表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完食戦士! ギョウ・ザーン!  作者: 牛乳
帝国の卑劣な罠! 禁じられた餃子!
8/10

1!



 平和な町に! 破壊の嵐が吹き荒れる!


「ふわははははー! 回せわませー!」

「全てを砂糖へ還すのだー!」


 中心にいるのは二体の異形の怪人たちだった!

 一方は綿菓子を模したマスクを頭にかぶり! 右肩にビーム砲を搭載し! そして胴体は綿菓子マシーンになっている! 今の若い子は知らないかもしれないが昔のゲームセンターやデパートのキッズコーナーには100円を入れると自分で綿菓子を作ることのできる筐体が置いてあったのだ!


「ふわはははははは! 綿菓子ビーム!」


 怪人が叫ぶと肩のビーム砲からビームが放たれ戦闘員が町を破壊することでその辺に散らばっていた瓦礫が綿菓子に変わっていく! ちゃんとアニメキャラの袋に入っているので汚なくはない!


「俺の名はワタガ・シーン! 綿菓子の怪人だ!」


 そしてもう一人は綿アメを模したマスクを頭にかぶり! 左肩にビーム砲を搭載し! そして胴体は綿アメマシーンになっている! 今の若い子は知らないかもしれないが昔のゲームセンターやデパートのキッズコーナーには100円を入れると自分で綿アメを作ることのできる筐体が置いてあったのだ!


「ふわはははははは! 綿アメビーム!」


 怪人が叫ぶと肩のビーム砲からビームが放たれ戦闘員が町を破壊することでその辺に散らばっていた瓦礫が綿アメに変わっていく! ちゃんと特撮ヒーローの袋に入っているので汚なくはない!


「俺の名はワタア・メーン! 綿アメの怪人だ!」


 町には綿菓子と綿アメが入り交じりもはや区別がつかない!

 あと二人とももっぱら肩のビーム砲を使っており動体のマシーンが動く気配はない!


「ようし兄者! 次はあのどでかいビルだ! 丸ごと綿菓子にしてやろうぜ!」

「おうよ兄貴! 丸ごと綿アメにしてやるぜ!」


 二人が一つのビルを指さしてゲラゲラと笑いながら言ったそのとき!


「そこまでだ!」


 凛とした声が響き渡った!


「なんだと!」

「何やつ!」

「ビー!」

「ビビー!」


 怪人も戦闘員も一斉に動きを止め視線を巡らせる!


「ここだ!」


 はたして!

 声の主は二怪人が狙いを定めていたビルの屋上にいた!


「とう!」


 そして掛け声とともに飛び降りる! 数十メートルの落差をものともせず華麗に着地を決めたそのものの姿は! 赤いスーツに黒のバイザー! 白の手袋とブーツを身に着けて!


「とっくに知っているだろうが名乗らせてもらう! 俺の名は完食戦士ギョウ・ザーン! 飽食帝国の怪人どもめ! 貴様らのその暴虐! 今ここで止めさせてもらう!」


 ビシィとポーズを決めつつ高らかに宣言するその姿は! 正に正義のヒーローそのものであった!


 そんな彼に対して二怪人たちは一時だけ互いの顔を見合わせると!


「ガシガシガシガシ! こいつか! 話は聞いてるぜ!」

「アメアメアメアメ! まさか本当に出てくるとはな!」


 可笑しそうに笑い始めた! 隠す気のない侮辱の態度だ! あとさっきまでと笑い方が違う!

 しかしギョウ・ザーンはそんな安い挑発に乗るヒーローではない!


「……笑っていられるのも今のうちだ!」


 冷静に! 冷徹に! 同時に熱い心は忘れずに!


「右手にバーニング、左手にボイリング……」


 必殺の意思と力を拳に込めて! 二怪人めがけて駆け出した――次の瞬間!


「そこまでだ!」


 凛とした声が響き渡った!


