エチチ・シト2
「ついにきたかこの時が」
エチチ・シトはそう独り言を呟いた。
最近、闇の眷獣の一体である雷竜ガイガルキンが活発に活動しているというきな臭い噂は聞いていたが、ここまでとは。
近隣の村々に眷属の飛竜を送り込み食糧の調達や、人族の戦力減らしを行っている。
いよいよ国を相手に戦うつもりなのか、それとも今はまだ練習期間なのか定かではないが、建物をことごとく破壊し尽くしたのは復旧を遅らせるためであろう。
なかなか小賢しい手を使う卑劣な魔物だ。
だがエチチ・シトはただ旅をしているわけではない。こういった魔物の動向を調べ、報告する役割がある。
幻惑の魔女と呼ばれるダークビーストであるエチチ・シトだが、ダークビーストの中では最弱に近い。
そんな彼女がなぜこういう活動をしているかというと、それは彼女が使えるダークマジックに由来する。
あらゆる生物を魅了することができるこの魔法は強力で、かつ、気づかれにくい。隠密性能に長けているからだ。
慢性的な人手不足もあるが、この利便性のおかげで人族に有効な情報を届けることができる。エチチ・シトはこの仕事にやりがいを感じていた。
エチチ・シトが所属している組織は6魔女と呼ばれており、名前の通り6人の魔女で構成されている。
その6魔女は各々がダークビースト級の強さを誇るとされており中でも「紫の魔女」は桁違いの強さを誇っている。
エチチ・シトはいち早く情報を6魔女に届け、魔女で対処するか否かの判断を仰ぎ、不必要であれば現地を支援する役割を担っていた。
あまりにも危険な仕事だがやれる人材がエチチ・シトしかいないため仕方のないことだ。
この度の雷竜ガイガルキンは紫の魔女を使えば余裕のため、現地支援で行く方が良いだろうと判断した。もしかしたら茨の魔女は呼んでおいた方がいいかもしれないが。
そういえば、旅の途中で妙な話を聞いた。それはたまたま寄った占いみたいなものだが、こう言われたのだ。
「近々、あなたにとってかつてない選択が迫られる。その選択次第ではあなたの運命が変わるだろう」と。
何を言っているのかわからなかったが、所詮占いなのでまぁ頭の片隅にでも置いておくかと思っていたものだ。たまたま思い出したが妙に引っかかる。
これだから占いはやめられないのだが。
話は戻り、自分が訪れていた村が壊滅してしまったため、手頃な人族をチャームして護衛にでもするかと油断させるための嘘泣きを始めた。
そう今の私はか弱い可憐な少女エチチ・シトなのだ。