トカゲの戦士4
「あのる!どこに行っていた!探したんだぞ!」
関門からそう語りかけてきたのはかのダークビーストことエチチ・シト様だった。
シトを巻き込むまいと黙って出ていたがシトの表情から察するにかなり心配して探してくれていたらしい。なんだか罪悪感が俺の心をチクりと刺した。
その後なんやかんやあり、シトのチート(チャーム)を使い、トカゲ女もダイガサイザン地区に入れてもらった。
「ところであのる」
「はいなんでしょうシトさん」
「そこのデカい女は誰?」
「7勇者のオルカル・バルデッタさんだ」
「んん???なんであんな怪物がここに?」
「いやぁ…いろいろあってさぁ」
シトは怪訝な表情を浮かべ、バルデッタをジロジロ見つめる。そして、シトはハッとしたような表情を浮かべ、俺の股間に目線を向けた。
「お前…まさか…」
どうやらとんでもない不名誉な誤解を受けたらしい。
「違う違う!そんなわけないだろ!変な妄想はよせ!」
俺の必死の慌てぶりを見てバルデッタが笑う。シトは「なんだ違うのか」とちょっと残念そうな顔を浮かべていた。
なんで少し残念そうなんだよ。
「7勇者の噂は聞いている。それぞれが英雄クラスの力を持っているとか。だがいざこざで解散したと聞いたが?」
シトはそう疑問を口にする。
それにバルデッタが答えた。
「話せば長くなるんだが、解散はした。それに英雄クラスまで届いていない。そこそこ腕が立つというだけだ」
シトは「ふーん」とでも言いたげな表情を浮かべ、こう続けた。
「それで、その腕が立つ傭兵様とこの凡庸なあのるはなぜ一緒にいるんだ?それに2人とも泥だらけだぞ」
俺が答えようとする前にバルデッタが答えてくれた。
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「なるほど、盗まれた形見の宝玉を探しにこの地まで来たついでに寄った村が廃墟になっていたから先に誰かが宝玉を狙うために村を襲ったと考えたわけか」
「そうだ。先に誰かが来たならこの先のダイガサイザン地区に行くのは当然だ。ならばそこに行けば手に入るだろう?」
「ふむ。そしてあのるに先を封じられ負けたと。にわかには信じがたいな」
シトは俺を横目で訝しむ。
「いやぁ、勝てるとは思わなかったよははは。戦ったことなんてなかったから肝を冷やしたよ」
それに対して今度はバルデッタにツッコミを入れられた。
「嘘を言え。あれは戦いなれた者の動きだった。私の槍が最小限で躱されるわけない。お前の動きは本当に最小限だった」
シトとバルデッタが俺を少し睨む。
「いやまぁ、運が良かったんだよきっと。あはは…」
何回も死んで動きを覚えましたなんて言えるわけない。それに自分が死んだ瞬間なんて思い出したくもない。ひどい死に方をいっぱいしたからな。
それに、なんであの盾でバルデッタのスキルを防げたのかいまだに自分でもわからなかった。本当に運が良かっただけなのだろうか。
俺がバツの悪そうな顔をしているためシトがため息混じりに助け舟を出してくれた。
「まぁこいつは何かと隠し事をしたがるみたいだ。出会った時も不思議だったな。今回も何か隠しているのだろうが、聞いても答えないから無駄だろうな。チャームをかけて聞き出すこともできないし」
バルデッタは訝しんだ顔をしていた。シトは俺に鋭い眼光を向けていたが俺は頭の後ろをポリポリかくことしかできなかった。
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シトは亜ノ流の体の周りに揺らめく魔力を見ていた。
出会った時にはなかったものだ。
しかもその量は数時間訓練して発現するレベルを遥かに超えていた。
亜ノ流が魔力を体内に留めていた可能性はなくはないが、そんなことをする器用なやつは見たことがなかった。
つまり考えられるのは1つだけ、この数時間の間に突然魔力を生み出した。これを考えるのが妥当だ。
だがなぜだ。なぜ急に魔力が生まれたのか。そんな事例はごく稀だ。
シトは亜ノ流を見ながら考察する。
そして今気づいた。
亜ノ流の目を見た時、出会った時の戸惑ったようなあどけなさが消えていた。
亜ノ流はこの数時間で何十もの修羅場を経験した目をしていた。
シトは思わずハッとする。
(こいつ…そんな…まさか…)
死んだのか?