「なんだと! 何やつ!」


 思わず足を止め振り返るギョウ・ザーン!

 するとその場にいたのは――ある意味では意外だがある意味ではいて当然の者たちであった! すなわち!


「警官隊、だと……!?」


 そう! それは警察官の集団! それも透明な盾とヘルメットを装備した機動隊の一団だった!

 怪人が暴れて町の平和が脅かされているのだ! 彼らが駆けつけてくるのは当然と言えよう!

 しかしこのギョウ・ザーンの知る限りこれまでに怪人騒動に彼ら警官や自衛隊が出張(でば)ってきたことは一度もない! 一体どういうことなのか! 相手の見た目がふわふわしているからこれなら勝てると思ったとでもいうのか!


「くっ! 下がるんだ! 普通の人間では怪人どころか戦闘員にすら敵わない! どれほど装備を整えようとだ!」

「そういうわけにはいかない!」


 警告を叫ぶギョウ・ザーンに対し! 警官隊の一人が拡声器でもって答えた! 部隊の隊長だろうか!

 その彼が一歩前に出て代表して喋りはじめる!


「我々が用があるのはそちらの二怪人ではない! 君だ、ギョウ・ザーン!」

「な、なんだと? 俺が何をしたというんだ!?」

「――確かに君は今の時点ではまだ何もしていない。しかし今まさにするところだっただろう! そちらの彼らに餃子を食らわせようとしていただろう!」

「確かにしたが、それが何だというんだ!」

「知らないのなら教えてやる!」


 ビシィ! 隊長が人差し指を突き付ける!


「つい先日、成立したんだよ。餃子禁止法が!」

「な、なにぃー!?」



          ◇



「――これより、餃子裁判を開廷する!」


 宣言とともに木づちの打ち付けられる音が高らかに法廷に響く!

 そう、法廷である!

 最高裁判所である!

 初審から最高裁判所である! この時点で現実の裁判の手続きを無視したでたらめな裁判であることがおわかりいただけるであろう!


「被告人は前へ」


 裁判長サイバンチョが続けて言う!

 しかし誰も動かない! ざわつく傍聴席と裁判員席!


「静粛に! もう一度言います。被告人、前へ!」


 今度は動いた!

 被告人席に座っていたその男は隣の弁護士に肘でつつかれることでようやく立ち上がり! ゆっくりと緩慢に! しかし堂々と! 証言台へと移動した!

 その双眸はバイザーに隠されうかがい知れないがきっとひるむことなくサイバンチョをにらみつけているものと思われる!


「……」


 対するサイバンチョは何か言いたげに眉をひそめたが結局何も言わず目を閉じて開いた!


「被告は、姓名を述べなさい」

「完食戦士、ギョウ・ザーンだ」

「……本名を述べなさい! いえそれ以前に、覆面を取って素顔を見せなさい!」

「それはできない!」


 タイムラグ一切なしの拒絶! これにはさすがのサイバンチョも絶句した!

 ざわざわざわざわ!

 ざわめく法廷! 打ち付けられる木づち!


「静粛に! 静粛に!」


 やがて気を取り直したサイバンチョがギョウ・ザーンに向き直る!


「……もう一度言います。素顔を晒し、本名を述べなさい」


 有無を言わさぬ厳しい眼光!

 しかしギョウ・ザーンもひるまない!


「俺の方こそ何度だって言おう。かつてはともかく、今の俺はギョウ・ザーン。この名こそが真の名であり、見せているこの姿こそが真の姿だ」

「ふざけていると法廷侮辱際に問いますが?」

「好きにしろ。何を言われようと、かつての名、かつての姿こそが今や偽り。文句があるならギョウ・ザーン(おれたち)をそのように作った飽食帝国に言え!」

「ぐぬぅ……」


 サイバンチョは顔をしかめて頭痛をこらえるように額を押さえる!


