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2.幼馴染と作戦会議

 *



「というわけだから、力を貸してくださる? オデル」

「……は?」


 午後の昼下がり。

 一ヶ月ぶりに再会し、会いに来てくれていた幼馴染であり、フレイヤと同じ立場の公爵令息――オデル・スィエラに向かって、彼女はそう微笑んだ。


 私室に呼び、こうして茶を飲むのはかなり久しぶりと言える。フレイヤが事故に遭い、一ヶ月経ってからオデルがここにきたのは、彼が宮廷魔術師として勤め始め、そして地方に研修に行かされていたからだ。


 その一方でオデルは、漆黒の髪に切れ長の青い目……天上の神々が作ったと周囲から言われるほど端正な顔立ちを歪め、頭を抱えている。


(何か、おかしなことを言ってしまったかしら?)


 オデルには今、馬車の事故に遭ってから今日に至るまでの一通りの説明をしたはずなのだが。


 あまり感情的なものを交えすぎず、できる限り事務的に説明したつもりだったのだが、不備があったのかもしれない。

 そう思っていたのだが、どうやらそういう意味ではなかったらしい。


「貴女は……どうしてそんなにも冷静なんだ」

「……どういう意味かしら?」

「だから。それだけのことがこの三ヶ月間に起きたというのに、どうしてそんなにも淡々と語れるのかと聞いたんだ」


 分かりにくいが、どうやらこの幼馴染はフレイヤのことを心配してくれているらしい。それはいかにも機嫌が悪そうな表情からも見てとれた。彼は、感情を殺すのが得意だから。


 使用人たちですら父の顔色を窺い、フレイヤに声をかけることができていなかったため、本当の意味での慰めは初めてのものだった(婚約者からの慰めはカウントしない)。


 それもあり、少し驚いてしまう。


 オデルは、スィエラ公爵家の跡取り息子だ。

 歳はフレイヤと同じく十八歳である。

 同年代かつ同爵位を持つ親しい間柄ということもあり、二人は幼い頃から親しくしていた。


 お互いに競い合い、実力を高め合う。そんな関係だ。

 交友関係にすら口出しをしてくるタイプであった父が認めた人間の中で唯一、フレイヤが心の底から信じられる人間だと言えよう。


(何より、誠実で嘘をつかないもの。これ以上に信用できる友人は、私にはいないわ)


 交友関係を父親に縛られてきたから、というだけでなく、フレイヤ自身が慎重かつ疑り深い性格だったのもある。

 何より今回の件は自身の一族に関することだ。そうおいそれと知り合い未満の他人に頼めるようなことではない。


 そして大変悔しいが、今回の一件を解決するためには、外部の人間の力が不可欠であった。


(お父様と婚約者にばれるわけにはいかないし……何より、私が一人で行動することそのものが、今はまだ難しい)


 淑女は一人では外出しない、など、本当に忌々しい決まりだ。

 しかしこの問題に着手するのは、父親と詐欺師を一掃してからでいいだろう。


 などと色々考えつつも、フレイヤはにこりと微笑む。


「気にしていないわけではないわ。でも、今必要ないだけ」

「必要ない……」

「ええ。だってこれから、私はとびきり大きなことをするんですもの。そんな小さいことに構っていられないわ」


 めらめらと胸の内でくすぶる炎を抑えつつ言えば、オデルはしばし考え込んだ後、ため息をこぼす。


「分かった。貴女がそう言うのであれば、協力しよう」

「本当? 嬉しいわ。もちろんちゃんと報酬も用意していてよ」


 今回の一件は、フレイヤの事故の対応も含めて、正直内輪揉めの一種だ。それを他家の公爵令息、しかも宮廷魔術師として活躍し名声も得ている彼に頼む以上、それ相応の見返りは用意している。


(私名義の鉱山もあるし、私が無事に公爵になったのであれば、それ以外の家の資源も使えるわ。正直それらの損失は痛手ではあるけれど、スィエラ公爵家に借りを作るよりかはよっぽどマシだから)


 そのつもりで伝えたのだが、オデルは「その話は成功してからでいい」と言い、それっきりになってしまった。


(興味がないのかしら?)


