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第8戦線~今まで食べてきた黒くて硬いパンはいったい何だったのか。石やないか~

「ノドック陛下、これが例のものでございます」


 大小の宝石ちりばめられ、金糸の刺しゅうや黄金の装飾がされたローブを纏った白髪に長いひげの男。ノドック陛下と呼ばれたその男。ノドック・ロアメ。帝国を統べる皇帝である。

 そのノドックの前に、華奢ではあるがやや整った顔をした初老の男がトレーを手に頭を垂れる。


「うむ。これが・・・かの『魔国』の・・・見たこともない」


 トレーの上の何かには赤い粘液と黄味がかった粘液がかかっており、千切られた生の葉、円形の肉片のようなものが乱雑に散らされている。それは僅かに湯気を立たせ、室内が得も知れぬ食欲のそそられる、強い乳の香りと小麦の香ばしさで満たされていく。


「においは美味を思わせるが・・・確かに食って大丈夫なのであろうな・・・・ゴクリ」


「はい、毒見役も私めも口にしましたが何も問題はございませんでした。ゴクリ。ご無礼を承知で申しますと、これは直接、手で取って食べるものだそうですゴクリ」


 ノドックが、ふむ、とトレーに手を伸ばす。

 黄味がかった粘液が、その粘度を主張するように、ゆっくりと、切れることなく伸び、垂れてゆき、ノドックの目線の高さまで持ち上げたところで音もなくプツッと切れる。


「では・・・食してみるとするか」



 これが後の世にいう『帝魔ピザ戦争』の端緒であった。


 魔国の庶民の一般的ファストフードのひとつ、ピザが帝国に伝わったことを発端に、『サンドイッチ侵攻』、『フライドポテト殺人事件』と並ぶ、帝国文化におけるカルチャーショックから起きた魔国侵略戦争である。


 サンドイッチ侵攻。

 帝国は行商に来ていた魔国の商人を捕らえ、多くの食べ物にショックを受けたという。

 行商人が持参していたサンドイッチを奪い、白いパン、そして挟まれた具もまた、口にしたことのない食べ物で、今まで食べてきた黒くて硬いパンはいったい何だったのか。石やないか、と。

 領主はその食文化をわが物とすべく、皇帝の後ろ盾を得て魔国に侵攻し、早々に敗走した。


 フライドポテト殺人事件。

 魔国から里帰りをするところであったドワーフ家族が盗賊に襲撃された。

 その際に強奪した荷物の中にあった、フライドポテトを盗賊たちが大層気に入り、その盗賊たちを捕らえた領主が再び魔国へと進行し、これもまた早々に敗走した。


 しかし、これらの戦争において帝国は、多くの正規兵と徴兵した国民の命を失い、そして難民や奴隷の魔国への亡命者を生んだのだった。

 帝国は『帝国民こそ世界の優性種である』ことを掲げており、エルフやドワーフ、コボルト他、亜人と呼ばれる者は等しく奴隷としていたため、その多くが戦争の混乱に乗じて魔国へ亡命した。

 帝国の国是は「俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの」であり、侵略によって国土や文化、財産を潤してきた国である。そのため、魔国への侵略、征服のため幾度となく派兵、侵攻を繰り返すも、魔国の技術力に(ことごと)くに失敗。


 兵や国民の減少、奴隷が亡命したことによる労働力の損失、財産も大半を失い、退くに退けなくなった帝国は、禁忌とされてきた勇者召喚を自ら執り行ったのだった。


 召喚の儀式は、一度に魔術師数十名を生贄に行われた。それも複数回に及んで。結果、帝国の魔術師はみるみるうちに減っていき、残った者も国外に逃亡。

 召喚された大半の”勇者”も、召喚したはいいが何処に召喚されたのか分からず、魔物の溢れる森林の真ん中、あるいは深い海の中、地中・・・と、召喚されすぐに死亡した者も多く、また、無事発見されたとしても、帝国民とはみなされず奴隷の身分であったため、その多くもまた逃亡するのだった。


 今度こそ数多くの失敗を取り戻すべく、国力増強、資産奴隷の獲得、文化革命のために、帝国は魔国侵攻に全力を注ぐのだ。

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