薬草採集3
俺は昨日の一件もあり、薬草採集をする場所を変えることにした。なるべく、水辺でかつ森の深くない場所だ。
組合にいた受付嬢や義勇兵に勇気を出して話しかけたら薬草採集ポイントを教えてくれたのでそこにいってみることにしたのだ。
もちろん今回も1人だが、改めてパーティを組むことの大切さを思い知った。
1人だと報酬を独占できるが危機に陥った時助けてくれる仲間はいない。
おまけに猛獣に出会った時ヘイトを俺1人が担うことになる。パーティであれば役割を分担し、適材適所を担うことができるのでそのメリットが大きいのだ。
だから義勇兵は最低でも2人のパーティを組む。1人は前衛、もう1人はそのサポートだ。
3等級義勇兵になれば単独でもそこそこやり合えるらしいけど残念ながらここフロイエストでは4等級義勇兵までしかいない。
そう考えたらやはりエルたちはすごい人たちなのかもしれない。実際、この森の主とも言える三面獣の情報収集を行ってるみたいだし。
組合の掲示板にも三面獣に注意してくださいみたいな旨の張り出しがあったっけ。
直近でも5等級4人パーティが三面獣らしき魔獣に全滅させられたって噂になってたしな。
俺はソロだし注意しなきゃいけないよなぁ。
とは言っても死ぬ時は死ぬし。
俺もパーティを組んだ方がいいのだろうか。
そもそも俺とパーティ組んでくれる奴らがいるのかも怪しいし、お金が貯まればまた別の街へ行く予定だから組まないほうがいいんだろうけど。
まぁとりあえず毎日通ってる場所で薬草を採集するのは避けた方がいいことは確実だ。
次は情報をもらった北側で薬草採集を行うとするか。
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「お、あったあった」
教えてもらった場所に当たりをつけてピンポイントで来てみたら地面がかなり湿っている区域を発見した。ついでにそこには薬草がちらほら生えていたので言われた場所はここで間違いないだろう。
俺は早速ブッチブッチと薬草を採集していく。
この瞬間がなんとも癖になる。
なんと表現すればいいのだろうか。
プチプチの梱包資材を潰す感覚に似ている。
案外工場のライン作業とか向いているかもしれないな。
手についた薬草の独特な青臭い匂いも案外嫌いではない。
それにいざという時のポーションは俺みたいな薬草採集してるやつらのおかげで作られているのだ。
上の等級の義勇兵にも感謝してもらいたいところだね。
さてさて、ここもあらかた採り尽くしたけど量が少ない。
場所を移動しよう。
俺はさらに奥へ入っていくことにした。
そもそもこの地点は森の端の方のため奥にちょっと入っただけでは何ら問題ない。
他の薬草採集をしている義勇兵はどこで採っているのだろうか。やはり森の中心に近いところなのか。
森の中心部はかなり手強い魔獣がいるが、薬草の群生地もちらほらあるらしい。
俺も強かったら行ってみたいものだな。
とは言っても弱いから森の隅の方でこそこそ薬草採ってるんだけどね。
バルデッタぐらい強かったら生活に苦労することなく中央諸国連合に行けたんだろうなぁ。
羨んでも仕方ないけど、せめて攻撃型の魔法は欲しかったものだ。
俺には防御型の魔法が使えるみたいだけど感覚で出したものだから原理は不明だし、俺自身の系統魔力もわからない。
おまけに死ぬたびに魔力が増え、特に左手の魔力量は異常だ。
それに俺の魔力の色は赤褐色で血の色みたいだ。
どうやらこの世界の魔力の系統は色々みてきた中で金色か黒色が多いらしい。金色が光属性、黒色が闇属性のようだ。いろんな人から話を聞くに、魔法には第一魔法から第六魔法まであるらしく、第一魔法は魔力のみの効果、第二魔法は第一魔法の効果に特殊な力を加えたもの、第三魔法はそれに属さない固有魔法と言われているらしい。俺の使える魔法やファミルティが使っていた雷竜ガイガルキンを一瞬怯ませた魔法がこれに当たる。第四魔法は小規模な範囲で物理法則を捻じ曲げる魔法らしい。なんでも使用にはペナルティがあったりなかったりするとか。第五魔法は第四魔法の広範囲版で、第六魔法に至っては世界に干渉し世界そのものの法則を歪めるとか。かつて第六魔法を使ったのは不死王という化け物で世界にアンデットを生んだ存在とされている。つまりアンデットは元からいなかったらしいが、ノーライフキングが使ったなんらかの第六魔法で世界の法則が歪められ、アンデットが誕生したらしい。北西にはアンデットのみで構成された国が何カ国かあるらしく、強大な国力を持っているらしい。
なんとも恐ろしいものだ。
話がそれたが、その魔法の中でも種類があるらしく、魔女が使う特殊な魔法やダークビーストが使うダークマジック、光属性には祈法と呼ばれる恵みの神を信仰することで発動する信仰系の亜種魔法、呪法という闇属性のみに存在する呪いの神を信仰することで発動する信仰系の亜種魔法があるらしい。
また、光属性魔力は体の内部にとどまりやすい性質をもっており主に身体強化の効果を持った第一魔法が多いという。逆に闇属性魔力は体の外部に漏れやすく魔力を体の外部に固定したり、放出することで攻撃に転用したりできるらしい。
だが魔力はそれ以外にも系統が存在しており、ガイガルキンが持っていた雷属性などが例に挙げられる。光属性と闇属性以外の魔力については性質があまり判明していないらしく、俺にもさっぱりわからない。
俺の魔力の系統がわかればなんとか運用できるかもしれないんだけどしばらくは無理そうだな。
というわけで俺はずっと薬草採集に甘んじているというわけ。
嘆いても仕方ないから薬草いっぱい取ってさっさと帰ろう。
と思っていたその時、取りかけた薬草に血のような赤い液体がついているのが見えた。
(おいおい…まさか)
俺はその液体に触れて指先についた液体の匂いを嗅いでみる。
薬草の匂いで分かりずらいが微かに血の匂いがする。
やはり血だ。
俺は血のついた薬草の先に目をやる。
すると点々と赤いものが続いていた。
だが地面には何かが通ったような形跡はない。
俺は血の跡を追いかけながら歩く。
100メートルくらい行ったところだろうか、血の跡がピタリと止まり、代わりにその場に大量の血溜まりがあった。
俺はその光景に絶句し、脂汗が吹き出る。
(なんだ…これは…!)
その恐ろしい光景に脚がすくみガクガクと震えて俺はその場に尻餅をついてしまった。
「あぁ…ああああ…」
さらにそこに追い打ちをかけるように血溜まりのある場所にバシャっと音を立てて金属の鎧のようなものが落ちてきた。
「はえっ!?」
俺は体をビクっと振るわせ素っ頓狂な声をあげてしまう。
そして俺は恐怖で痺れた首を恐る恐る上に向ける。そこには首が半分千切れかけ内臓を根こそぎ食い荒らされた獣人族と思しき男が木の枝にかけられていた。
「あぁ…カー…ル…なん…で…」