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第6戦線~そんなことより中尉はオオルリご存知でない?~

 西暦20XX年。


 何の因果があってか、とある国のとある海兵隊の、とある一個小隊が丸々消滅した。

 爆散したといっても過言ではない。プレスリリース上では『合同訓練中にテロ組織に襲撃され全員行方不明、生死不明、捜索打ち切り』となった。

 兵器、つまりミサイルだかロケットだか、そんな類のものが爆発したのは間違いないが、その場にあった車両や装備、兵隊が諸々消失していたのだ。


 当の本人たちはそうとは知らず、混乱もあったが幾分統制は取れており、小隊53人が一丸となって見知らぬ土地で生き延びた。

 そう、消失したと見られていた小隊は、過去か未来か異世界か、見知らぬ場所に居た。


 小隊は4人一組の班が三組の12人と分隊長で併せて13人で1分隊、4分隊と小隊長で一個小隊を形成していた。

 転移後は当初、車両やライフルなどの装備を用いて傭兵として帝国で雇われていたが、弾薬や燃料が底をついてしまったところで利用価値がなくなり、その処遇に手をこまねいていた帝国によって追い出されてしまった。

 最後に支払われた報酬も残り僅か、食事も満足に出来ない中、数名が病気や怪我が原因で死んでしまったり、不満の末に行方くらましてしまったりと脱落していった。

 残った隊員が生き残るための情報収集の中で、「魔国」の噂を聞きつけたギークの発案により「魔国」を目的地としたのだ。


「それでギーク。どうだった?魔王?とやら・・・とは上手く話をつけてきたのか?」


 隊員が寝静まったテントのそばで焚き火を挟み、スキンヘッドの部隊長と長髪のギークがグラスを傾けている。


 『魔王』というキーワードに反応したのか、思い出したようにギークが早口で喋り始める。


「そうだよそれそれ、聞いてよ中尉、魔王様とは三回謁見させて頂いてね、三回、いやそれが魔王様はそれはそれはもう美しい方でね、可愛らしいというのがぴったりなんだけどそう言ってしまうにはどうにも不敬だと思うんだよ、もう美しいと形容させてもらうねここは、ああそうそう、それで声も透き通るような美しい声、まるでオオルリのさえずりを思わせるようだった、いや魔王様をオオルリに例えるのは不敬だな、オオルリが魔王様を真似ているんだよ分かるかい中尉、僕はそれを三度も拝聴してね、まるで天国に居るようだった、いや天国だった、僕はいつまでも聴いていたかった」


「なに?もう一回言ってくれ。不要な情報が多すぎて要点がわからん、三回だって?」

 『中尉』と呼ばれた部隊長が目頭をつまみ、うな垂れる。


「そう三回謁見した。そんなことより中尉はオオルリご存知でない?僕さ、部隊に着任する前にアジア旅行に行ってさ、そこで鳥の美しいさえずりが聞こえてきて、見ると目の覚めるような青に白のツートンの、これまた姿も美しい鳥が居るじゃない?それでつい現地の人に聞いたんだよ、あの美しい鳥はなんていう鳥ですか?ってそしたら、ああ、ごめんごめん、一回目の謁見で拠点を紹介してくれたんだ魔王様が。そのときもこれまた美しいお声でね、お会いするたびにその美声に磨きが掛かっているというか、僕はそのお声に先に触れることの出来る僕自身の耳を恨んだよ、ああ、そうそう、その拠点もね、魔王様(おん)自ら御造りになられたとかでさ、今座ってる椅子も魔王様から賜った物なんだけど、これも魔王様が御作りになられたとかで凄くない!?見てよほらここ中尉、ほらここのカーブの角度も魔王様の慈悲深さが現れているというか、そしてこの!ちょっと~見てよ中尉、ここ!この装飾の彫りがまた美しいんだ、美しいと言えば魔王様がほんと可愛らしさと美しさが同居しているんだよ、それで中尉あのドラマ知ってる?前の世界でやってた動画配信する子達のドタバタコメディのドラマ、あの役者の子にそっくりというか、いやあの役者の子は魔王様の下位互換とも言うべきだね」


「おい落ち着け、全然話が入ってこねぇ。あと静かにしろ」


「ああ、ごめんごめん、どこまで話したっけ、ああ、そうそう一回目の謁見で拠点を紹介してくれてね、それで次の日にまた来いって言われてさ」

 部隊長が人差し指を口の前で立ててゆっくりと前後に動かしながら遮る。


「待て待て、そうだ、いいぞ、要点だけを言うんだ、そうじゃなきゃキンキンに冷えたボストンとピザだ。お前の話はいつも長い。それも大体どうでもいい部分がデカ過ぎる。(かぁ)ちゃんに言われなかったか?まず結論から話せと」


