第14戦線~いや、君は別~
話は戻り、海兵隊長ジャッカルが広間に呼ばれた頃。
「・・・この国の警察機関はどのように?」
「ないよ」
「えっ」
「ないよ」
「主さま、そろそろ例のものをご用意致しましょうか」
少女との間にある暫しの沈黙を破ったのはバトラーだった。
「うむ、そうだそうだ、忘れてたわ〜あはは〜」
バトラーが何かを乗せた少し大きめのトレーをテーブルに置いた。
「む、コレは…制服?ですか?」
「うん、"大佐"と話してね、デザインを教えてもらったんだ。隊章はどうかな?」
俺が憧れた、警察の制服そのものとも言えるデザインだ。
なにより、この世界に来てから、祖国のデザインというものに飢餓を覚えていた。帝国の衣類や食べ物、その全てが祖国とは全く違うものだったから。
上着を広げると感嘆の声が漏れる。
「魔王様、最高です!街の警備に就くものにピッタリです!隊服以外に袖を通せるなんて素晴らしい!」
「いや、君は別」
「えっ」
「君は別」
*
私はなぜか、別の部屋へと案内された。
言うなれば会議室、円卓と壁一面のモニターがあり、この世界とは掛け離れた司令室とも言える。
そしてギークが何故か円卓についていた。
「どうだい中尉?驚いたでしょ?僕もこの部屋に初めて入った時にはビックリしちゃった、このモニタでは街の入り口から城の中まで全てお見通しってわけでさ、つまりだよ僕らがこの街に入って少尉が女の子お尻を追いかけてたとこまで丸見えだったんだよ、面白いよね、そうだ中尉は今日から国防相だよ僕は宰相凄いよねこの采配にはびっくり仰天で流石は我らが愛しの魔王様だね、マリー叔母さんにも教えて上げたいよ、大佐から一国の宰相まで上り詰めたんだからね我が家系一番の出世頭だよ僕は」
円卓のギークに詰め寄り、胸元を掴み確かめる。
「お前はいつも無駄な情報量が多い。なんだって?お前が宰相で?俺が?国防相?大臣?」
「く、苦しいよ中尉、じゃなくて国防大臣…。僕が前回の謁見の際に宰相に、その時にじゃあ中尉は国防大臣にしてやってくださいって推しに推したのさ。この国には軍も無いらしくてね、キンタマまで鋼鉄の君ならうってつけの役職だよ」
「あはは、仲が良いんだな、羨ましいな〜」
つい魔王様のことを忘れ感情に任せてしまったが、俺が国防相なんてのは柄じゃない。そんな大きな仕事はした事がない。
「ま、魔王様、俺…いや私が国防大臣なんて荷が重過ぎます」
「まぁまぁ、そう堅いことは言わずにやってみてよ。今まで軍は必要無かったから作らなかった、そして、人材も足りなかった。帝国じゃあるまいし、流石に市民に銃や剣を持たせて『はい、軍人ね』というのは乱暴だからね」
軍服のような服を着て外套を纏っているが、やはり少女は少女、まるでハロウィンの仮装にも見えてくる。
その少女が続ける。
「ボクは一人でここに、何年何十年何百年も、ただ一人でやってきたんだ。そこに優秀な人材が来たら、手伝ってもらうの悪くないと思うんだけどなぁ〜、ボクの"ごっこ遊び"に少し付き合ってよ」
何十年?何百年??頭が混乱するのを堪え、一つ大きく深呼吸する。
「承知しました、私の出来る限りを精一杯やらせていただきたい所存でございます」
「やったねッ!ありがとう、じゃあこれからよろしくね、国防大臣!」
魔王様はそう言いながら円卓についた。俺もギークと魔王様の対角、線で結ぶと三角なる場所に座る。
「でさ中尉、じゃないね、大臣にここに来てもらったのはさ警察組織についてなんだけど、僕らの知ってる身近な警察はポリスやシェリフでしょ?なんであいつらいつもハンバーガー食べてるイメージあるんだろうね、僕もハンバーガーが恋しくなっちゃったよマックのテリヤキも捨てがたいんだけどやっぱりチーズバーガーかな、ああ、ごめんごめん、そうそうポリスとかシェリフとか必要なんだけど、でもそれだけじゃなくてこの国にはもっと大きな防衛力も必要だと思うんだ。そこで思いついたのがニッポンの自衛隊だよ。あれは元々警察組織だったんだけど、時代とともに国防を担うようになったんだよ。それをこの国でもやろうというわけさ」
「確かに、自衛隊とは合同訓練で一緒になった事がある。彼らは戦争こそしないが、国防のために組織されている上、錬度は我々の比じゃなかった。うむ。魔国自衛隊、というわけか」
「ふむん、ボクもその話には賛成だ。戦争で一番苦しむのは民衆だからね、他の国と戦争をしたいわけじゃない、戦争はなるべく避けたい、だけど降りかかる火の粉は払いたい。そしたらギークが教えてくれたんだよね〜」
「というわけで国防大臣、警察と軍、それらを君が束ねてくれれば万事解決なんだ。で、だよ大臣」
バトラーが円卓いっぱいにロール紙を広げると、組織図が既に記載されている。
ギークが組織図の頂点を指差しながら説明する。
「もちろん国のトップは魔王様なんだけど、魔王様の次に宰相の僕と国防部門に君だよ。やっぱり隊の中でも学歴が一番だから才能を認められたって言うのかな、これは両親も鼻が高いね、それで、君の下に自衛隊、その下に警察を作りたいんだ」
ギークがペンで書き込んでいく。俺はそれで構わないのだが、多くの人員の募集なども必要だろう。
黙って色々も考えていると、魔王様がギークに続ける。
「人員は多くなくて大丈夫かな。元々警備は厳重でね、色々防衛設備は整ってはいるんだ。ただ、悪いやつが街に入り込んだ時とか、まぁそんな感じで良いんだよ。時間だけは有り余っていたからね。ボクは」
「そうなると少数精鋭となりますか。私の部下もそこまで多くはないですし、何か良い案でも?」