タァク・リンデ
俺はダイガサイザン地区に向かう道中、バルデッタから大まかな宝玉の所在を聞いていた。ダイガサイザン地区を収める頭領であるタァク・リンデというブルーオークの女が宝玉を所持しているという話だ。なんでも、このタァク・リンデは武力でここら一体のごろつきを従えて頭領になりダイガサイザン地区を作り上げたらしい。
だが、このトカゲ女は単騎でダイガサイザン地区の関門を突破して、全てを薙ぎ倒したと考えてみるとやはりこいつが1番恐ろしい。不意打ちとは言えこいつに勝てたのは奇跡だったのかもしれない。
とは言え、とりあえず目星はついているがあとはどうやって平和的に宝玉を返してもらうか考えないといけない。バルデッタの戦闘能力を考えると造作もないができるだけ穏便に済ませたいものだ。そこで閃いた俺はエチチ・シト様にお願いしてみることにした。
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エチチ・シトのチャームは一定時間が経過すると解けてしまい、かつ、操る人数が多くなればなるほどその時間は短くなるらしい。再び操るにはかけ直すしかないようだ。
しかし、案外あっさりとうまくいってしまった。
頭領がいる街の中心部の警備はザルだった上意外にも手薄だったためチャームをかけては前進する単純作業になってしまったのだ。念の為にバルデッタも連れてきていたが杞憂だったようだ。だが、ここで俺たちの前に1人の老人が姿を現した。
「ほっほ。こんな夜分にどなたさんですかい。ここまで堂々とした侵入は初めてですぞ」
老人はいかにもお爺さんのような言い回しで喋りながら俺たちの前に立ち塞がる。
老人の顔は暗くてよく見えないが恐ろしく身長が低いと言うことはわかった。だが、およそ120〜130の間であろうその小ささとは裏腹に何とも言えないオーラが老人の周りを包んでいた。これはおそらく魔力なのであろうがバルデッタやシトが単色なのに対してこの老人のオーラには複数の色が確認できた。なぜなのかあまりわからなかったが俺が近づいたらまずいということだけは俺の第六感が伝えてきていた。
「して、お前さんたちは何用でここにこられたんですかい?」
老人は怪しげな笑みと共にこちらに目線を送る。
それに対して、エチチ・シトが口を開いた。
「宝玉をとりに来たといえば話は通じるかな?」
「ほっほ。それが狙いですかい。ならば話が早いですな。お返ししようと思っていたところでございますぞ」
「ほぅ。お前たちが取ったのではないと?」
「ほっほ。滅相もありませんですな。わしらはこれがどなたのものか知っておったので売りに来た商人から買い取り守っていたのですぞ。しかるべき方にお返しするために。ほらそこにおる槍使いの竜人族の娘さんじゃったですかいの」
「ならば話が早い。返していただこう」
「ほっほ。そう焦りなさんな。すぐにでも頭領に言ってお返しいたしますぞ。しかし…そこにおる少年、お主からはとてつもない可能性を感じるでのう。返す条件としてこの者との手合わせを是非お願いしたいと考えておるのだが…いかがかの?」
老人はそう言いながら俺の方をジロリと見る。
俺は何を言っているのかまったくわからずあたふたしてしまう。
「条件?なんだそれだけでいいのか?勝っても負けてもいいのだな?それならば別にいい。好きにしろ。ちょうど私も見てみたいと思っていたところだ」
えっとシトさん?何を言ってらっしゃるのでしょうか?
「ほっほ。ありがたいのう。では私は頭領に伝えてくるでの。しばし待っておれ」
そう言うと謎の老人は天幕の中に消えていった。
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天幕にはバルデッタのみが通された。
「タァク・リンデだ。ここを治めている頭領だ。さて、早速だが宝玉をお返ししよう」
リンデは宝玉をバルデッタに差し出す。
バルデッタはとても嬉しそうな顔をしてそれを受け取った。
天幕の隙間からこっそり覗いていた俺たちはバルデッタがそれを受け取った瞬間、バルデッタの周りのオーラが倍増したの確認した。黄金のオーラがさらに輝きを増したかのような錯覚を覚えるほどに漲っていた。どうやら力の大半を失ったと言っていたのは本当だったらしい。シトもその様子に感嘆しているようだった。
「単刀直入だが、この宝玉を守っていたのは7勇者であるあなたに頼みたいことがあったからだ」
バルデッタはそれに対して「なんだ」と言う。
「ここ最近、飛竜族の行動が活発になってきている。おそらくだが近々ここにも飛竜族がやってくるだろう。そいつらが襲ってきた時のために力を貸してほしい。無理にとは言わない。これはあくまでお願いだ。我々の戦力なら退けることはできるだろうが、被害は免れない。それにもし雷竜が直々にやってきたら勝ち目がない。だからお願いだ。力を貸して欲しい」
リンデは頭を下げる。
バルデッタ少し考えるような仕草をしたがすぐに答えた。
「わかった。だが報酬はいただこう。私の私は7勇者ではなくただ傭兵なのでな」
リンデはぱぁっというような希望に満ち溢れた笑みを浮かべ「ありがとう」とお礼を言った。
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残った俺たち2人は天幕の外で待っていた。
そこに先ほどの老人が近づいてきた。さっきは遠くてよく見えなかったが、近くで見るとゴブリンであることに気づいた。俺がラノベや漫画で見た姿とは少し違うがおそらくゴブリンだろう。
「では約束を果たしてもらうでの。ほっほ」
俺はまた戦わないといけないのかと思いため息をつきながら腰を上げた。
「で、俺はどうすればいいんだ?」
「なぁに。手を握らせて貰えばそれでええのう」
「それだけ?」
「ほっほ。それだけじゃ」
俺は手を差し出す。
老人は俺の手をそのまま握った。
その瞬間である。
体の力が急激に抜けていくような感覚を覚えた。
だが受けたのはそれだけだった。あとは特に変わりはない。
シトはその様子をつまらなさそうに眺めていた。思っていたのと違ったらしい。
「ほっほ!これはすごいわい。こんなバケモンを見たのは初めてじゃ!」
何やらこの老人はウキウキしているらしい。何が何だかわからんが。
「うぅむ。そんな魔力は見たことがないのう。バケモンじゃバケモンじゃ。お主、どこでこんな力を得たじゃ?生半可なことでは身に付かんはずじゃ。それにこの魔力、まるで赤子じゃ。まるで生まれたてのように若い。漲っておる」
「さぁ。俺もわかりませんね」
シトはその様子を注意深く見ていた。先ほどの目つきとは全然違う。
「ほっほ。興奮して済まなかったのう。いかんせんこんな系統の魔力はみたことがなかったのでのう。ひょっとしたらこれは化けるかもしれんのう」
「魔力に系統とかあるんですか?」
「ほっほ。お主そんなことも知らんかったのかい。そうじゃ魔力には系統があるんじゃ。大体の奴が闇属性と光属性に分けられるじゃ。闇属性は魔力を外に出すのが得意で光属性のやつは魔力を体内にとどめるのが得意な奴が多い。もちろん例外はあるがの。そしてその2つ以外の系統も存在するんじゃ。例えば火属性、水属性とかの。じゃが、お主の魔力はさっぱりわからん。つまり未知じゃ。見たことがないのう」
「ほぇぇ」
俺は意味がわからずただただ聞いていた。
つまり俺は何か変な魔力を持っているってことか。
でも別に役立つことがあるわけではないのでもし何かに役立つならそれが見つかるといいなぁ。