雷竜ガイガルキン2
ドォオオオオオオオオンという音が聞こえ俺は意識を取り戻す。
ボヤけた視界が晴れていく中で俺は思わず絶望した。
なぜなら死に戻りポイントは関門が破られた直後だったのだから。
嘘だろ…。
もうまともな対策は考えられない。
阿鼻叫喚に包まれる中俺は1人思考をフル回転させる。
やつの攻撃はあまりに強く、あまりにも速い。生半可なものでは攻略もクソもありはしない。
どうすればいいんだ!!!!
「狼狽えるな!進め!!!!!」
まずい!バルデッタがやられてしまう!
「貫通撃!」
俺は全力で走る。バルデッタの末路がフラッシュバックし、世界がスローモーションに見えた。
やつが使っているサンダーボールという魔法(?)を俺も食らっているからわかる。あれを受ければバルデッタもタダでは済まない。
そうしているうちにバルデッタの初撃が易々と受け止められてしまう。
「バルデッタ!!!!避けろ!!!!!」
俺は決死で叫ぶ。
「雷球」
やつが左手を突き出し手のひらから眩い閃光を迸らせる。
しかし、俺の声がバルデッタの耳に届いたのであろう。バルデッタはすんでのところで槍を引き、真横にサイドステップをしながら雷球をギリギリで回避した。そしてそのまま、バックステップをして距離を取る。見事な反射神経だ。
放たれた閃光はそのまま地面を抉るかのように真っすぐ飛び、建物を巻き込みながら爆散する。
「雷蒼」
だが、それも予想済みかのように魔法のコンボを連ね、バルデッタとの距離を一瞬で詰める。
まずい!
俺はもう何もできない。神に祈るしかなかった。
やつは魔法で距離を詰めた際の運動エネルギーをそのまま体重移動に繋げてその膂力を持って両手で支えたロングソードを下から上へ振るう。
俺の左腕を切断した時に使用した技だ。
だがバルデッタは冷静にスキルで対応する。
「槍壁」
バックステップした瞬間に槍を地面に突き立てて謎の衝撃派が生まれ距離を詰めてきたやつの進行を妨害した。
やつは切り上げようとしたロングソードを途中で止め、手をクロスにして顔面を守るような仕草で衝撃波に耐える。
「いけ!飛竜ども!」
シトに命令された飛竜がよだれを撒き散らしながらやつめがけて突進し体当たりを食らわせる。さすがにライトニングアクセルという高速移動系の魔法は間に合わなかったようで体当たりを不安定な体勢でモロに食らい吹き飛ばされた。
俺はその隙にそのままバルデッタのところに到着しバルデッタの前を陣取るように小盾を構える。
構えた左腕の魔力がより一層増して自身の赤褐色の魔力で覆い尽くされていた。どうやら死んだら魔力量が格段に増えるらしい。これなら先ほど無意識に発動した魔法【攻撃を弾く魔法】をかなり使うことができそうだ。
バルデッタの前をあえて陣取ったのはやつの攻撃を弾いてその間隙にバルデッタの槍でカウンターを決めて欲しいからに他ならない。
バルデッタは俺の策を理解したのか「来るぞ。必ず仕留める」と俺を鼓舞してくれた。
シトがもう何匹か飛竜をけしかける。だが、吹き飛ばされてなお無傷のやつはすぐに体勢を立て直した。
「雷属性付与、雷蒼」
自身のオーラをロングソードに付与し、閃光の如きスピードで迫り来る飛竜たちを無慈悲に切り伏せる。
そしてそのままの勢いで俺に斬りかかる。
きた!
俺はやつの攻撃を弾くことに集中する。
斜め上からロングソードを振り下ろすような単調な攻撃だ。
俺はその軌道に左腕て小盾を合わせるように振り抜く。
「攻撃を弾く…(ドナー..)え」
俺は絶句する。
振り下ろされるはずだったロングソードは直前でビタリ止められたのだ。
そして、やつの左手が前に突き出される。
「バルデッ…」「雷球」
バルデッタの名前を呼びかけた直後、俺の視界は陽炎のように歪み後方の建物まで驚異的な勢いで吹っ飛ばされ、建物の壁を難なく貫通し瓦礫を巻き込みながら地面に叩きつけられた。
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気づいたら俺は横たわっていた。
あれ。俺、負けたのか。
脳震盪を起こしたのか意識がはっきりしない。
それよりも、腹部が強烈に痛い。
何かに抉られたような痛みだ。
脳震盪を起こして視界が歪むほどのダメージを受けているのに強烈な痛みを自覚できていた。
体は全く動かないどころか足の感覚がない。
腕は骨折しているのだろう。うまく動かせない。
だが、ギリギリ動くので痛みを訴える部分に手を持っていく。
が、そこには何も無かった。
おい…またかよ…。勘弁してくれ。
「ゴフッ…」
熱く血生臭い鉄の味がする何かが食道を急激に逆流し、俺の口から一気に排出される。
「バハッ…ゲハッ…」
ダメだ。止まらない。苦しい。息ができない。
「あのる!どこだ!返事をしろ!」
シトの声が聞こえる。
だが、俺はもう声すら出せない。
ああ、また死ぬんだ俺。
今度はもっとうまくやらないと…。
もっと…もっと…。
脳の酸素が薄くなり、意識が遠のく。
けたたましくなる耳鳴りがひどく耳障りだ。
目が見えなくなり、感覚も消失する。
そしてまた…俺は死んだ。