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完食戦士! ギョウ・ザーン!  作者: 牛乳
新たな脅威! 中華料理はスピードが命!
5/10

帝国の猛追!


「だが所詮は人としてのスピード。チーターの、野生の獣の素早さには、まったく及ばなかったということだ」


 チータ・ラーンがつぶやいた次の瞬間、その姿が掻き消えた! その次の瞬間、その姿は崖の上にあった!


「モンブ。カステ」


 そして何やら謎の言葉をつぶやく!

 すると彼の背後に新たな人影が現れた!


「はっ!」

「おそばに」


 その数は二つ! 体格からして両者とも女性のようである! どこがとは言わないが一方は山のように盛り上がっていてもう一方は平らかであった! どこがとは言わないが!

 そんな彼女らに向けてチータ・ラーンは四つの金属球を放って渡す! 二人はそれぞれ二つずつ、危うげなく受け止めた!


「見ていたな? テンプとバッテ、レバニ、それとカルボナーのコアだ。持ち帰って報告しろ」

「承りました」

「お兄様はどちらへ?」

「ギョウ・ザーンのコアを探す」


 振り返ることもなくチータ・ラーンは言う!

 は! もしかしたらさっきここでしゃべっていたのも独り言じゃなく彼女らに話しかけていたのかもしれない!


「手掛かりはあるのですか?」

「さぁな。最初の、オリジナルのギョウ・ザーンの足取りを追うぐらいしかないだろう」


 つまりはほとんど何もわからないということ! これは僥倖(ぎょうこう)

 怪人はコアさえ無事なら完全に死ぬことはない! 例え身体が粉みじんになったとしても再生可能であるらしい! 飽食帝国本部の施設が使えればという条件付きではあるが! もちろんギョウ・ザーンも例外ではない!

 彼のコアは今、亡き王谷将平の部屋にある! 彼と初代ギョウ・ザーンの邂逅(かいこう)は人知れず行られたため! また王谷はそのことを誰にも話さなかったため! 彼が二代目ギョウ・ザーンだったことを知るものはもはやこの世にいない!

 つまり!

 同じく王谷の部屋の中にある作りかけの餃子が腐って異臭を放って近隣住民に通報されて王谷の失踪が発覚して部屋が片付けられるまで! その際に燃えないゴミとみなされるであろう餃子コアがそのへんの埋め立て地に埋められてしまうまで! それまで帝国に見つからなければギョウ・ザーンの敗北はなくなる! 一~二か月と言ったところか! 間に合うかどうかは微妙なところだ!

 ちなみにもちろんだがコアは埋められた程度で機能を失ったりはしない! とても頑丈なので!


「了解しました」

「それでは、失礼します」


 二人のスイーツ怪人が恭しく頭を下げ! そして再び上げたときにはもう! チーター怪人の姿はそこにはなかった!

 せっかちな奴め!



          ◆



 そこは誰も知らない場所……


 亜空間に築かれた、飽食帝国の本拠地である巨大城塞である。

 その一角にて、ベッドの上に身を起こし、フグ頭の女怪人はつまらなそうにつぶやいた。


「チータ・ラーンがギョウ・ザーンを仕留めたそうだ」


 帝国四天王筆頭、フグ卵巣の三年漬けの怪人、“毒”のフグランソウノサンネンヅ・ケーンである。

 フグ卵巣の三年漬けとは、日本の石川県に伝わる伝統の郷土料理、あるいは食材である。その名の通り、猛毒を持つフグの卵巣を塩と糠、酒かすなどで三年間漬け込み完成させるものである。

 フグは毒さえ取り除けば美味しく味わえる魚であるため世界中で食されてきたが、白身(筋肉)や白子(精巣)などとは決定的に異なりそれ自体が毒を含む卵巣を食する文化があるのはこの石川県だけであり、ゆえに『最強の珍味』と称されることもある。あるいは日本人の食に対する執着の象徴、最も極端な例として挙げられることもある。しかも毒の抜けるメカニズムはいまだに解明されていないときている。飽食帝国の科学力をもってしても手掛かりすら掴めずににいるのである。

