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第4戦線~興味が嫌悪感に勝率3割5分で勝利することがあり、遂に数年前、マジック点灯を待たずにリーグ優勝してしまった~

「ふんふん~ふふふ~んふ~」


 鼻息ではない。

 ボクは、いつの記憶のものだったかもう思い出せないが、なんとなく思い出したメロディを鼻歌で奏でる。

 そんな鼻息のような鼻歌交じりで石作りの螺旋階段を肩を揺らしながら下りていく。

 構造上からかボクの鼻歌を良く響かせ、一流の鼻歌奏者にでもなった気分だ。

 いや、ここでは僕しかいない、つまりボクが至高で究極の鼻歌奏者であることは間違いない。鼻歌奏者大会があったとしたら、シード権獲得で無敗の勝者だ。間違いない。


 一番下まで降り、扉を開く。眼前に大きな草原が広がる。途端に鼻歌奏者世界一の腕前が陳腐なものになるのを感じ、ボクは鼻歌奏者を引退した。


 引退セレモニーは盛大にしたい。


 普通の女の子に戻ります。


 城の裏手から向こうの山頂まで一直線に石畳で舗装されている。ボクが舗装した。

 海ではなく山を割ったような一本の筋の先、その頂の地平線がボクにこの星が丸いことを教えてくれる。

 そのまっすぐな道の途中、山の麓に当たる部分では無人の機械たちが二十四時間休むことなく工事を進めていた。


 遠くからではその進捗具合は分からない。だが、ドリルとキャタピラのついた重機や六本足のパワーショベル、逆関節の足と一本腕のアームのついたクレーン。どれもが人よりも遥かに大きく、少女の5倍はあろうかというサイズだ。それは遠くからでもよく見える。


 ドリルで固い岩盤を崩しながら鉱石などを分別したり、滑落防止の鉄骨を組んだり路面を舗装したりと作業は目まぐるしく進んでいく。

 ボクは機械を組み立てるのに3年、山頂を整備するのに3年、そしてそれから3年3ヶ月で今まさに大きなダムが出来上がろうとしていた。

 ダムから舗装の下を太いパイプが伸び、その先には既に完成した上下水道施設がある。

 ダムからの水を浄水し、下水をまた浄水した後ダムへと返すことで再度浄水として使用可能だ。

 元々は年数や水質など暇つぶ・・・研究のために堀り進めていたものだったが、衛星の保存データに水源についての建設資料があったため利用することになった。


 山間には似つかわしくない、およそビルと言っても差し支えない城から出た正面にも舗装された大通りが一本続く。

 大通りを挟むように植えられた街路樹はまだ育ち盛りで、現代風の店舗や住居といった建物が並ぶ。

 しかしどこにも人影はなく、ゴーストタウンというよりは1/1スケールの模型のようだ。


 まだ、そこに住んだり、店を構える人は居ない。


 そう、今は()だ。


 ボクが持て余した時間をもって作った、実際1/1スケールの模型のようなものだ。暇つぶしに建物を作り、殺風景だと思って建具や家具を作り、ディティールにもこだわった実サイズジオラマなのだ。

 電気、上下水道などのインフラは整えど、未だここで生活する人は現れていない。


 そう、(いま)だに。


 だがボクの飽くなき挑戦は続く。この一見完成されたジオラマの最終目的。画竜点睛を欠くこの街を真の完成に導くのだ。


 そんなリアルなジオラマの片隅には車輌もある。

 ボクのデータベース上では最新の、量子エンジンを搭載した超エコカー。


 重機に使用しているのは水素エンジンだけれども、ボクの愛車は小型量子エンジンの二輪車、所謂バイクだ。排気で煙をモクモクと上げることはないが音は良い。オートマの軍用二輪車だから無骨なデザインだがそれがまた良い。


 そんな愛車で大通りをまっすぐ進んでいく。速度超過で追いかけてくる警察は居ない。

 なにせ人も歩いていなければ他の車輌も走っていないんだから。

 そしてボクが法である。


 ちょうどダムの対角線上の麓にあたると、外界との出入り口になる。混沌だまり、神々の吐瀉物とでも言いたい化け物の巣窟だ。


 そこにボクはトンネルを掘っていた。このトンネルには構想30年、着工まで10年、完成まで10年、そのうちトンネルのトの字も忘れていた期間が15年あった。

 思い出しては掘削重機を製作するための設備を作るための設備を作ったり、崩落してしまったりで、トンネルが完成するまでが何よりも時間がかかってしまったと思う。


 だが、得られたものも大きかった。

 時々、それも年に数回、迷子になったのか挨拶にでも来たのか、腕が何本も生え二足歩行する羆が現れ、そのたびに駆除をするということがあった。

 せっかく進んでいた工事も中断、重機も一度破壊されたこともあったし、手土産の一つも持たずに登場するということは、挨拶というわけでもなかろう。


 ここは今やボクの大切なホームグラウンド、なわばりであって、不法侵入者に遠慮する必要も感じなかった。

 重火器でときに蜂の巣にし、ときに丸焼きにした。

 知識としてクマの肉は硬くて独特の風味があるというのを聞いていたのだが、ここまで永く生きていると興味が嫌悪感に勝率3割5分で勝利することがあり、遂に数年前、マジック点灯を待たずにリーグ優勝してしまった。


 結果、形容しがたい羆のようなモノの肉が旨いということを知った。


 意気揚々と羆のようだった肉を持ち帰り、バトラーに新鮮な生の肉が手に入ったこと、そしてそれを”肉”として喰らいたいという希望を告げた。

 バトラーは持てる知識と技量をもって、非常に柔らかで臭みのない、それでいてしっかりと火も通されている肉料理を用意してくれた。

 それからというもの、すっかりその肉料理に魅了されてしまったというわけだ。

 そうして時に工事を行い、時にジオラマに手を加え、時に肉を喰らう日々を過ごし・・・。



 それから・・・数百年後。




 いつか滅びた国が、




 暇つぶしで作った1/1ジオラマが、




 魔王の統べる国『魔国』と呼ばれるのだった。

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