第15戦線~ジュニパー・ベリー少尉①~
ボク独りで積み上げてきた街、国がだんだんと形になってきたように思う。
城の展望デッキから町全体が見渡せる。
クレーターの外周に沿うように高く建てた外壁。
その中には住居地区を囲むように商業地区が並んでいる。
舗装された中央道路では昼夜問わず人が行き交い賑わっているようだ。最近はあまり市街地へ赴くことがなくなってしまったので、少し寂しい。
そんな一から育て上げた街に性懲りもなく何度も侵攻しようとしてくる奴らがいる。
そして今日、何度目か分からないが、また攻め入ろうとしていた。
「帝国軍はどの辺まで来てる?認識番号から何か分かった?」
帝国の軍勢の先頭には魔法で動かしているとされる聖骸がいる。
帝国が”聖骸”と呼ぶ兵士は、旧101部隊の身体部分を使ったものだ。
101部隊は「脳以外を機械化した部隊」と言われていた。だから、頭さえ破壊されなければ、何度でも出撃できると。
だが、人間の脳がボクのように何百年も耐えることができるだろうか。実際は脳さえも機械化されていて、”ボク”のオリジナルと言えるパーツは一つも残っていないんじゃなかろうか。
そう考え始めたらどうしても気になって気になって仕方なく、頭を自分で開いてみたことがある。結局、そこにあった物は、無機質な基盤や配線だけだった。
つまり、ここで再び目覚める以前には、いつからか既に”ボク”は”ボク”としてでは無くなっていたのだ。
とはいえ、死んでいない、感情がある、記憶がある、それなら生きていると言っていいはずだ。
そもそも、ボクが人間だったということを証明できない以上、記憶をプログラムされたロボットかもしれないし、生と死についての境界も曖昧だ。
ボクが自分のアイデンティティの在り処について特に気にしない性格で良かった。
衛星には”ボク”がバックアップされていて、それは今も適時行われている。現状バックアップが更新されているのはボクだけであり、そうなると他の仲間たちが生きているとは考えにくい。
しかし、もし停止しているだけならば、バックアップを利用して呼び戻すことができるかもしれない。
ただそれは死人を呼び起こすのとは違う問題が発生する。
どの時点でバックアップされているのかによっては、死んだと思ったら死んでなくて、実はアンドロイドでした!なんてことになるし、そんなことを聞かされたら再起動したことに怒るヤツも出てきそうだ。
認識番号からバックアップを辿り、所属していた者を確定し、起こしても良さそうな(怒らなさそうな)ヤツで、なおかつ今後に役立ちそうな・・・。
できれば仲の良かった人がいいな。
「帝国の軍勢は数を多少減らしているようですが、もう間もなく10km圏内に入るようです」
スキンヘッドの国防大臣がノートをめくり報告する。
警官用の制服を着たいと駄々を捏ねていたが、大臣専用に拵えた制服が大層気に入ったようだ。
「そうなると今回は山越えの所までは来そうだね」
「そのようです。それと、認識番号から特定が完了し、ジュニパー・ベリー少尉とのこと」
「なんと。マジか。取り戻すためにはどうしたら一番かな?」
国防大臣が再びノートのページをペラペラとめくる。
「頭部は聖骸とは別モノで、どうやら”元”人間のものを利用しているようです。ですので、頭部のみを破壊すれば停止すると思われます」
ジュニパー少尉の遺体(と言って良いのか)を使って攻め入ってくるとは、とにかくこれは腹立たしい。勿論それがジュニパー少尉だとかなんてのは知らずしてやってるんだろうけど。
「うん、もう山を越えられたら面倒だし、さっさと終わらせてジュニパー少尉を迎えようじゃあないか」