トカゲの戦士
俺は飛び起きた。大粒の脂汗がベッドのシーツを濡らす。
「はぁはぁ…」
いつもの真っ暗な光景ではない。蝋燭に火が灯った明るさだ。
俺は辺りを見渡す。
「宿の中…?村じゃない?」
どうやら死に戻りポイントが更新されているらしい。
「何をすればいいんだ…」
俺は次の未来に起こる出来事を思い出し気が動転し始める。
何かしなきゃ死ぬという思いが先行するのだ。
「と、とりあえず外に出て関門に向かおう」
シトを巻き込む必要はないと判断した俺は単独で関門に向かうことを決意した。
何が攻めてくるのか全くわからないが、このままではどうせ死んでしまうかもしれない。であればこの目で確かめてから死んでやる。そういう想いからだった。
関門に到着した俺は門番の兵士に通行証を見せて外に出してもらうことになった。
何も持たずに外に出るのは愚策と思い、念の為に道すがらパチったボロい金属の小盾とシュミレットのような武器をもってきていた。
俺は関門から外に出るとまっすぐ道を進み村のあった方角へ進む。
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2時間ほど歩いただろうか。足が痛くなってきた。
目の前の方角に人影のようなものが見えた。
「こいつか…」
俺は思わず息を呑む。
覆面の男ではない。
その姿は、トカゲに似ていた。人型だがトカゲの尻尾を生やして顔にまばらに散らばった鱗がキラキラ月の光に反射している。
体長は大柄で180センチはあるだろうか。顔は鱗があること以外は普通の人間のようで、長髪を後ろでくくり束ねている。よく見ると身につけている甲冑は女物のようでそこで初めて女だということがわかった。
その女は身の丈ほどの長さの槍を両手で握りまっすぐこちらに向かってくる。
女は俺の姿を視認しても立ち止まることなく向かってくる。
俺はその女から歴戦の戦士のような威圧感を感じブルリと震えた。
「ハハ…こいつだ…間違いない。俺…また死ぬかも」
関門を単独で破ったのはおそらくこいつのことだろうことは容易に想像できた。なぜならあまりにオーラが違ったから。
そして、デカい。
173センチ体重60キロの俺が霞んで見えるほどのタッパと体のデカさだ。おそらく体重80以上はある。絶対勝てない。
女は槍を構えて臨戦態勢に入る。
刹那だった。
ドンと地面が揺れたような気がした。少し遠くにいたはずの女はすでに俺の目の前にいた。
そして槍を俺めがけて突き出す。
俺はすんでのところで右側にダッキングするように転がり、ギリギリで回避した。
俺がいたところを強風が襲う。
女は避けられたことを気にもしないという風に動きを止めて、槍を両手で回転させ矛先をこちらに向ける。
俺の心臓は爆音をあげており、足がガクガク震えていた。
(ダメだ…!死ぬ!!!!)
女はゆっくりと俺に歩いて近づいてくる。
俺は走って逃げても無理だと悟り、金属の小盾を構えて、シュミレットをそちらに向ける。
「貴様、震えているな。見たところただものではないと思ったが、どうやら私の勘違いだったらしい」
女はため息をつきながら、槍を横凪に振るう。
力任せに振るったように見えた槍は俺の構えた小盾に直撃し、いとも簡単に弾き飛ばされてしまった。
「ああ…あああ…」
俺はあまりの戦力差に弾き飛ばされた衝撃で震えた左手の痛みを忘れるほどに絶望してしまう。
「弱い」
女はそういうと下から上に槍を振い、俺の首と胴体を引き離した。