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第5戦線~まぁトッツィロールを食い尽くしちまった俺たちァただの大飯食らいだからな~

 そこまで人通りが多いわけではないが、それでも混雑しているといっても過言ではない大きな通り。他国では見かけない()()()()()()が走っている。


「いやぁそれにしても・・・この魔国って国は・・・うわさに違わず随分と奇怪なトコですねぇ」


「違いねぇ・・・いや、うわさ以上にいろんなやつが居るぜ・・・」


 行きかう多種多様な人々。

 側頭部から耳が生え、目は見慣れたものよりも大きめ、尻尾をゆらゆらと振りながら歩くひと。

 透き通るような白い肌に長く尖った耳のひと。

 そんな中で一際目立つのが、黄色や茶色の髪と青やブラウンの瞳、共通しているのは筋骨隆々であるというこの男たち。数人は肩から逆さまに吊るした猪か毛深い豚のようなものを提げている。

 上着は着ていない者のほうが多いが、上下ともに黄土色の生地に黒やグリーンがまばらに散りばめられた服を着ていて目立つ。

 各々が右を見たり左を見たり、観光客のようにキョロキョロと物珍しそうに眺めているが、見慣れない背格好の者たちが集団で歩いているため、周囲の者は見てみぬ振りだ。


「まぁ弾薬(トッツィロール)を食い尽くしちまった俺たちァただの大飯食らいだからな。この街でなんとかやれりゃあ良いんだけどサ」


「ギークが言うにゃココは俺たちが住んでたトコよか便利らしい。クルマまで走ってやがる」


「それにしてもよ・・・見てみろよ。。あの娘コ、プレイメイトを思い出さねぇか・・・。いや、ケモ耳の時点でそれ以上だ・・・。この世で一番かも知れねぇ・・・」


「お前はそればっかりだな・・・。同じこと言ってホイホイ着いていった先でケツの毛まで毟られたのはもう忘れたのか」


「そんなこともあったけどよぉ、きっとあの子に会うための神が与えたもうた試練だったんだよ」


 大声でそんな下品な会話をする奇妙な集団に、モーゼの十戒のごとく、人の波が割れていく。


「貴様ら、悪目立ちするような言動は良い傾向ではない。今後とも地域住民を刺激するような事は慎むようにしろ。俺たちはもう()()と追い出されるわけにゃいかねえ。それとも雑草のシチューが恋しいか?」

 先頭を歩く黒い肌に剃りあげたスキンヘッド、他の男たちよりも一回り大きい男が注意する。


「へぇへぇ、小隊ちょ・・・いや今は部隊長だったか。いけねぇいけねぇ。ところでギークが借りたっつう拠点にはまだ着かないんで?」


 スキンヘッドの男、部隊長が足を止め黙って見上げる。

「総員ンッ!整列ゥッ!」

 無駄口を叩いていた筋骨隆々の男たちは、人が変わったかのように整列し、微動だにしない。


「えーん、あのおじちゃんたちこわいよぉ~」


「シッ、見ちゃいけません!あっちいきましょ」


「ン右向けェ右ィッ!」


 ザッザッと揃えられた足音とともに全員が右に向かって列を組んだまま向きなおす。


「なんでぇ・・・あのケモ耳の嬢ちゃんコブツキだったんかよぉ」


 泣く子供の手を引く女性を横目に、軽口の男が向き直った正面には、予想していたような建物ではなく、それよりも大きく立派なビルに思わず息を呑んだ。

 他の屈強そうな男たちもビルに圧倒されつつ、口々に驚きと喜びを発したようでどよめいた。


【ピットブル傭兵隊】

 建物の入り口にはそう書かれた看板が提げられ、49人の男たちを迎えていた。


 *


 数日前・・・。

 静まり返る玉座の間。


 玉座に座る軍服の少女の前には、片膝立ちで「ふぅ」とため息に似た吐息をついた、少女とはまた違ったデザインの軍服に身を包んだ男。


「つまり・・・君たちがこの街で生活する場所を用意しろ、そういうこと?」


 少女は、それはそれは如何にもつまらなさそうに、玉座の肘掛にあごを乗せて視線を合わさずに言った。とはいえチラチラと見る姿は興味深そうではある。

 つまり。久しぶりの来客、それも軍人とあって少女は実のところ少々、いや結構浮き足立っていた。


「いえ、そんな、とんでもございませんっ!そんな用意しろだなんて滅相もございませんでございます・・・。ただ、その、こちらの街で生活することと、その、そして住まわせていただくのにあたりまして、あの、何か有事の際にですね、えーと、そのお手伝いをさせていただければと。その、それ位しか我々には能がなく・・・いや、それならば是非!お役に立てるかと!」


 軍服の男は片膝立ちから0コンマ1秒ともかからぬ瞬時に土下座をし、その垂れた頭の髪先からは冷や汗だろう、雫がぽたぽたと落ちる。


 少女が「ふむん」と人差し指で自分の鼻先を撫でる。

 男はその一挙手一投足、一挙一動にも反応してイチイチ身体をピクンとさせるほどに緊張しているようだ。


 魔王が勢いよく腕を伸ばす。

 ビクンッ


 魔王が伸ばした腕を勢いよく下ろす。

 ビクンッビクンッ


「お戯れが酷すぎます、ご主人様」

 少女の傍らに立つ燕尾服の男が、やれやれ、といった感じでこめかみを押さえる。


「あはは、ごめんごめん。わかった、では大通りの30番の建物を使うといいよ。50人程度なら問題なく寝泊りも出来るだろうしさ。そろそろ住人も増えてきたから警備がほしいと思っていたとこなんだ。装備もボクのほうで用意しよう。えーと、ギーク殿?だっけ?君たちに警備をお願いしたいな。で、悪いんだけど明日また同じ時間に来られる?装備のことも相談したいし、君たちのことも詳しく聞きたいな」


 笑顔で目を輝かせ、それまでとは違い前のめりになって唾を飛ばす勢いの少女。


「それはもう、本当にありがとうございます!あの、承知いたしました!ではまた明日、お目通り頂きたく存じ上げますので!よろしくお願いします!」


 燕尾服の男が扉を開け退出を促すと、ギークは青い瞳をキラキラさせながら、何度も何度も頭を下げ出て行った。


「いやぁこれは久々に腕が鳴るね!何百年振りかに面白いものが作れそうでわくわくするね!」


 少女は足を投げ出すように玉座から降りると「わはは」と外套を翻しながら燕尾服の男とともに部屋を出るのだった。

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