爆睡
1日休息をとってリンデとファミルティに別れを告げた俺とシトは北方にあるという中央諸国連合というところに行くことになった。
心配すべきは旅の路銀だったが、リンデが雷竜ガイガルキン討伐に寄与したとして俺とシトに報奨金という形でお金をくれたのでしばらくは保ちそうだ。
バルデッタはというと西にあるジパングーという国に用があると言って俺たちは別れることになった。色々あったのでちょっと寂しかったけどまぁそんなことも言っていられない。
そういえば俺が元いた世界の日の出る国もとい日現宗主人民共和国の昔の呼び名がそんな名前だった気がする。中等教育学校で習った内容だからうろ覚えなんだけど。
そういうわけで北を目指すのは俺とシトだけになった。シトはデカいトカゲみたいな生物と屋根付きの荷馬車を購入し、俺とシトは荷馬車に乗り食料と水、日用品を載せて、チャームで操ったトカゲに荷馬車を引かせて北の街に向けて出発したのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この地域は大陸の中央からやや南東側にあるダンデ公国に属しその中でも最南端に位置する場所らしい。気候は乾季ということもあり照りつける太陽のようなものが降り注ぎかなり暑く、乾燥している。先日雨が降ったのはたまたまだったらしい。雨季にはそれもう止めなく雨が振り、ぬかるんだ地面のせいで交通網は破綻するらしいから今が乾季でよかった。
そんなダンデ公国はもう50年以上飛竜族と小競り合いを続けていたらしくジリ貧になっていよいよ負けかけていたところに痺れを切らしたダンデ公国がシトが所属しているという6魔女なる組織に依頼し、シトが派遣されたというわけだ。6魔女とはそれぞれが強大な力をもった魔女族という種族が6人所属しており(シトは例外)、世界各地で起こる闇の眷獣やダークビーストの脅威を排除する目的で組織された機関らしい。今回はシトと茨の魔女の2名および現地の傭兵や組織で雷竜ガイガルキンを叩く予定だったらしいが茨の魔女が別件で動いていたらしくやむなくシトだけが派遣されたらしい。
ただ普通に考えてかなり戦力不足だよな。雷竜ガイガルキンの戦闘力はかなりのものだった。正直チャームが効かないしシトだけじゃ太刀打ちできる相手ではない。もし俺がいなかったらシトは死んでいたかもしれないわけで。
茨の魔女が相当に強いのはわかるけど、シトの力だけじゃ厳しそうだ。なにかほかに狙いでもあったのだろうか。そのへんの真相は後で聞いておくか。
とりあえず俺たちはダンデ公国を北上し中央諸国連合に入らなければならない。
その間にある村や街に寄って補給して路銀を稼ぎながら進んでいくという至って単純な話だ。
巨大なトカゲは荷馬車を楽々と引き、かなりの速度で進む。
路はあんまり整備されていないらしく荷馬車自体がガタガタと揺れて吐きそうだ。
この世界にゴム製品でもあったら車輪に巻きつけて衝撃を吸収させたいところだ。
シトはそんなガタガタ揺られる中、自分のフサフサの尻尾を抱き抱えながらスヤスヤと寝ていた。
まったく、横に俺という男がいるのに襲われないとでも考えたのだろうか。危機感がまるでない。しかもこんなガタガタ揺れてる上にクソ暑いのによく眠れるよなぁ。大したものだ。俺も慣れるとこんな中で眠れるようになるのだろうか。
もう随分とトカゲを走らせっぱなしだったので、俺はシトに事前に教えてもらった停止の合図をトカゲにして休憩をとらせた。
チャームをかけると掛かってる間は際限なく従うらしく、このまま走り続けたら絶命してしまうためだ。
俺はトカゲに水と食料を与え、1時間くらい巨大な岩の陰で休憩を取ることにした。
乾季で地面がひび割れ、草木があまり生えていない。なんとも殺風景な景色だ。
次の街までかなりの距離を移動しないといけないらしいから俺も寝れる時に寝ておこう。
俺は岩に背中を預けるとそのまま目を瞑った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ〜の〜る〜」
目が覚めたら日がすっかり暮れており、眉間に皺を寄せてぷんすか怒っているシトがいた。
「はぇ?おはよ」
「なにがおはようだ!もう夜だぞ!何をしていた!」
「何って…寝てたんだが」
「お前休憩とってから馬車を動かしていなかったのか!」
