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ダークビースト  作者: エロ姉
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覆面の男

「ゲホッ…」


 砂埃が舞う真っ暗な空間で俺は目覚めた。

 どこか覚えのあるこの感覚。どこか懐かしい…というよりも既視感というか。

 俺は地面を這い真っ暗な空間を進む。すると冷たい石の壁に当たった。その壁を伝っていくと、ドアのようなものに触れた。取手を探し、そこに手をかけてドアを開いた。外の光で眩しい。

 目が慣れるとそこには瓦礫がそこら中に散乱していた。

 そこで俺に記憶が流れ込んできた。

 

「オゲェ!」


 バシャバシャと音を立てながら俺はその場で嘔吐してしまう。上ではドラゴンが滑空しているがそんなことも忘れてしまうくらいの衝撃だった。

 そうだ。俺は死んだのだ。

 エチチ・シトの手によって。

 俺が死ぬ様を冷徹な目で見下ろす狐の表情を俺は鮮明に思い出す。

 なんでだよ…。シト…。俺、お前のこと信頼してたのに。くそ…。

 てか、なんで俺まだ生きてるんだ?しかもここ俺がこの世界に来た時と全く同じ場所だし全く同じ状況じゃないか。

 まさか…これって死に戻りってやつか…?

 内臓を貫かれた時の不快な感覚を思い出してしまい、思わずお腹をさする。

 とにかく、また同じ方向に行くとシトに出会って殺されてしまう。

 次は逆方向に行かないと。

 もう死にたくない。

 俺は衝動に駆られるように最初行った道と逆方向へ早歩きで歩き始めるぬかるんだ地面で靴下は一瞬でぐちょぐちょになるが、そんなこと気にしていられなかった。

 ドラゴンたちはいつのまにかいなくなっており、雨が降り始める。

 相変わらず多くの建物は倒壊しており生存者らしきものの姿は見えない。

 きっと生きていたとしても建物からは出てこないだろう。

 俺はそんな考えすらも放棄して歩みを進める。

 それは村の終わりらへんにきた時であった。

 俺は足を止めた。

 入り口付近に妙な格好をした男が1人立っていた。

 その格好はかなり「あれ」に似ていた。

 そう、道着である。

 男は足を覆い尽くすくらい長い袴を着ており上にはオーバーサイズで長袖のボロボロの布着を着用し、目だけ見えるような乾燥させた植物で編み込まれた被り物をしていた。

 まるで和風のゲームを感じさせるいでだちの男はこちらに気づくとゆっくりと近づいてきた。

 俺は思わず身構えて声を出す。


「おい!近づくな!」


 男は歩みを止めた。


「何をする気だよ」


 俺は問いかけてみたが、男はこちらを凝視するだけで返答はない。

 だが、その瞬間その男からとてつもない覇気のような物を感じた。例えるならば、絶対勝てない存在のような感覚だ。

 俺はやばいと思い走って逃げ出そうとしたが足が硬直して動けない。まるで金縛りにあったような感覚だ。


「動け!俺!動け!」


 自分を必死で叱咤するが動けない。

 男はゆっくり両手を上げ右手を顔の横に、左手を自分の腹に添えるように配置し、腰を軽く落とし武術のような構えをとる。脱力しながらも全く隙がなさそうなその構えはどこか日本的な歴戦の武術家を彷彿とさせた。

 俺は即座にそのヤバさを理解してそして悟る。

 殺される!

 俺は足が動けるようになったのを確認すると全速力で逃げる。

 だがそんなものは目の前の男からしたら無意味だった。


「金剛力」


 男が何か行った瞬間にドンという音と共に衝撃波が俺を襲い、それと共に何かが横を通り抜ける。

 後ろにいたはずの男はすでに俺の目の前にいた。

 俺は思わず絶句する。

 男はゆらりと上体を傾けると「縮地」と発し、俺の目の前に一瞬で移動した。

 俺は絶体絶命を悟りながらも精一杯の抵抗をする。

 なんてことない腰も入ってない普通の右ストレートだ。当然その右は男の左手によって容易に弾かれ流されてしまう。そして上体を前のめりにしてしまった俺の左脇腹に右手を添えてこう言った。


「発勁」(はっけい)


 刹那、ボンッというおよそ人間の体からは出ないような音とともに受けたことのないような衝撃を受け、気づいたら空中に回転しながら吹き飛ばされていた。

 そのまま地面と激突し、ゴロゴロと転がる。

 そこでこの世のものとは思えない強烈な痛みがワンテンポおいて俺を襲った。


「ああああああああああああああああああああああああああああああ」


 俺は絶叫をあげてはを思わず食いしばる。食いしばりすぎて下唇を自分で噛み切ってしまうほどに。

 俺は麻痺した下半身を確認するため激痛に耐えながら手を腰に持っていく。

 だがそこには“何も”無かった。


「うぅぅぅぅううぁあああああああ」


 俺は声にならないような声をあげてまたしても血反吐を吐く。


「ゲハッ」


 それと同時に鼻血も両鼻から止めなく流れ出す。

 大粒の涙を流しながら、俺は瀕死の獣のように叫ぶことしかできない。

 その瞬間も束の間、耳鳴りと共に急速に意識が薄れていく。

 俺…また死ぬんだ…また…

 そして意識が途切れ、俺はまた死んだ。

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