雷竜ガイガルキン3
ドォオオオオオオオオンという音が聞こえ俺は意識を取り戻す。
歪んだ空間が晴れていく中で俺は静かに目を開けた。
そして俺は構わずに走り出す
いまだまともな対策は考えられていないがとにかく単体でやつに相対する方が愚策だ。一刻も早く複数戦に持ち込んでやつを殺るしかない。例え俺が戦力にならなくてもやつの攻撃は弾くことができる。次こそは一矢でも報いたいところだ。
「狼狽えるな!進め!!!!!」
リンデの声と共にバルデッタが動き出す。
「貫通撃!」
バルデッタの初撃が易々と受け止められたことを確認すると俺は先ほどと同じように叫ぶ。
「バルデッタ!!!!避けろ!!!!!」
「雷球」
やつが左手を突き出し手のひらから眩い閃光を迸らせる。
俺の声がバルデッタの耳に届き、バルデッタはすんでのところで槍を引き、真横にサイドステップをしながら雷球をギリギリで回避した。そしてそのまま、バックステップをして距離を取る。
放たれた閃光はそのまま地面を抉るかのように真っすぐ飛び、建物を巻き込みながら爆散する。
「雷蒼」
やつは変わらぬ魔法のコンボを連ね、バルデッタとの距離を一瞬で詰める。
俺はもう何もできないがこれは大丈夫だ。
やつは魔法で距離を詰めた際の運動エネルギーをそのまま体重移動に繋げてその膂力を持って両手で支えたロングソードを下から上へ振るう。
俺の左腕を切断した時に使用した技だ。
バルデッタは冷静にスキルで対応する。
「槍壁」
バックステップした瞬間に槍を地面に突き立てて謎の衝撃派が生まれ距離を詰めてきたやつの進行を妨害した。
やつは切り上げようとしたロングソードを途中で止め、手をクロスにして顔面を守るような仕草で衝撃波に耐える。
「いけ!飛竜ども!」
シトに命令された飛竜がよだれを撒き散らしながらやつめがけて突進し体当たりを食らわせる。やつは体当たりを不安定な体勢でモロに食らい吹き飛ばされた。
俺はその隙にそのままバルデッタのところに到着しバルデッタの前を陣取るように小盾を構える。
バルデッタは俺の策を理解したのか「来るぞ。必ず仕留める」と俺を鼓舞してくれた。
ここまでは一緒だ。
シトがもう何匹か飛竜をけしかける。だが、吹き飛ばされてなお無傷のやつはすぐに体勢を立て直した。
「雷属性付与、雷蒼」
自身のオーラをロングソードに付与し、閃光の如きスピードで迫り来る飛竜たちを無慈悲に切り伏せる。
そしてそのままの勢いで俺に斬りかかる。
くる!
斜め上からロングソードを振り下ろすような単調な攻撃だ。
だがこれはフェイクだ。そしてここから繰り出されるサンダーボールとかいうやつの必殺技を撃たせるわけにはいかない。
振り下ろされるはずだったロングソードは直前でビタリ止められた。
ここだ。
そして、やつの左手が前に突き出される。
俺はそれのタイミングを見計らい、やつの手が閃光で眩くなるのと同時にその左手を右足で蹴り上げた。
左手は上に弾かれサンダーボールは上空へと吹っ飛んでいった。
やつの顔に初めて表情が現れる。それは驚嘆というふた文字で表現できる表情であった。
そして俺は叫ぶ。
「バルデッタ!」
それと同時にやつは止めたロングソードをまた上から焦り気味に振り落とす。
俺は冷静に魔法を発動した。
「攻撃を弾く魔法!」
金属音が響く。
ロングソードは俺の小盾に衝突し、やつの手を離れて吹き飛ばされる。
そしてそれに応えるようにバルデッタはスキルを発動した。
「貫通撃!!!」
バルデッタは背後から掻き消え驚きの表情を浮かべるやつの胴体を目掛けて槍を高速で突き出した。
槍は飲み込まれるようにやつの腹を貫通しそのまま地面にやつを叩きつける。
ドシュッという音がワンテンポ遅れて聞こえるような高速での突きだったためさすがのやつも避けきれなかったようだ。
だが、バルデッタはやつに突き立てた槍を手放しすぐにバックステップを踏んだ。
その直後。
「雷球!」
地面に背を預けた体勢からやつは必殺技を繰り出す。放たれた閃光はバルデッタを掠めるように上空に放たれた爆散した。
バルデッタが回避していなければやられていたかもしれない。
「人族ごこときがぁぁああああ!」
腹を槍で貫かれたにも関わらずそれは憤怒の声音で叫ぶ。
「殺してやるぞ!!!!!」
「いけ!」
やつが叫ぶのと同時にシトが支配下に置いた飛竜が押し寄せる。
だが、やつは決死で立ち上がり腹に刺さった槍を無理やり引き抜いたのと同時に後ろへ下がるように回避する。
突撃した飛竜はやつがいた所に体当たりするように激突し地面を抉る。
やつは下がったのと同時に表情を歪ませながら左手を前に突き出す。
「雷球!!!!」
標的はバルデッタだ。
放たれた閃光はバルデッタ目掛けて一目散に飛んでいく。
俺は咄嗟に動きバルデッタの前に陣取った。
「攻撃を弾く魔法!」
サンダーボールは俺の魔法で完璧に弾かれ空の彼方へ姿を消して爆散する。
「なんなんだお前はぁああああ!」
やつは怒りの声を轟かせる。
とその直後、やつの背後に背の低い見覚えのある男がいた。
「ファミルティ!」
俺は思わず呟く。
「雷…(サンダー…)ッ…!」「魔力を乱す魔法」
間髪入れずにサンダーボールを打ち出そうとして、やつが異変に気づく。
ファミルティがやつの右腕を掴み何かをした瞬間、やつが力が抜けたように膝から崩れ落ちた。
「長くは保たん!今じゃ!」
ファミルティは叫ぶ。
それに応えるようにどこからともなく現れたリンデが巨大な湾刀を振りかぶり、絶叫しながら襲いかかる。
「はぁぁぁぁぁぁああああああ!」
そのまま膝を屈めるように飛び跳ね湾刀をクロスさせ、やつの首をその勢いで両手を広げるように切断した。
やつの首は驚きの表情を見せながら切り飛ばされ、血飛沫を巻き上げながらゴロゴロと転がる。
切断された胴体の首からも血が吹き上がった。
「貴様らぁ゛…ゆる…さん…」
切り飛ばされた生首が凄まじい生命力でなおも喋る。
「覚えた…ぞ…貴様…貴様ぁぁぁああああああ…」
俺の方を睨みながら黒い闇のようなモヤを立ち上らせる。気づけば胴体の方も溶けるように黒い霧を出していた。
そして首も胴体も全て霧になり空気に溶けていった。
闇の眷獣は死ぬとこうなるのだろうか。
そして俺はやり切った安心感から気を失いそうになり、その場にへたり込んでしまった。
時間にしては一瞬だったが、俺にとっては半年老けた気分だった。
主が死んだのがわかったのだろうか、空を飛んでいた飛竜、地面で兵士を蹂躙していた飛竜が慌てるように飛び、どこかバラバラに逃げていく。
戦いはもう終わったのだということを察した兵たちが次々に雄叫びを上げ始めた。
「我々の勝利だ!!!!」
リンデがそれに呼応するように叫ぶ。
その瞬間にどっと喝采が上がった。
俺はその声を聞き安心してしまい、気を失った。