俺はそこで自分の失態に気がついた。
休憩とってから今まで寝ていたのだ。
「私もずっと眠っていたから悪いが、お前も寝たら誰が荷馬車を進めるんだ!」
「ごめんごめん。すまなかった」
「はぁ。もういい。今からでも動かすぞ。はやく荷馬車に乗れ」
「えへえへ。ほんとごめんね〜」
「ったく。ヘラヘラしおって」
俺はいそいそと荷馬車に乗った。
シトがトカゲにチャームを掛け直し、荷馬車が出発する。
「そういえばシトさんや」
「なんだ?」
「雷竜ガイガルキンを1人で倒すつもりだったのか?」
「急だな。まぁ1人ではないが。私の力は必要だっただろうな」
「でも茨の魔女は結局来れなかったんだろ?失礼だけど勝てるとは思えないんだけど」
「ああそういうことか。それは私もわからない。ただ1人で行けと言われたんだ。1人といっても従者はいたんだがな。途中で死んでしまったから私1人と言っていいかもな」
「そんなさらっと重要なことを…」
「別に気にする必要はない。旅に危険はつきものだ。死ぬ時は死ぬ。本人も覚悟していたはずだ」
「まぁシトの言ってることはわかるよ」
「なんだあのる。妙に察しがいいじゃないか」
「そう?まぁ俺がいたところもあんまり大差はなかったかもな」
「お前の故郷の話か?少し興味はあるからまた気が向いた時にでも話してくれ」
「わかった。いつか話すよ。それよりも1人でどうするつもりだったんだよ」
「私も単独はまずいと言ったさ。だが6魔女の中には未来を予知する力を持ったやつがいてな。茨の魔女は必要ない、むしろ行かない方がいい、命を落とすかもしれないと言ったんだ」
「かもしれないだったら予知ではなくないか?」
「まぁ正確には未来に起こりうる事象を予測すると言った方が正しいかもな。未来のことだからなんらかの行動で変わる可能性もあるし」
「ああ、そういうことか。でも1人より2人の方がガイガルキンに遭遇した時に勝率は高かったんじゃないか?」
「それはごもっともだ。実際茨の魔女は茨を具現化しそれを操作する魔法を使う。竜のようなデカい的を捕縛したり攻撃したするのに向いているんだ。だからダンデ公国から雷竜ガイガルキン討伐の依頼が来た時は茨の魔女を同行させるのが当然だった。だが、茨の魔女は別件で動いていたことと予知のこともあって同行させなかったんだ。それに、実際ガイガルキンは人型だったわけだから茨の魔女とかなり相性が悪かったかもしれないな。だから死ぬかもしれないという予知は間接的に正しいことになる。私ならば万が一の場合撤退することも可能かもしれないからな」
「なるほどなぁ。そんな裏の事情があったわけだ」
「そうだ。だが予知にはあのるのことは含まれていなかった。予知の魔女もそこだけは予知できなかったのかあのると出会うことも織り込み済みだったのかはわからないが、結果的には現地人の協力もあって雷竜ガイガルキンを倒すことができた。あのるの謎の力のおかげでもあるがな」
「俺もわからないんだ。突然この世界にやってきたかと思えば死んだら生き返るし、変な魔法まで使うことができるようになるし、人が纏ってる魔力とかいう色を見ることができるし。ほんとにどうなってんだよって」
「この世界にやってきた?なんだお前、まさか異世界人だとでも言うつもりか?」
「ああ。俺にはそもそもこれが現実なのかすら怪しいけどもしこれが現実なら俺は異世界からやってきたということになるかもな」
「古い文献には世界渡りという事象も確認されてはいるが…まさか本当にそんなことがあるとはな…」
シトは目を丸くしながら考え込み、そして続ける。
「待て、お前さっき魔力の色と言ったか?」
「ん?ああ。魔力の色は見えるよ。それでいうとシトはピンク色だな」
「それはとてつもない才能だぞ。魔力の色が見えるということは相手の魔力の系統を知れるということだ。これは戦闘する上でかなり有利なことになる上、対策や予測も考えやすくなる」
「ほぇぇ。そうなのか。そんなレアなの?」
「レアもレアだ。私ですら魔力の色を見分けることはできない。魔力を見るだけで精一杯だ」
「へぇ。俺って意外とすごいのか」
「調子に乗るな。あくまで未知の敵と戦う時の話だ」
「へい…」
「さて、話が一区切りついたところで、あのる、お前の世界がどういうものなのか聞かせてくれるか?」
「いいよ。時間はたっぷりあるし、いくらでも聞かせてやるよ」