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ダークビースト  作者: エロ姉
17/36

協力

「ガハッ…ゲホゲホはぁはぁはぁはぁ」


 俺は大きく息を吸い込み、むせてしまい咳き込みながら息を吸った。

 洗い呼吸の中で周りに目配せして様子を伺う。

 蝋燭がゆらゆらと揺れている。

 どうやら宿屋の中のようだ。

 そして自分がまた死に戻りした現実を受け入れて我に帰る。

 

「バルデッタじゃ…なかったのか…」


 じゃあ俺はなんのためにバルデッタを倒したのか…。

 先の戦いが無意味だった事を知り悔しさとやるせなさで自分を叱咤したい気持ちになった。


「クソ…クソ…!!!!!」


 関門を破壊して単独で攻めてきたのはやはり覆面の男なのか。

 いや違う。

 奴は俺を見つけるのに3日はかかった。

 ダイガサイザン地区まで来るには時間がかかるはずだ。

 となればまた別の第三者の仕業か強力な魔力を取り戻したバルデッタの仕業ということになる。

 だがそれならシトがバルデッタの名を口にしないのはおかしい。

 「かなりの手練れだぞ」という発言を鑑みるにシトはおそらく別の何かを見たということなのだろう。

 では第三者という線が濃厚か。

 となるとその第三者は一体何者なのかという疑問が沸いてくる。

 何者かの襲撃がいつ来るか正確な時間は把握できていないがおそらく明け方付近だろう。時間はあまりないがやはりシトに聞くしかないか。

 そう思い、俺はシトの部屋を訪ねることにした。


------------------------------------------------


 自室の扉を開けるとドアのすぐ横に低身長の老人が立っていた。


「あのるでよかったかの?」


 そう言うと老人は俺の顔を見上げてニコっと笑いかけてきた。

 俺はこの老人を知っている。ここの治安を維持している組織のリーダーの人だ。確か名前はジェイチェイン・フラン・ファミルティだったか。

 このじーさんと面識があるってことは今の時間はバルデッタの宝玉を取り返したあとということか。

 となればまた死に戻りポイントが更新されていたと言うことになる。つまり、今だいぶ時間が経っている。例の何者かの襲撃までおよそ2、3時間しかないことになる。これはかなりまずい。

 などと考えてる間に目の前のじーさんがこちらを不思議そうにのぞいてきたので慌てて俺は聞き返す。


「なんだじーさん。俺になんか用か?」


 俺は疑問を投げかける。


「もちろんじゃ。あのバルデッタを信用していないわけではないんじゃがの」


 含みのある言い方に俺は首を傾げる。


「じーさん。とりあえず中に入れよ」

「ならそうさせてもらおうかの」


 じーさんはそう言うと俺の部屋に入り、椅子に腰掛けた。


「爺さんはよせ。わしはファミルティじゃ」

「悪かったよファミルティ。で、要件は?」

「ほっほ。そう焦るでないあのるよ。なぁに簡単なことじゃ。わしはの、バルデッタよりもあのるを高く評価しとるんじゃ。あのる、お願いがあるのじゃ」


「なんだよファミルティ改まって」


 俺は相槌を合わせる。


「雷竜ガイガルキンを倒すことに協力してくれんかの」

「雷竜ガイガルキン?」


 俺は初耳の単語に疑問を浮かべる。


「何じゃあのる知らんかったのか」

「もちろん初耳だよ」

「ここ最近飛竜族が活発でな。おそらくここも近いうちに襲撃されるじゃろう」


 俺は飛竜族と聞き、初めてこの世界に転移してきた時の光景を思い出す。


(あれか…)


「それでの、その飛竜どもの大元である雷竜ガイガルキンってやつがいるんじゃ」

「なるほど。そいつを倒しにいくのか?」

「そうじゃ。まあ具体的には誘き出すって方が正しいんじゃがの」


 となると、数時間後にここを襲撃してくるのはこいつか。先手を打つ前に先にやられたってわけか。

 いや待てよ。

 シトはまるで人に襲撃されたみたいな表現をしていたけど…


「なあ。そいつって人だったりする?」

「何を言っとるんじゃ。飛竜じゃぞ。クソデカいに決まっとるじゃろて」

「やっぱそうだよなあ」


 じゃあ数時間後にやってくるやつは誰なんだろう?やっぱ覆面の男なのだろうか。


「なあファミルティ」

「なんじゃ」

「その言いにくいんだけど、ここ数時間後に襲撃されるかもしれない」

「はぁぁああああ?」


 ファミルティは素っ頓狂な声をあげた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 天幕の中には叩き起こされてやや不機嫌気味のバルデッタとリンデ、まだ起きていたので平気な顔をしたシト、そして先程まで一緒にいたファミルティと俺の5人が集まっていた。

 俺の死に戻りがバレればその能力を悪用しようとする者に知られた場合、俺はタダでは済まないだろう。ファミルティ、バルデッタ、リンデは大丈夫そうだが、シトが知った場合はどうなるかわからない。いかんせんシトには一度殺されているため妙に警戒してしまうし、何かまだ隠してそうだから胡散臭いと感じてしまう。どうせ一緒にいたらバレるのは時間の問題だろうが、今明かすべきではないように感じる。明かすのであればまだ先だ。

