三面獣4
俺は目を開けた。
左腕からとてつもない痛みが走る。
だが、命はあるらしい。
俺は左腕に目をやった。
見ると肘から下が無かった。
(そりゃそうだよな…)
だが不思議とそこまでのショックはない。
俺はやれることはやったのだから。
そして俺の横には五面獣が頭から大量の血を流して息絶えていた。
どうやら五面獣がクッションになって俺は無事だったらしい。
左腕は持っていかれたけど。
俺はゆっくりと立ち上がる。
(サーシャのところに行かないと…)
左腕から血がボタボタと落ちているので服を破り左腕を縛る。
そして、サーシャの元へ向かう。
「サーシャ」
「あの…るさん…。やりました…ね」
「ああ」
「あのる…さん、腕が…」
「ああ。いいんだ」
「私…悔いは…ありません…よ」
「死なせない。そう言ったろ?一緒に帰ろう」
「あのる…さん。私はもう…死んでる…んですよ」
「知ってる。さっき言ってただろ」
「はい…。ですが…核が傷つくと…消えてしまうんです」
「さっき、サーシャの魔力と同調したんだ」
「はい…。私も…そう…感じました」
「アンデットは魔力で回復すると聞いた」
「はい、その…通りです。ですが…核はどうにも…なりません」
「なら、その逆をやればいい。俺がサーシャに魔力を送る。できる気がするんだ」
「あの…るさん。私…嬉しかったんです」
「もうしゃべるなサーシャ」
「こんなに…想っていただけたのは…初めてだったんですよ」
「サーシャ…そんなこと言うなよ」
「だから悔いは…ありません。先ほども…そう言いました」
「うるさい!やってみなきゃわからないだろ!」
「ふふ。あのる…さんは本当に…お人好しですね」
「ああ。俺はお人好しなんだ。だから助ける」
俺はサーシャの胸に右手を当て、魔力を送り込むイメージを思い描く。
すると魔力がサーシャに流れていくのを感じた。
成功だ。
だが、核は治らない。
そう言われたけど、一縷の望みにかけるしかない。
「そんな…!まさか…!」
サーシャは驚きの声を上げる。
見るとサーシャの核に入ったヒビが消えていっている。
「す、すごい。あのるさん…!」
「ああ。成功だ」
俺は歓喜のあまり痛みを忘れていた。
「何から何までありがとうございます。あのるさん。本当にありがとうございます」
「いや、礼なんていらない。俺が助けたかっただけだ」
「ほんとうに…ほんとうに…」
その瞬間、急に俺の意識が揺らぐ。
どうやら魔力が切れたようだ。
あれだけ魔法を使えば当然か。
俺はそのまま頭をサーシャに預けるように眠りに落ちた。