 そんなフグ卵巣をベースに創造され、帝国最強の怪人となったフグランソウノサンネンヅ・ケーンには、他の幹部たちよりも一段上の豪華な個室が与えられている。その中でもひときわ豪華な天蓋付きのクイーンサイズのベッド、一度に十人は寝られそうなそれの上で、マスク以外は一糸まとわぬ裸体を晒すフグ女のわきには、似たような姿の二人の女性がいた。


「あら、そうやの? 意外やねぇ」

「ザンネン。奴はボクが仕留めたかった」


 一方は穏やかな関西なまりで、もう一方はあっさりとした口調でそれぞれに言う。


「ほなら、あの駄洒落チーターくんは晴れて四天王の一角に?」

「いや」


 フグ女は小さくかぶりを振る。


「コアが見つからなかったらしい。回収するまで戻らんそうだ。ま、最初からそういう指令ではあったがな」

「マジメやねぇ。あんなアホみたいな名前のくせに」


 関西なまりの女は苦笑して、それからふと小首をかしげる。


「でもおかしゅうない? コアがない、なんて」

「それなのだがな」


 フグ女は目を細めて、不愉快そうに語った。現時点で判明しているギョウ・ザーンの情報について。すなわち、増えるという事実について。


「……信じられへんわ。雑兵やなく怪人を増やすやなんて」

「待って。そういえば」


 黙っていたもう一人が口を開いた。


「ギョウ・ザーン。“ザーン”。始まりの怪人、ピ・ザーンと同じ――」


 しかしその言葉は強制的に止められた。

 パンッ、という乾いた音とともに、彼女のほほを何かがかすめた。


「その名を口にするな!」


 フグ女。激怒を声に乗せ、殺気すらこもった目でベッドを共にした相手をにらみつけている。

 その手には、さっきまでは間違いなく何も持っていなかったはずなのに、いつの間にか一丁の鉄砲が握られていた。


「ご、ごめんなさい……」


 呆然と、関西なまりでない方の彼女は謝罪を述べる。フグ女は「フン」と鼻息を吐いて鉄砲をいずこかへと消した。これがこの女の能力なのだろうか。


「次はないぞ」

「はい……もうしわけありませんでした……」


 繰り返し謝罪を述べる彼女の肩に手を置いて、関西なまりの方が笑う。


「落ち着いて、お姉さま。この子だって悪気はないんやから」


 その手には、さっきまでは間違いなく何も持っていなかったはずなのに、いつの間にか真珠のネックレスが乗せられていた。


「ほら、これあげる」

「なんだこれは?」

「提携先の宝飾王国からもらったんよ。お姉さまに似合うかな、思て」

「……ふん、まぁいい。確かに少し過剰だったな。反省しよう」


 フグ女はネックレスを受け取ると、怒気を収めた。三人それぞれにため息をつく。


「ごめんね、姉さま。お詫びというか、罪滅ぼしかな。仕事をしてくるよ」

「仕事だと?」

「餃子退治」


 言いながら、関西なまりじゃない方の女はすでにベッドから降り、服を着始めている。


「普通の敵ならともかく、何匹もいてしかも増えるとなると駄洒落男一人に任せてられないよね」

「確かに、そうやねぇ」


 関西なまりの方も身を起こす。彼女も行くつもりなのだろう。

 フグ女はうなずいた。


「わかった。しかしどうせなら他の“ケーン”も連れて行け。我ら一族総動員と行こうじゃないか」

「ええの?」

「問題ない。状況が変わったからな。大帝陛下には私の方から進言しておく」


 その言葉に関西なまりの方は獰猛な笑みを浮かべる。


「ええやん、久しぶりに大暴れできそう。ほならウチはセンマイちゃんとベッタラちゃんを連れて行こかな」

「いや待って待って」


 しかし関西なまりじゃない方は乗り気ではなさそうだ。


