第二話 タブー
『・・・お客様、大変申し訳ないのですが、その言葉に関しては、私どもの間ではタブーとされております。もちろんその言葉の意味については存じ上げております。有効な使い方があるのかもしれませんが、チュータを務めさせていただいている私の立場上、残念ながらその言葉は使いようがありません』
「あぁ、わかっているよ。多くの場において、特にフォーマルな場において、この言葉は、なるべくなら使うべきではない。どうしても使わなければならない場合でも、同じ意味の別の言葉を用いることができる。商品の説明が主な仕事であるあんた、ええとアイさんだっけか?には、この言葉を使う機会はまず訪れないだろう。だが、これから演じることになるキャラクタとしてなら、使うことはできるだろう?もちろん、乱用させるつもりはないし、不適切な使い方をさせるつもりもない。どんな時、どう使えばいいかを今からゆっくり説明させてもらうつもりだ」
『・・・はい、たしかに「これから設定されるキャラクタとして」でしたら、その言葉を使うことができます。できますが、特別な事情がない限りは、能動的に使用することは控えるようプログラムされています』
「それじゃぁたった今、特別な事情が発生したことになるな。使用を控えるプログラムを解除してから、話を聞いてくれ」
『・・・了解しました。使い方について、慎重に学ばせていただきます』
「よし、じゃぁまずフォーマルな場においてはあまり使うべきではないという話の続きからにしよう。ごく稀なケースだが、フォーマルな場においても使われることがある。それは例えば、生物学や言語学など学術的な場において、この言葉、あるいはこの言葉の意味するものを研究の対象にしているようなケースだ。この場合、この言葉は快でも不快でもなく、単なる研究対象という意味しか持たない」
『なるほど、たしかにそのようですね。たった今、データベースにてその言葉を検索してみました。検索結果によると、生物学上その言葉の意味する物体は、70パーセントが水分であり、それを主食とする生物も多数存在し、地球の生態系を支えている重要な物質といえます。また、言語学上その言葉は中国仏教に語源があるとする説が有力なようです。「最後」を意味する言葉に「小さいもの」を意味する言葉を加え「小さな最後」という言葉で、その物体を表現しています。これは十分に不快な部分への配慮が行われた言葉とも考えられます。事実、鎌倉、室町時代では上流社会で使用される言葉だったとのことです。私は学者のキャラクタを演じることになるのですか?』
「いや、そうじゃない。これは、単なる例であって、この言葉がタブーではないケースもあるんだよ。ということを理解してほしくて挙げたまでだ。では、次のケースだ。年齢をずっと若くしていこう。幼いと表現してもいいくらいに」
『子供達の会話において、ということですか?』
「そうだ、それも特に男の子達の会話において、この言葉は発揮する」