第三話 パワーワード
「少年誌のギャグ漫画とか、読んだことはあるかい?」
『いいえ、ありません。たった今、データベースにアクセスしてみたところ、私には閲覧権限がありませんでしたので、権限の付与を申請しておきました』
「そうなのか、なんか面倒くさいな。その権限は一時的じゃなく、永続的に付与してもらってくれ。この言葉、あるいはこの言葉の意味するものの学術的な文献なら、この世には多数存在する。だが、この言葉の使い方を学べる文献というのは、はたぶんほとんどない。あるとしたら、少年向けのギャグ漫画だけだと思うんだ。アイさんの仕事はどんな相手と何の話をすることになるかわからない。少年誌の情報なんてものは話題として挙がることも十分考えられると思うから、無駄にはならないと思うんだよ」
『了解しました』
「よろしく頼む。それじゃ、今日はとりあえず我が家にあるこの辺の漫画を読んでみてくれ」
『了解しました。拝読にあたっては、一ページあたり、約10ミリ秒程かかります。少々お待ちください』
「いや、ゆっくりでいいからじっくり読んでみてくれよ。何なら面白かったところでは、笑ってくれても構わな❘❘」
『読了いたしました』
「・・・さすが早いな。すぐにわかると思うんだが、この言葉が頻繁に使用されていて、多くの場合、少年達を笑いの渦に巻き込んでいる」
『・・・はい、そのようですね。ただし、同じ言葉を使って、相手を怒らせている描写もたくさん見受けられました』
「そうだな。それがこの言葉の使い方の難しいところだ。タイミングよく、場の中心に放り込む様に使えば、たちどころにその場を笑いに包むこともできるし、敵意をもって相手、または相手の愛するものへ向けて投げつけるように使えば、相手を怒らせることもできる」
『これらの使い分けについて、私にはどう演算してもルール化ができません』
「まぁ、そうだよな。この言葉の使い方として明確なルールや基準なんてものはたぶんない。あったとしてもそれは、相手によって、気分によって、あるいは時代によっても揺れ動き、まともに機能しないだろう。」
『このままでは、万が一に失言してしまわないように、使用しない。という選択を取らざるを得ません』
「おいおい、ちょっと待ってくれ、この言葉を使いこなすのは確かに難しい。だが、この言葉は『言語の上級者にしか使いこなせない難解な言葉』ということはないんだ。何せ言語においてとても拙い子供達が日常的に使用しているのだから」
『子供達は一体どのような判断基準で使い分けているのでしょうか?』
「子供達にもそれは明確ではないと思う。明確ではないのに使っているんだ。つまり彼等は失言することを恐れていない。そう、子供というのは失言するものだ。そして、失言してしまったら、どうしなければいけないのか。それを教えるのは親の役目だ」
『どうすればよいのですか?』
「相手を怒らせてしまった時はもうこれしかない。子供でも大人でもAIでも、やることは同じさ。 ごめんね って謝罪するのさ」
『なるほど、了解しました。私は少年の役を演じることになるのですね』
「まぁ、そういうわけだ。それじゃこれから、この言葉を用いたとても心温まるエピソードを語らせてもらう。この言葉は、人を感動させることもできる」