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第16戦線~ジュニパー・ベリー少尉②~

 山間に銃声が響く。ついに始まった。

 今までは実際に兵が出ることはなかったが、”聖骸”の頭だけを確実に打ち抜くため、ゲリラ戦を行うことにした。

 少数の元海兵隊たちが木々の間から”聖骸”の頭を撃ったあと、前線の帝国兵を一掃する。


 ギーク宰相の描いた設計図をもとに、長さのあるアサルトライフルと携行用の拳銃を作成した。

 どちらも火薬で実弾を発射するもので、帝国兵の装備程度なら簡単に貫くだろう。

 いつだったか、同じように()()()を担いで前線にいたことが遠い昔の様だ。

 いや、もうおとぎ話みたいなもんだな。


「戦況は」

「計画では今頃、既に"聖骸"を確保、前線を退けている頃かと」

 ツルッパゲ国防相の頭が眩しい。


「では順調にいってる事を願おう。ボクたちも次の段階へ進むとしようか」


 椅子に掛けていたコートを大袈裟にひらりとひと回しし、袖を通す。

 それと同時にドアが開き、外ではギーク宰相が待っていた。


「魔王様、データベースからのバックアップ復元は、ほぼ100%と言ったところです。ただバックアップされた時期が魔王様よりも随分と前になるようでして、多少の認識の齟齬が生まれるかもしれません」

「なぁに、そんな短い付き合いじゃない。大丈夫でしょ」


 ジュニパー少尉、彼とは彼が入隊したころからの付き合いであり、まだ戦火が燻り始めた頃だった。

 ボクが無駄に場数を踏んでいる間、大した訓練も受けられずに投げ込まれた生粋の素人である。


 初めのころは徴兵もなく、前線に向かうのは軍人か、借金で首が回らなくなった愚民かのいずれかで、それでも中には、自ら意気込んでやって来る物好きもいるものだから、人員補充はマシだった。


 101部隊は兵站輸送が任務だったので、徐々に前線に近づいていく。

 とはいえ実戦部隊というわけでもないから、配属された新人たちは文句ばかりで、まるでよく鳴く豚の様だった。


 廊下を進みながら宰相が思い出したように続ける。

「そういえば魔王様、頭部の再現もバッチリです!データベースにあった設計図を登録してあっという間に部品の製作から組立まで自動で行われてすごいですね!皮膚の質感や毛髪の再現度なんてハリウッドの特殊メイクアーティストもびっくりでしょうね!」


「折角だからイケメンにしてくれれば、なんて言いそうだが。まぁそこまでの調整は出来ないからな」

「自我の消失防止のために顔は変えられないことになってたんでしたっけ?」

「戦場なんて場所で顔までコロコロ変えられちゃ、味方が困惑するだろうしねぇ」


 宰相の自室兼研究室の隣には大きなラボがある。

 武器やドローンなんかもここで設計、製作され、組立まで行われる。

 ここで設計図までの作業が終われば、それを基に工場で作業することもできる。車両などの大きなものはさすがに移動などを考えるとここで作るの現実的じゃない。


 ラボに入ると中は薄暗く、作業台だけが明るく照らされていて、室内自体は機械が発する光のみで薄気味悪い。

 宰相はマッドサイエンティストにでもなりたいのかっていう雰囲気。


「ふむん。今にも生き返りそうな、生首。キモッ」



 聖骸”を正面に据え、スコープの照準を”頭部に合わせる。

 アップで見るその頭部は異様としか言いようが出来ず、半分腐りかけで蛆の湧いたどす黒い人の頭が付いている。

 ぼたぼたと鼻や耳から蛆が落ちているようで、()()は最悪だろう。


 ”聖骸”が臭うからなのか、本隊はだいぶ後ろから続いている。敵味方の判別も出来ないそうだから、そういった事情もあるんだろう。


 隊長・・・国防相の命令で、一人先陣を切って”聖骸”頭部破壊という重大な任務を受けた。


 風下なせいで、腐臭が鼻につき始めた。


 くさい。くさすぎて照準がぶれる。

 いや、こんなことで失敗は許されない。小石を二つ拾い、それぞれ鼻に詰める。


 作戦開始時刻はもう間も無くだ。


 腕時計の時刻を見るとあと1分23秒。


 深呼吸し呼吸を整え、照準を再度合わせる。

 トリガーに指を掛け時計を再確認。カウントダウン。


 10・・9・・8・・7・・6・・5・・4・・3・・2・・1・・


 タンッと乾いた1初の銃声がこだまする。


 ”聖骸”の腐った頭は一瞬で向こうに爆散。

 機能を停止した”聖骸”は直立したまま、ゆっくりと仰向けに倒れていった。


 熟れすぎたトマトのような頭部を突き抜けた銃弾は、その勢いを衰えさせることなく突き進み、後方にいた指揮官らしき男の馬に命中。

 

 一瞬の出来事だったが、”聖骸”が倒れたと同時に指揮官の馬が暴れ出したのだ。

 帝国の兵士たちは混乱に陥り、暴れる馬から落とされた指揮官らしき男は、その場で何度も何度も馬に踏まれていた。生きてはいないだろう。


 指揮官を失い、混乱に塗れた帝国兵は無我夢中といった感じで、隊列も関係なくこちらに向かってくる。


 ヘルメットについたインカムのスイッチをON。

「『こちらアルファ、目標破壊に成功、第2フェーズ、パターン2に変更』」

「———『パターン2了解。アルファ即時離脱、ベータ待機、ガンマ作戦開始せよ』」

「『了解』」「——『了解』」「——『了解』」


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