「……まぁ、いいでしょう。外せる構造に、そもそもなっていないというのであれば、覆面につきましては不問とします。しかし姓名は述べなさい。あなたの今の、ソレになる前のもので構いません」

「ありがたいことだな。いや、有り得ない、というべきか」

「私語は慎みなさい」


 軽口をたたくと叱責されて肩をすくめるギョウ・ザーン! そして今度は素直に名乗った! 親から与えられたかつての名を! このままではらちが明かないと思ったためだ!

 しかしそれ以外のことは何一つ譲る気はない!

 なぜならこんな裁判は茶番だからだ! 覆面姿で証言台に立つことが許されるなどさっき口にした通り有り得ない! そんなことをするやつがいるわけがないから規定されていないだけだったとしても! そもそも餃子禁止法などというものが成立すること自体がおかしい!

 このギョウ・ザーンはまだ若い――幼いとすらいえる年齢だがそれぐらいのことはわかる!


「エヘン。……では、原告は訴状を読み上げてください」

「はい」


 サイバンチョに促されて原告席の人物が席を立った! 細身で目つきのするどい、いかにも検事といった感じの男である!


「えー、被告は某月某日、某県の某市の路上にて、同所に居合わせた怪人二名に対し、自ら作成した餃子を当人たちの同意なく無理やり食らわせようとしたものです。幸いなことに駆け付けた警官隊の声掛けにより未遂に終わりましたが、とはいえこれはつい先日成立した新法、餃子禁止法に著しく反するものであるため、同法に定められた通り、半年間の禁固刑を要求するものであります」

「意義あり!」


 検事が言い終わるなりギョウ・ザーンは叫んだ! しかし!


「却下します。被告は許可なく発言をしないように」


 サイバンチョは応じない! しかししかし!


「その怪しい法律とやらは相手が怪人でも適用されるものなのか!?」


 そんなことで引き下がるようではヒーローは務まらない!


「却下と言ったでしょう! 本当に法廷侮辱罪に問いますよ!」

「好きにしろと言った!」

「ぐぬぬ……!」

「フン……!

「まぁまぁまぁまぁ」


 にらみ合う二人の間に検事の男が割り込んだ! 物理的に割り入ったわけではなく所定の位置から声をかけただけだ!


「落ち着いてください、サイバンチョ。いいじゃないですか。本当につい先日施行されたばかりの新法です。内容を詳しく知っている人の方が少ないでしょう。説明をしてあげましょうよ」


 親切ごかしたことを言ってはいるがその口調はどこまでも嫌味ったらしい!


「もっとも、そういったことは弁護士の方から事前に説明されてしかるべきだとは思いますがね」

「い、いえそのぅ……もちろん説明はした、のですけれども……理解していただけたとは、その、言い難いと申しますか……」


 嫌味な検事の嫌味にもしょもしょと答えたのはギョウ・ザーンの隣に座っていた弁護士の男だ! 頭はバーコード禿であり! 猫背で腹が出ていて! 表情には覇気がない! こんなのしか寄越されなかったのも帝国の陰謀に違いない!


「なるほどね。それでは今度は私の方から説明してあげよう。サイバンチョ、少々お時間をいただくことになりますが、構いませんね?」

「許可します」


 サイバンチョのうなずきを得て検事がギョウ・ザーンに向き直る!

 ギョウ・ザーンは受けて立つべく胸を張った!


「いいだろう。納得させて見せろ!」

「あっはっは、君の納得など必要ないさ。ただその耳で聞いたという事実さえあればいいんだ。法廷のルールとはそういうものだよ。実際の法廷とは異なる可能性があるがね」


 しかし検事はその覚悟に嘲笑でもって答えた! これにはギョウ・ザーンも意表を突かれた!


「おっと、聞く耳持たないなどとは言わないでくれよ? そもそも君が質問をしたことだ」

「くっ……」


 そして痛いところを突かれた!

 これは一本取られたと言わざるを得ない!





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