「はは、ごめんごめん、悪かったって。ところで中尉はボストン派なの?僕は断然バドライト派だね、ピザにはやっぱりスッキリしたバドライトだよ、ピザのこってりしたチーズとソースを洗い流すくらい飲みたいもんね、いや、そうじゃなくて、ピザの話は今関係ないだろ中尉いいかげんにしてよ、話聞く気あるの?まあいいや、二回目の謁見では僕らの装備について聞かれたんだけど、僕らってほら今は一張羅といえば勤務服くらいしかないだろ、正装があればよかったんだけどね、正装といえば僕の叔母さん、母さんの妹のマリー叔母さんなんだけど、その叔母さんが海兵隊に配属になった時に正装がとっても似合うって写真を何枚も撮ってくれてね、そのたびに僕も顔を作るので大変だったよ、そのたびにキリッて、見ててこの顔、中尉見てってば、キリッ、これを何回も何回もやるもんだからほっぺたが引きつっちゃってさ、ああごめんごめん、それで魔王様、僕を見て仰ったんだ『君の階級は?』って、そして僕はハッとして魔王様を凝視してしまって、不敬かと思ったんだけどやっぱりそのお顔が可愛らしくて美しくて、つまり麗しいという表現では足りないということなんだけど、で、でだよ、ついそれはそれは美しいと感じてそのお顔に見とれてしまったんだけど、お顔全体で言うとやっぱ少し幼さを残していて可愛らしいんだ、でもそのパーツひとつひとつは端整でもうこの世の黄金比の基準といってもいいね、ああ、この話はまた今度しようかな、はは、怖い顔しないでよ、で、それで、僕は自慢じゃないけど中尉、僕はあのビッグスリーの大学を出てるじゃん、だから自慢じゃないんだけど、あ、怒らないでよ?現役ビッグスリー卒業の情報将校なわけだし正直に『大佐です』っていったんだ」


「いいぜ、やろうってんなら相手してやる大佐どの」


「だから怒らないでって言ってるじゃん、怒らないで聞いてよ、僕はデスクワークが主なんだから体術には自信がないんだ、ブルース・リーとジャッキー・チェンは好きだけどね、アチョー!ホアチャー!それで悪いんだけど、続き喋ってもいいかな?魔王様ってああ見えてボクっ娘でさ、可愛いよね、しかも僕が退室するとき、いやごめん、謁見で僕が階級を言ったら魔王様もご満悦ってお顔をなさってさ、軍隊とかそういう無骨なイメージなことにも造詣が深そうなんだよね、さすが我らが麗しの魔王様だね、それで、僕らが使ってた装備についても興味津々に聞いてくださってさぁ、なんたってビッグスリーMIT、マサチューセッツ卒だからね、君たちは分解清掃も軽々こなすけどさ、僕は装備の設計図まで頭に入ってる。それで執事のバトラーさんがさ、そう、執事がバトラーなんだよ、プププ、もうギャグかと思ったよ、燕尾服に白手袋してさ、んで、名前がバトラーさんプププ、それでそのバトラーさんが紙とペンを用意してくれてね、執事でバトラーってプププ、それで、僕らの使ってたライフルの設計図をサラサラーッて書いたんだよ、まぁMIT卒のボクならではだね、そしたら魔王様がさ、『ふむん』って言いながらその設計図を覗き込んだんだよ、ああ、魔王様よく『ふむん』って仰られるんだけど、これがちゃんとさ、ふと、むと、んを発音してふむんって言うんだよ、いや、その魔王様がさ、その覗き込んだときに香るわけよ、良い匂いでさ、甘い花の香りのような、いやあれは花の香りの原初だね、魔王様の香りを花が模倣してる、あれは絶対良いシャンプー使ってるね」


 止まらないギークの語りにしかめっ面で頭を掻く部隊長。

「つまり、その何回目かの謁見でライフルの説明をした、そういうことだな?」


「ちゃんと聞いてる中尉?二回目の謁見だよ、いい加減にしてよね。まあそれ以外はよく分かったね、中尉凄いね?三回目の謁見でライフル50丁と装甲車一台くれた。ああごめんごめん、それでね、あ、なんかちょっと冷えてきたね、中尉、薪足してよボクちょっと寒いな、ああ、それで続き話していいかな?他に何か必要なものは無いかって魔王様が慈悲のお声を掛けてくださってね、僕は雨風さえ凌げればあとは何とかなりますって自信満々にお答えしたんだけど、そうしたら魔王様、あははって笑ってくださってね、バトラーの執事さん、じゃなかった、執事のバトラーさん、まあどっちでもいいか、でも聞いてよ中尉、あははって笑った魔王様には八重歯があってねあれが魔王様が笑顔をお見せくださった時だけ拝見できるんだよ初日と二回目にはさすがの僕も気付かなかったね僕はあの日あの時麗しの『魔王様の八重歯教』に改宗しました、神よ赦したまえなんちゃって。そうそう他に必要なものってその場では緊張してたこともあって思い浮かばなかったから、つい変に声が裏返っちゃってさ、アッとくに今はナイですぅーって言っちゃってさ、さすがに不敬すぎたかーってバトラーさんのことチラッて見ちゃったんだけど大丈夫だったわ。さっそく『魔王様の八重歯教』の信心深さが出ちゃったかーとか思ったんだけどねごめんね中尉今思えばビールとピザって言っておけばよかったよね、いやそれはそれで不敬かプププ僕って緊張するとアッって変な声出ちゃうの恥ずかしいんだけど、中尉もそういうのある?無さそうだよね中尉ってキンタマまで鋼鉄で出来てそうだもんね。そんなキンタマ中尉にもマリー叔母さんの作るミートピザお腹いっぱい食べさせてあげたかったなぁ、ごめんねキンタマ中尉もう二度と食べることは叶わないのかな?マリー叔母さんのミートピザが恋しいよがっかりだよ僕。・・・そういえば中尉、この世界にもビールってあると思う?」


 静かに立ち上がった部隊長が胸の前で両手を組み、首を左右に振ってゴキッゴキッと鳴らしたかと思うと

「ビールくらいあるだろ。それと要点を無駄話の最中に混ぜ込むな。ライフル50丁と装甲車一台だって?メタ的に言うと長すぎて誰も読んじゃくれねぇ。それとよ、誰がキンタマだ。おめぇをミートボールにしてやる」

そう言ったところでギークの記憶は途絶えた。

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