 さてここからはそれをシトに悟られぬよう慎重に話す必要がある。


「それで、なんだ話とは?」


 バルデッタが切り出す。

 それに対して俺は言葉を紡ぎ出した。

 

「みんなを集めたのは他でもない。もしかしたら数時間後ここが飛竜族に襲撃されるかもしれないからだ」


「それはいずれ起こりうることだろう。そのための対策はしてきている。無策でここは作られていない。ダンデ公国のバックアップを受け、飛竜族を食い止めるための役割も担っている」


 即座に切り返してきたのはリンデだ。

 確かに今の状況であれば、ぽっとでの男が戯言を述べているにすぎないように見えてもおかしくない。

 だがそう言われるのは想定済みだ。


「ああ、わかってる。その上でだ」

「じゃあなぜそう思う?」

「その理由なんだけど、実は俺とシトはここからそこまで離れてない村から来たんだ。だけどその村は飛竜族に襲撃されて全滅した。当然次の襲撃ポイントはここになる。しかしだ。真昼間に飛竜族の対策をしているここを攻め落とすのは至難と言える。となれば襲撃するのは」

「皆が寝静まった夜か明け方というわけだな」


 俺の言葉を遮るようにリンデが繋げた。


「なるほどそれならば合点がいく。奴らはもうそんなところまで侵攻してきていたのか。たしかに今夜襲撃される可能性は高いな。だがなぜ今報告したんだ?もっと早ければ余裕を持って対策を打てただろう」


 なかなか痛いところを突いてくる。


「それは俺たちが疲れていて気が回らなかったんだ」


 苦し紛れの言い訳だが筋は通っていると思う。第一にバルデッタとバトって関門破壊を防ぐのが当初の目的だったしな。まぁ当てが外れたんだけど。

 もっと俺が賢ければよりよい言い訳が思い浮かんだのだろうか。

 リンデとファミルティがやや納得していない表情を見せたが渋々と言った形で納得してくれた。


「まぁいい。では直ちに兵を召集し、関門に集結させよう」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あのる。お前何を隠しているんだ?」


 シトは俺にそう切り出した。


「いや、何も…」


 さすがに不味かっただろうか。


「これだけ不自然な行動を重ねていれば嫌でも気づくぞ。逆に気づかなければバカというものだ」


 ごもっともですシトさん。


「なぜバルデッタと戦いに行ったんだ?なぜここが襲撃されると事前に知っているんだ?」


 これはもう逃げきれそうにない。


「じゃあシトはさ。事前に防げることがあったらどうする。そしてそれ以外に逃げ道がなかった時、どうするべきだと思う」


 やや抽象的な答えになってしまっただろうか。


「だから私は動いているんだ。旅など嘘だ。私はこの世界を滅びから少しでも遠ざけるために動いている。我々…いや、ダークビーストたちが犯した過ちを少しでも償えるなら私は…そのために行動しているんだ。でなければ闇の眷獣が闊歩するこんな危険地帯にいるわけがないだろう」


 シトも本音で話すつもりらしい。


「シト聞いてくれ」

「なんだあのる」

「俺は…死に戻りしているんだ」

「やはりか」

「なんだ、知ってたのかよ」

「知ってるも何もお前は怪しすぎた。魔力の増え方も異常だ。それにお前、さっきより魔力が増えている。自分で気づかなかったのか?」


 俺は自分の手を見る。

 両手にゆらゆらと揺らめく赤褐色の魔力が見えた。

 特に左腕の魔力量が多いように感じる。


「お前死んだんだろ。ついさっき」


 だめだ。全て見透かされている。


「ダークマジックが効かないのはおそらくお前がダークビースト自身かその他の力がお前に宿っているからだ。お前のその力がどれほど強い力か自覚しているのか。それこそダークマジックと言っても過言ではない。だがお前は獣の神の祝福を受けていない。だからまだ断定することはできない」


「シト、そこまで考えていたのか」


 だから怪しすぎる俺はあそこで殺されたのか。


「シト、俺を殺すのか?」


 俺はぶっきらぼうに質問する。


「ふっ、誰が殺すんだ?お前のその力は世界の理を超越しているんだぞ。殺したところで何も変わらないじゃないか」

「それもそうか」

「第一に、お前はこの世界に危険を及ぼす存在ではないということが一緒にいてわかったから問題ない。むしろ私の協力者になってくれて助かるよ」


 なにやら嬉しいことを言ってくれる。

 

「シト、お前に頼みがあるんだ」


 俺はシトにある提案をする。


「わかった。その時は引き受けよう。だが、もしそいつが闇の眷獣本体だったとしたら」

「「ダークマジックが効かない」」


 2人の声が重なる。


「そういうことだ。その時はあのる、お前に任せる」


 今この瞬間だけは2人の絆が生まれたのかもしれない。

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