トカゲの戦士2
「ガハッ」
俺は空気を吸うと共にむせる。
大粒の汗が額を伝い、非常に気持ち悪い。
俺は両の手を自分の首に這わせ体と頭が繋がっていることを確認し、安堵のため息をついた。
「はぁはぁ…」
呼吸が未だ荒い。
俺は脱力し、全体重をベッドに預けた。
「無力だった…なんで…俺がこんな目に遭うんだ…」
きっとまたここから逃げ出そうとすると何かしらの因果によって俺は殺されるのだろう。
覆面の男の正体はわからないがきっとあれが用意されたバッドエンドなのだ。
まるでゲームだな。
レベルが足りないから先へは進めません。別のルートで行ってくださいとでも言われてるみたいだ。
そしてきっとあのトカゲ女戦士は俺にちっての試練なのかもしれない。
俺はどうなってしまうのだろう。このまま殺され続けたら俺はおそらく自分を見失ってしまうだろう。何か心の支えが必要かもしれない。
一瞬シトの顔が脳裏をよぎるがあれは心の支えにしてはいけない気がする。なぜならダークビースト(ばけもの)なのだから。
俺は起き上がる。そして部屋を出て、関門に向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よぉ来たかよ。トカゲ女」
俺はまた女戦士のとこへ向かった。どうせ殺されるなら一矢でも報いてやる。そんな気持ちだった。
「私の名前はオスカル•バルデッタだ。今はもうない7勇者の1人にして最強の槍使いだった。覚えておくといい黄人族の少年。そして、さようならだ」
今とんでもない情報を耳にしたが俺は即座に頭を切り替えて腰を落とし、ボロい小盾を構える。
次は1撃くらいは耐えたいところだ。
女は槍を両手で優しく、だが、力強く構え爆速の踏み込みと同時に俺に矛先を突き出してきた。
「知ってるよ!」
俺は叫びながら横に滑るようにギリギリのところをダッキングで交わし、右手に持っていたシュミレットを女の脇腹に突き刺す。
だが、それは空を切った。
女は踏み込みを途中でやめて、その有り余る余力で地を蹴ってバックステップで回避したのだ。
とてつもない下半身の強さだ。
俺の記憶に「最も大事なのは下半身だ」という誰かが言った言葉が走馬灯のように蘇る。
女バックステップと同時に槍を引き両手で縦に構えガードをすような仕草を行う。
俺の追撃に備えてのことだろうが、俺にそんな余裕はなかった。
一瞬の攻防だったが、やはりレベルが違いすぎる。俺なんかが勝てるレベルではない。だが、動きは前回と一緒だった。
何回かやればひょっとしたら勝てるかもしれない。
俺は絶望の状況下でそんなことを考えていた。きっと初めてのことでアドレナリンが分泌されていたのだろう。
「貴様、いい動きだったな。見かけはただの青臭い少年だが、戦闘センスは悪くない。だが悪く思うな。貴様の目の前に立っているのはレベルが違う存在だ」
女はそう言うと踏み込みと同時に下から上に槍を薙ぎ払う。
俺はスウェーでそれを避けシュミレットではなく左手の盾を女の顔面目掛けてぶつけに行った。
理由はカウンターを恐れてのことと、薙ぎ払った時にできた隙が女の右半身だったからだ。
最小の動きでかわしたため今度はバックステップが間に合わない。
俺は1発顔面にぶち込むことができると確信した。
だが、俺の体は後ろへ吹っ飛んだ。
そのままドシャっという音と共に俺は無様に地面に叩きつけられる。
何が起きたのか一瞬理解できなかったが、女の方へ目を向けると理由が判明した。
俺は蹴られたのだ。
前のめりになった俺を女は器用に右足を折りたたみ、後ろの尻尾を地面につけて支えにし、その体制で俺を蹴ったのだ。
途端に俺は血を吐いた。
「ゲハッ」
今ので内臓が潰れたのだろうことを瞬時に察する。鈍痛が腹部を襲い足に力が入らなくなる。俺は立てなくなったことよりも相手の戦闘センスに感心してしまった。俺は今とんでもないやつを相手にしているのかもしれない。
渾身の力を振り絞り、俺は立ち上がる。
「まだ終わってねぇぞ!はぁはぁ」
「次で終わりだ」
そう言うと女は右手に槍を持ち替え、引くような仕草をとる。
俺はとっさに盾を構えるがそのあとがあまりも速すぎた。
「貫通撃!」
目の前から女が消えたという錯覚を受けた直後、俺の目の前に槍の矛先が迫っていた。