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第7戦線〜そこで、君たち!この街で警察をやってみないか!〜

 俺は魔王から先日受けた衣食住の礼と、今後の我々についてお伺いを立てるため、謁見を申し込んだ。

 ギーク情報部大佐が言うには、魔王は少女の姿をしているらしい。信じられないことだが、魔王は山羊の頭に黒い翼などではないらしいが、魔王と呼ばれるのだ、きっと恐ろしいモノであることは間違いないだろう。隙を見せたら負ける。

 ギークの野郎は前線に立つこともなく、書類を捌いて出世したような奴だ。だから、そういうセンスには鈍感なんだと思う。


 そびえ立つ洋城の、城壁に囲まれたそのど真ん中に、鉄筋コンクリート構造のビルが建っている。およそ遠くからでも異質だとわかる建物だ。

 ヨーロッパの古城に足を運んだこともあったが、そのそれとは全くの別物と言っていい。よく見ると監視塔もレンガ造りではなくビル風で、異なる文明、異なる文化の物が惜し気もなく入り組んでいるのだ。

 拠点から城に続く街並みも、帝国のようなレンガ造りや木造の建物ではない。そのすべてがコンクリートの壁。舗装も懐かしいアスファルトで敷かれている。


 瓶詰やボトル入りの飲料、透明なパックに詰められたサンドイッチ。ガラス張りのショーウィンドウに明るい店内。元の世界に戻ったと錯覚できないのは、そこにいる住人たちのせいだろう。

 観光気分で街路を進む。気が付くとそこには堅牢そうな大きなドアが現れたのだった。


 10mはあろう城壁に備え付けられた大きなドアは、如何にもな機械音と動作音を上げ、仰々しく開いていく。

 目の前にはガラス張りの高層ビル見知った自動ドアがあった。


「さ、どうぞ」

 いかにも執事、というキッチリと分けた白髪、燕尾服に白手袋の老人。つまりギークが言っていたバトラー氏であろう、その老人に案内され、エレベーターに乗る。チン、と音が鳴ると同時にドアを開き、先に出たバトラー氏がまた現れた扉を開け、中に入るよう促す。


 縦に長く大きな長方形のテーブル、その向こう正面に少女が鎮座する。


「お忙しい中での謁見のお許し恐悦至極でございます。魔王様にお初にお目にかかります、私めは先にギークよりご紹介に預かりましたジャッカルと申します」


 この世界の礼儀に倣い、片膝を突き頭を垂れる。


「まぁ堅苦しいのはよそうよ。ボクはそういうのは得意じゃないしさ。ジャッカルって言ったっけ、階級は中尉であってた?」


 バトラー氏が『こちらへ』とテーブルに備えた椅子に座るよう促し、では、と一礼しテーブルについた。


「はっ、こちらに来る前の階級は中尉でありまして、僭越ながら小隊長を任されておりました」


「ふむ。実はボクも昔は軍属上がりの軍人でさ。最終的な階級は中尉だったんだよ〜」


 口角を上げて楽しそうに微笑む『魔王』は、確かにまだ可愛らしい少女と言っても過言ではない姿だった。

 だからこそ、この少女が魔王と呼ばれることに恐怖や畏怖の気持ちよりも興味が先だってしまう。それに、帝国ですら追い出した流れ者の我々を快く受け入れたというのにも疑問がある。


「魔王様も中尉であらせられましたか、とはいえ、私などとは違い、さぞご活躍なされたでしょう」


「いや、そんなことはないさ、言ったろ、ボクは軍属上がりなんだよ。軍は『人手不足』を『階級を餌』に解消したのさ」

 微笑みから一瞬翳りを見せ、また取り繕うように続ける。

「ところで"中尉"、君たちは帝国から追い出されてきたと''大佐"に聞いたけど、詳しく教えてくれないかな?」


「はっ。我々は訓練任務中、原因不明の大きな爆発に巻き込まれ、気がついたところ、帝国の城内におりました。帝国の宰相殿が言うには、魔法とやらで召喚した、と」


「なるほど、ボクとは違って誰かに呼び出されたみたいな感じか」


「左様で。我々は装備一式でおりましたので、温存しながらも帝国にて傭兵紛いのことを行っておりましたが、弾薬も底をつき、弾の無い銃などは扱いに困るとのことになり、僅かな手切金とともに追い出され、ギークが噂に聞いたこの国を目指してきたのであります」


 俺がそう言うと、魔王は黙って眉間に皺を寄せ、目頭をつまみながらウンウンと唸り始めた。


「よし、わかった、"中尉"、警察ってわかる?」


「は、はぁ…?」


「この街はね、もう知ってると思うけど、他から流れてきたいろんな人たちが集まって出来てるんだよね。衣食住には困らないから争いや諍いも少ないんだけど、それでも文化が違う者たちが集まるとどうしてもね。そこで、君たち!この街で警察をやってみないか!」


 魔王と呼ばれる少女が立ち上がり、人差し指を俺に向けて『警察をやれ』ときたもんだ。

 警察か。子供の時は警官に憧れたもんだ。だが、親が退役軍人だったから、俺も当たり前のように軍に入った。その俺が警察に?ワクワクするじゃねえか、一歩間違ってたらこの世界でならず者として生きていくしか無いと一度は覚悟を決めたが、なんてこった、真逆の世界だ。


「はっ、魔王様直々の勅命、謹んでお受け致します。この国の警察機関はどのように?」

 警察と言ってもいろいろある。祖国では地域毎のポリスにシェリフ、連邦警察、FBIやCIA、SWAT・・・

「ないよ」

「えっ」

「ないよ」

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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