 そのことを不思議に思っていると、オデルがフレイヤを見てくる。


「それで。フレイヤ。貴女は一体どのようにして、公爵とそのクズな婚約者を一掃するつもりだ?」


 品行方正、謹厳実直をモットーとしているオデルがお世辞にも品が良いとは言いがたい言葉を吐き捨てたことに対して、フレイヤは驚いてしまった。淑女の仮面が外れそうだ。

 しかしそれを指摘するのもどうかと思い、カップに口をつけて取り繕ってから口を開く。


「まず、婚約者のほう。こちらは、彼自身ではなく実行者のほうを探そうと思っているわ」

「誰か分かっているのか?」

「相手が誰かは分からなかったけれど、どこから連絡していたのかは知っているわ。使った魔導具を放置していたのを、こっそり調べたから」

「……その程度の隠蔽もできない男なのか」

「ええ。そもそも、私にばれているとすら思っていないでしょうね」


 ジェイムスという詐欺師はつくづく、フレイヤのことを侮りすぎてはいないだろうか。

 その証拠に、彼はことあるごとにその実行者……聞いた感じだと友人関係にある男と頻繁に連絡を取り合っている。

 フレイヤが聞いてしまったのもその男との魔導具でのやりとりだった。


 そういった連絡用の魔導具には必ず、連絡できる魔導具の数に制限がある。

 魔導具一つ一つにはきちんと魔法陣が刻み込まれており、その魔法陣を認証することで連絡をすることができるのが魔導通信機と呼ばれるものだ。そして魔法陣さえ分かっていれば追跡は可能。

 そしてフレイヤほどの魔術の腕があれば、その程度を調べることなど余裕だ。


 学園における魔術に関してのテストで、フレイヤはいつも一位を取っていたオデルの次に位置していたから。


(詐欺師だということを知ったときに立ち去ってしまって、後でやりとりを傍受できなかったことを後悔したのだけれど……ほんと、迂闊で助かったわ)


 それは同時に、そんな迂闊な男に乗っ取られかけそうだったことそのものが腹立たしいのだが。

 今はこらえる。


 代わりに、うっとりするほどの笑みを浮かべて首を傾げた。


「オデルには、この相手が誰なのかを確かめて欲しいのよ」

「魔法陣は」

「これに書き留めておいたわ」


 そう言い、一枚の紙を差し出す。それを受け取ったオデルは一度見て、すぐに魔術で燃やしてしまった。証拠を下手に残さないようにするためだろう。


「分かった。請け負おう」

「ありがとう」

「他にやることはあるか」

「私との秘密の連絡用に、魔導具を送ってくださらない? メッセージカードに『前回は忘れてすまない』とでも書いて、見舞い用の花束の中にでも紛れ込ませてくれたらいいから」

「分かった」


 なぜ花束の中に紛れ込ませればいいと言ったかというと、オデルが今日見舞い用の花束を持ってこなかったからだ。


(彼はもともと、こういう細々としたことに気を配れる人ではないし)


 フレイヤとしては予想通りの行動だったので気にしていない。むしろそうであろう(・・・・・・)と思っていたし、おかげでこうして怪しまれずに物の受け渡しができるのだから、ありがたいくらいだ。


 もし何か聞かれたとしても、フレイヤが指摘したから送ってくれたとでも言えばいい。

 結婚していない男女が二人きりで会える機会は、そうそうないのだ。


 今回は幼馴染であり同じ立場、また今まで仲良くしていたということもあり、父が許してくれただけ。

 フレイヤに婚約者ができた以上、それはより難しくなった。チャンスはきちんと活用しなければ。


「これからの連絡は、魔導具でやりましょう。二人きりで話せる機会なんて、そうないでしょうし」

「そうだな。……ところで、フレイヤ」


 そう言うと、オデルはフレイヤのことを見つめる。その青い瞳が射抜くように、フレイヤの赤い瞳をとらえた。


「それならば尚更、貴女の計画を教えてくれ。顔を合わせているこのタイミングで、全容を把握しておきたい」

「……それもそうね」


 フレイヤはこくりと頷く。


「最終目標は、一族の人間の間でのみ開く婚約発表パーティーですべての事実をつまびらかにすることよ。だから私はそのために――これからお父様を、説得しに行くの」


 そう言うフレイヤの真紅の瞳は、いつになく輝いていた。

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