つかの間の平穏
俺は目を覚ました。
辺りは暗くなっているのだろうか。古こけた窓から指す光はかなり弱く、部屋が薄暗い。
俺は体を起こそうとしたが全身の痛みで起きるのをやめてしまう。どうやら筋肉痛のようだ。
貧弱な体をあれだけ酷使すれば当然と言えば当然だ。
だが、体が汗と汚れでベタベタしている不快感の方が優っていたため、泣く泣く起き上がることを決意する。
「よいしょ…いてて…」
痛む体を庇いながらゆっくりと起き上がり、足を床に下ろす。
顔は脂汗でべとべとなのではやく顔を洗いたい。
どこかに水浴びでもできる場所はあるのだろうか。
シトに聞いてみよう。
「シトか…」
俺は思わず呟く。
まだ1日しか経っていないというのに妙な親近感がある。
まぁ実際俺が経験した時間は1日ではないから当然か。
俺はドアを開けてシトの部屋の扉をノックした。
「なんだ?」
するとシトが扉の鍵を開けてあどけない少女のような顔をひょこっと覗かせる。
「あのるか。起きたのか。もう体は大丈夫なのか?」
シトは俺に気づくと心配そうに顔をしかめる。
「ああ。体は痛むけど俺は大丈夫だよ。へーきさ」
「そうか。それならよかった」
シトは安心と受け取れるような表情で顔の緊張を和らげた。
「ところでシトさんや」
「なんだ?」
シトは不思議そうにこちらを見る。
「水浴びできるとこ知らない?」
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シトに聞いたところ、水浴びできるようなところはなく、布に水を染み込ませて体を拭くぐらいしかできないらしい。なんという世界か。元の世界がいくら終わっている世の中だったとしても恋しいものだ。
そんなことを思いつつ俺は水の入った木のバケツにシトが買ってくれた布みたいなものをつけて水を染み込ませ、体を拭いた。
そしてシトが新しく用意してくれた服を着て新しい靴を履く。何から何まで用意してくれて助かった。シトにはかりができてしまったなぁ。
件の竜の始末に貢献できた功績でチャラにならないものか。
あとはこれからシトは何をするのか聞いておかないとな。どうやらシトには大きな目的があるらしいので俺もそれに役立てればひとまず俺が野垂れ死ぬリスクは回避できそうだけど。シトがいないと俺なにもでないしな。金持ってないし、まずここがどんな世界でどの場所なのかもわからないわけで。
聞くことは山積みだから早速聞きに行こうかね。
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「ふむ。これからどうするかか。まずは路銀を稼がないといけないからここか次の街で色々仕事をこなすか、チャームでぶんどるかするしかないな。あとそれにお前に紹介したいやつがいるんだ」
「なるほどなぁ。ぶんどるのは物騒だからせめて穏便に行こうぜ。あと紹介したいやつって?」
「私もできるだけチャームは使いたくないからな。善処しよう。紹介したいやつというのは私の古くからの知り合いだ。まぁなかなか偏屈なやつだがお前になら特別な力を授けてくれるかもしれない。そいつは中央諸国連合というここからかなり北に行ったところにいる。どちらにしても私はそこら辺に行かないといけないからついでに寄る感じだな」
「なにその心踊るイベント。オラワクワクしてきたぞ!」
「何を言ってるのかさっぱりわからないが、そういうことだ。あ、言っとくがそいつが必ずお前を気にいる保証はどこにもないぞ。あくまでなんかくれたらいいなぁっていう程度だ。そのくらいの感覚でいてくれ」
それを聞いてあからさまに残念そうな顔をした俺をクソガキでも見るような目で一瞥してシトはこう続けた。
「まぁ明日にはここを出るから今はゆっくり休んでおけ」
「あいあいさ」
俺は何も考えずに返事した。