「まずボク一人にやらせてもらえないかな」

「……なぜだ?」


 普段は自分に忠実な妹分の反論に、不愉快とまではいかないまでも、眉をひそめるフグ女。だが次のひとことで納得した。


「姉さまも知ってるでしょ、ボクが名前のことでからかわれてたこと」

「……ああ」

「ちゃーちゃん……」

「オマエなんか“ケーン”を名乗る資格はない、って。それは自分でもちょっと思うけど、でも」


 ぐ、と拳が握り締められる。


「ボクはチャオズなんかじゃない。ましてや餃子なんかじゃ絶対にない。そのことを知らしめるためにも、ギョウ・ザーンにはこの手で引導を渡してやりたいんだ」


 決意に満ちたまなざし。

 それを真正面から受け止めるフグ女の表情は、マスクに隠れてうかがい知れない。こんなときだけ。

 やがてため息とともに彼女は言った。


「わかった。行きなさい」

「あ! ありがとう、姉さま!」


 笑顔を輝かせる関西なまりじゃない方。さっそく部屋を飛び出そうとしたところを、しかし呼び止められた。


「待て。これを持っていきなさい」

「なに?」


 振り返ったところに投げ渡されたものを危うげなくキャッチする。


「私特性の毒薬だ。苦しまずに死ねる」

「え……?」

「もし奴の拳を食らってしまったときは、それを使いなさい。私はあなたが敵になってしまうところなんか見たくない」

「……」


 真剣な顔で見つめあう二人。

 関西なまりの方はそんな姉妹たちを不安げに、しかし口をはさむことなく見守っている。

 やがてため息とともに、関西なまりじゃない方は言った。


「わかったよ。ボクも姉さまを裏切りたくなんかない。この愛、確かに受け取った」

「良い子だ。それじゃあ、行ってきなさい」

「うん!」


 そうして彼女は今度こそ部屋を飛び出していった。服を着る描写はちゃんとしたっけ。うん、した。


「……よかったの?」


 関西なまりの方が不安げに問う。フグ女はしばらく返事をしなかったが、やがてため息とともにいった。


「わからん。しかし心配はしていない」


 部屋のドアからベッドの方へと振り返り、笑う。


「あの子は確かに“ケーン”の眷属、略してケーン族としては異端だ。しかし一方で、ある意味、『飽食』という概念を最も体現している怪人であるともいえる」

「体現?」

「そう――どれほどの美食を極めたあとでも、十分な満腹感を得ていても、それを差し出されたら人は再び箸を握らずにはいられない。その誘惑にあらがえる者は限りなく少ないことだろう。日本人なら特に、な。正しく飽食そのものだと思わないか?」

「……なるほど」


 フグ卵巣の三年漬けの怪人、フグランソウノサンネンヅ・ケーンは嗜虐的に口元をゆがめる。


「貴様はどうだ、ギョウ・ザーン? 餃子だけを食って生きていけるなどとほざいているようだが……果たしてあの子が提供する『食後の一杯』にあらがえるかな?」


 さすがに死ぬとわかってて食うやつはいないと思うが。

 もっともこの時点でギョウ・ザーンの総数は千人を超えているので何%かはアホが混じっているかもしれない。


 というわけで気をつけろ、ギョウ・ザーン! 次なる脅威はすぐそこまで迫っているぞ!







 次回予告!

 恐るべき強敵、チータ・ラーンを別に退けたわけでもないギョウ・ザーンの前に新たな刺客が現れる!

 今もどんどん数を増やしているためまだ余裕はあるが、余裕油断は禁物だぞギョウ・ザーン!


 次回! さらなる脅威! 狙われた学園際!

 ご期待ください!

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