三面獣3
「金剛力」
俺は確かにそう呟いた。
なぜ呟いたのかと言うと理由はわからない。
でも使える気がしたんだ。
本当にそんな気がしただけだけど。
そして急激に魔力が漲ってくる。
まるでカラカラだった体に水を入れた時のような、そう、スポンジに水を含ませた時みたいな感覚だ。
五面獣はもう目の前だ。
一刻の猶予もない。
俺は五面獣が体当たりを喰らわせる直前に右手のシュミレットを落とし、そのまま拳で顎にアッパーカットを喰らわせた。
バキャ
何かが砕けるような音がしたと同時に五面獣が苦悶の鳴き声を上げながら空中へとベクトルを逸らされて吹き飛んでいった。
そしてそのまま地面に顔面から激突するように落ちる。
俺は今何が起こったのかわからなかった。
自分よりも遥かに大きくかつ、強い相手を俺は右手だけで退けたのだ。
ピクピクしながら痙攣する五面獣を尻目に俺はサーシャの方を見る。
すると、サーシャから魔力が俺に流れてきていた。
「サー…シャ…?」
俺はそう呟く。
「あ…のる…さん。きせ…き…です」
サーシャは奇跡だと確かに言った。
これは本当に奇跡だ。
おそらくサーシャが俺に何かをしたのだろう。
サーシャの魔力が俺に流れてきているのがその証拠だ。
でもどうして…?
いや、今は関係ない。
目の前で伸びているやつを倒さなければ。
五面獣は「グオォオオオオオオ!」と再び吠えてそのまま突進する。恐るべき回復速度だ。
まさにその様は覚悟が決まった武神の如き形相だった。
「金剛力!!!!」
ガコンと顔を鳴らしてまたも四属性の複合攻撃を撃ち放つ。
俺は冷静にドナートでいなし、五面獣を迎え撃つ。
「グルルルルルルルオオオオオオオオ!!!!」
五面獣はもう小細工なしの正面突破をするつもりのようだ。勢いを殺さずその巨体をぶつけにくる。
俺も金剛力で強化した足を踏ん張り、渾身の右ストレートをやつの顔面めがけて撃ち抜いた。
ドカン。
まるで手榴弾でも爆発したかのような音が森にこだまする。
俺の右ストレートは五面獣の顔面を頭蓋骨ごと粉砕し、ぺしゃんこにした。
だが、五面獣は目をギョロギョロさせながらも俺の左腕にくらいつく。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「グオォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
五面獣の鋭い牙は金剛力で強化された俺の左腕を突き破り肉に食い込む。
とてつもない痛みだがアドレナリンで痛みを気にする余裕もない。
お互い血まみれになりながらも俺はやつの頭蓋骨に指を引っ掛けて思いっきり地を蹴った。
ドン!!!!
蹴った衝撃で地面が鳴る。
(絶対離さねぇ!!!!!!)
「グオォオオオオオオ!!!!!!」
俺は五面獣を左腕に噛み付かせたまま、強化した足で木をパルクールのように蹴って天高く舞い上がる。
「左腕ならくれてやるううううううう!!!!!!」
俺は絶叫する。
俺が選んだのは自由落下だ。
この巨体でこの高さから落ちれば俺もこいつも無事では済まない。
だがこの膠着状態を打破するにはこの捨て身が最適だった。
「地獄でまた会おうぜ五面獣!!!!」
「グギョグオオオオオオオオオ!!!」
そしてそのまま俺と五面獣は地面と激突した。