第一話 チュートリアル
全五話
一年に一作品のペースで執筆しています。
今年もよろしくお願いします。
『この度は、株式会社ファイナルタカシの対話用AIをご購入いただき、大変ありがとうございます。私は、本AIのチュータ用に作られたキャラクタ、名前をAIと申します』
「あぁ、アイさんね、よろしく頼むよ」
『私は、これから対話型のAIとして、お客様と日常を共有させていただくことになります。共に暮らす家族のように、あるいは同居する恋人や友人、または時々ネット上で会話するのみのゲーム仲間ということもあるでしょう。いずれにしても私とお客様の関係、私の容姿、声、性別、年齢、趣味の幅など、お客様の日常に合う形にカスタマイズしなければなりません。それにあたって、今からお客様にはいくつかの質問に回答していただきます』
「あぁ、説明書を読んでいるよ。キャラクタ設定用に、写真や動画、音声データがあれば、それらの処理を短縮できるんだよね?」
『説明書の確認ありがとうございます。その通りでございます。私がこれから演じることになるキャラクタに、モデルとなる存在がおられましたら、そちらのデータを読み込ませていただけますと、設定にかかる処理を大幅に短縮できます』
「動画ならたくさんあるんだ。ちょっと整理はできていないんで、関係ない動画も交じってしまっているかもしれないが、かまわないかい?」
『はい、問題ございません。必要な情報かどうかはこちらで判断させていただきます。・・・これは、とてもたくさんのデータですね。全てを読み込み、解析するには少々お時間をいただくことになります。ですがこれだけあれば、かなりの精度で再現できるかと思います』
「それはよかった。どれだけ時間がかかっても構わない。だから、できるだけ忠実に再現してほしい」
『了解いたしました。それでは読み込みを開始します』
「データの読み込み中は、会話も止まってしまうのかい?」
『いいえ、会話程度の作業でしたら読み込みながら同時進行で行うことができます』
「それじゃ、この時間を使って、一つ覚えてもらいたい言葉があるんだ」
『はい、動画だけでは足りない部分の情報ですね。人間とはとても繊細で複雑です。どんな些細な内容でも可能な限りお伝えください。それはキャラクタの形成にとても役に立ちます。ただ、「言葉」とおっしゃいましたか?私には、40カ国の言語および、それらの方言やスラング、各種業界用語に至るまでがインプットされています。また、若者界隈などで頻発する新語、造語などに対応するためにデータベースは毎週更新されています。「言葉」に関しては、教えていただくまでもないかと考えられますが、いかがでしょうか?』
「あぁ、『単語』という意味での言葉に関しては、正直心配していない。大切なのは、使い方のほうだ」
『使い方、ですか?』
「あぁ、そうだ。今から教える言葉は、とてもデリケートで使いどころを選ぶ。そして、使い方次第で多様な意味を持ち、人々を不快にすることも爆笑させることもできる」