいつには勝てる。でも、俺は人を殺したくない。
さてどうするか….。
俺は歩きながら思考を巡らせる。
だが考えがまとまるはずもなく、俺は2度目の邂逅を果たした。
小麦色の狐耳とふさふさの尻尾が見えた。
少女はシクシク泣いていた。
こんな可憐な少女が俺を殺すんだなと俺は冷静に考えていた。
俺はエチチ・シトに近づいた。
シトの耳がぴくりと動き俺の存在に気づく。
目尻に涙を浮かべた表情がなんとも可愛らしい。
俺はシトにすぐさまこう投げかけた。
「俺は伊藤亜ノ流。君の味方だ。君の能力は知っている。そして、その能力は俺には効かない。だけど、安心して欲しい。俺は君に危害を加えるつもりはない。むしろ協力したいんだ。だから君も俺に危害を加えないと約束して欲しい」
シトは早口で捲し立てる俺に一瞬キョトンとした表情を見せたが、その直後表情が変わった。
「ほぅ。お前随分と私のことに詳しいじゃないか。どこから聞いたんだ?まぁいい。それよりも能力が聞かないと言うのは本当か?少し興味があるな。試してみてもいいかな」
シトはそういうとチャームを発動させ俺を幻惑しにかかる。
本当に効果がないと悟ったシトは驚きの表情をそのかわいらしい少女の瞳に浮かべた。
「本当のようだな。お前はダークマジックが効かない。こんな人族は初めてだ。ダークマジックが効かないのは闇の眷獣かダークビーストくらいのはずだが、お前のような存在は見たことも聞いたこともない。何者だ?」
シトは俺をギロリと睨む。その表情は敵を見るような目と少し畏怖が混じっていた。
「待て待て。俺もわからないんだ。普通の人間のはずだけど。目が覚めたらここにいて記憶がないんだ。でもなぜか君のことは知っているんだ。」
俺は早口で説明する。
「ほぅ。記憶がないのに知っているのか。これはまた奇妙だな。まぁいい。襲う気がないのは態度でわかるからな。何か事情があるのだろう。詮索はしないさ」
俺はほっと胸を撫で下ろす。物分かりのいい狐で助かった。
「それで、私に何のようだ?手伝いたいと言っていたが?」
俺は全力で乗っかることにした。
「ああ。その通りだ。君は気心の知れた協力者がいない。そこでだ。ダークマジックが効かない者が君の協力者ならいざというときにかなり心強くはないか?俺は君をサポートしたい。」
「なんだそれだけか?てっきり何か要求してくると思ったが」
「それだけだけど、要求とすれば俺の身の安全の保証と衣食住の提供を約束して欲しい」
「なるほど。行くあてがないということか。うむ。こちらにデメリットはそうないし、いいぞ。見知らぬ人族」
「本当か?いや助かるよ!じゃあ改めて、俺は伊藤亜ノ流。見ての通り普通の人間だ!」
「ふふ。面白いやつだな。私はエチチ・シト。ダークビーストの一柱にして幻惑の魔女の異名を持つものだ。よろしくな」
この日の出会いが、世界の命運を分かつとは2人はまだ知らない。