義勇兵2
額から血を流しながら俺は考える。
俺は勘違いしていた。ここは弱肉強食の異世界なのだ。そうだ、この前経験したばかりじゃないか。ここまで来れたのは奇跡だったんだ。俺なんか蝋燭の火を吹き消すような存在だったのだ。俺はまた何もできずに死ぬのだろうか。
ああ…どうしてこうなったんだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なぜか俺は陽キャに絡まれたらしい。俺がいた世界の陽キャとにたような感じだが、ここの陽キャはいい人たちっぽい。まぁ、俺が陰キャなだけか。
シトやバルデッタたちとは雌雄を決した仲なので荒療治的なノリで接することができていたが、どうも今回のような好意的なノリはなんともむず痒いものだ。
今回声をかけてくれたのは4等級の義勇兵パーティで俺がいつも薬草採集を行っている森で幅をきかせているらしい三面獣という魔獣の動向を探るという目的、あるいは可能であれば討伐をするという目的で動いているらしい。
シトはこの森がさも安全かのように言っていたけど俺が危険な魔物に遭遇しなかったのはその三面獣ってやつが相当強いらしく、その周辺に魔物が寄り付かなかったからだ。全然危ないじゃないかシトさんや。
三面獣はその名の通り3つの顔を持っており、その顔をその時々で入れ替えるというなんとも特異な魔獣である。大きな獅子に顔が3つ付いた見た目をしているらしい。
また、3つの顔にそれぞれ異なる属性の魔力が宿っているらしくかなり厄介な難敵だという。
三面獣の危険度は4等級〜3等級義勇兵が2人〜3人パーティ以上であれば討伐が可能という水準らしい。
つまり俺だと一瞬で負けて木っ端微塵にされるレベルだということ。
そう考えるとこのパーティはとんでもないレベルのかもしれない。
話を聞くと神官みたいな格好をしたエルは祈法という光属性特有の信仰系の魔法を主体とした回復やサポートに特化した役目を担っているらしい。
逆に明らかに戦士のような見た目をしたカールはそのサポートの元、前衛で攻撃を引き受け、余裕があれば攻撃もするという盾役を担っているらしい。
そして、誰に対しても敬語を使う礼儀正しそうな色白の女性サーシャは見た目通り魔法使いらしく、闇属性の攻撃特化魔法を叩き込む役目を担っているらしい。
かなり連携の取れたパーティの印象を受けた。
「そういえば、なんで俺なんかに声をかけてくれたんですか?」
俺は純粋な疑問をぶつけてみた。
エルは一瞬だけ逡巡してその質問に答える。
「えっとね、毎日森まで行って薬草取ってきてるでしょ?あたしたちもあの森に行ってるからちょっと気になっちゃったんだよね」
俺は頷く。
「それにいつも1人だったから寂しくないのかなってさ」
なるほど。そういうことか。
悪かったですね1人で。
中等教育学校から友達が1人もいなかった俺に初めて来た異世界で現地人と親しく関われという方が厳しい。コミュ力も語彙力も皆無だしな。
「ここに来たのは初めてで来てから日が浅かったので仕方ないですよ。それに俺は6等級義勇兵で薬草採集しかできないし」
「へぇ。どこから来たの?」
「ここから南に行ったところにあるダイガサイザン地区ですよ」
「そんなところから」
それを聞いていたサーシャが口を開いた。
「そういえば、ダイガサイザン地区でひと騒動あったそうですね。飛竜族が攻めて来たとか」
カールも口を開く。
「聞いたぜそれ。ダイガサイザン地区から逃げて来た商人が言うには例の眷獣が攻めて来たって話じゃねぇか。なんとか撃退したらしいけどよ。でもよそんなこと可能なのか?2等級冒険者が複数人いてやっと対抗できるレベルだぜ?」
3人の視線が俺に集まる。
これちょっとまずいかな。俺も実際雷竜ガイガルキンと戦ってるし。真実を言うべきか。黙っているべきか。まぁでも真実を言ったら噂が広まってかなり面倒になりそうだな。ここは嘘で切り抜けるか。
「俺も逃げて来たんです。実際関門はバラバラになってひどい有様だったらしいですけど7勇者の1人がたまたまいて打ち倒したって聞きました」
「7勇者の1人がいたのか。それは運が良かったなあのる。おめぇそいつがいなかったら死んでたぜ!ガハハ!」
「笑い事じゃないですよカール」
「わ、わりぃ。でも無事だったんだからいいじゃねーかよ。結果オーライだぜ」
「はは。そうですね。運が良かったのかもしれません」
なんとか乗り切った感じがして俺はほっと胸を撫で下ろした。まぁ実際何回か死んだんですけどね。
「お、話してる間に着いちゃったね」
エルがそう言った。
俺も無言で歩くよりはかなり有意義だったかもしれない。それに人と話すのは久々だったから少し感謝だな。
「そうですね。楽しかったです。お声をかけていただきありがとうございました」
「いーえ!また会ったらよろしくね!」
「はい。よろしくお願いします」
「あ、そうだ。あのる、次は敬語禁止ね!あたしたちもう友達なんだからさ!」
「そうだぜあのる!いつでも声かけてくれよな!」
「その通りですよあのるさん。私はいつもこれなのでここままですけどね」
「お前はずっと固すぎるんだよ!砕けてもいいんだぜ?」
「うるさいですよカール。闇魔法打ち込みますよ」
「げぇ!それは勘弁してくれ」
俺はこのわきあいあいとしたパーティに少し救われたかもしれない。
それに…友達か。
俺は少しふふっと笑い、挨拶をした。
「それじゃまた」
「おう!またな!」
「またね!」
「またお会いしましょう」
そう言うとエルたちは森を迂回するように右側へ逸れていった。
俺は一抹の寂しさを感じながらも森へ入りいつものルートから薬草採集をしに行くのだった。