3!
「……何をした」
静かに問う声!
ギョウ・ザーンだ!
相手はもちろん木槌の持ち主、サイバンチョだ!
感情を押し殺した無表情で彼は答える!
「……不本意ながら、強権を発動させていただきました。私には法廷の秩序を守る義務もありますので」
「人間技ではないな。帝国の怪人か」
フン!
ギョウ・ザーンの問いに鼻を鳴らすサイバンチョ!
検事と弁護士が不安げに見つめる中! 彼は厳かに口を開いた!
「違います。この身が属しているのは帝国ではなく王国。法のプロフェッショナルのみで構成された秘密結社、その名も法職王国です」
「法職王国、だと……!?」
慄くギョウ・ザーン!
その姿に留飲を下げたか笑みを含んだ声でサイバンチョは続ける!
「ええ、そうです。私はその最高幹部、裁判長怪人サイバンチョ・ウーン。法廷においては無敵の存在です。食べものの成りそこないのような帝国怪人などと一緒にされては困りますね」
「だが、怪人であることに変わりはないのなら……! ギョウザーン・バーニング――」
「静粛に!」
「ぐっ……!」
必殺の詠唱を木づちの音が阻む! 詠唱だったのか!
「無駄ですよ。言ったでしょう、私こそがこの法廷の支配者であると!」
「無敵といっただけだろう!」
「同じことです! それに我ら王国民の行いは全てが合法。だというのに正義を僭称するあなたは手を上げるというのですか?」
「貴様らの都合で作った方だろう!
「ご、合法であることに変わりはないよ……」
弁護士の男が口をはさんだ! 検事もそれに続く!
「法に基づいて選出された議員が立案し、法の手続きにのっとって成立された決まりだ。それが不満だというのなら選挙に出ることだな。あ、ちなみに私はケン・ジーン。検事の怪人だ」
「同じく、ベンゴ・シーン。暴力に訴えるやり方は、流石にかばえないというか……」
「貴様ら……」
見れば計七人いる裁判員たちの顔は――浮かんでいる表情は様々ながら訳知り顔であるという点は共通している! 彼らも怪人なのだろう! サイバン・イーンといったところか!
つまり判決にかかわるものが全員敵だということ!
やはりこんなものは茶番だった!
「それでは判決を言い渡します。被告、ギョウ・ザーン! 餃子禁止法違反、法廷侮辱罪、並びに叛逆罪により死刑を言いわたむぐっ!?」
サイバンチョの宣言が不自然に途切れた!
「さ、サイバンチョむぐっ!?」
「どうしむぐっ!?」
弁護士と検事もだ!
「口の中に何かある!」
「こ、これは!」
「この味は!」
「食感は!」
「餃子だああああああああああ!!」
慄く怪人たちの中心で! 彼は両腕を広げたポーズで静かに言った!
「ギョウザーン・ヒトクチ・フィンガーズ――」
「き、きさま! ももぐごくん! うまい! まさか指を一口餃子に!」
「ああ。お前らがちょうど十人で助かった」
「ち、ちくしょう!」
「「「「ぐわー!」」」」
爆発!
資産運用!
十人の法職怪人はギョウ・ザーンと同じ姿に成り果てながら倒れ伏した!
法廷はパニックに――ならない!
書記官や警備員! 法廷絵師や記者などの関係各位は驚愕と戦慄に固まっており! 傍聴席の一般人たちはただ静かに座っており――
「おみごと」
うち一人がそんな言葉とともに立ち上がり拍手をし始めた!
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
残りの者たちも続々と同じように拍手を送りはじめる! 関係各位の顔がますます青ざめる!
やがて最初の一人がスっと手を上げると拍手がぴたりと鳴り止んだ! そのままその人物――若い女性はひらりと柵を飛び越えギョウ・ザーンへと歩み寄る!
二人の警備員がとっさに動きかけるが一睨みされただけで止まってしまった!
「よくやったね、少年」
「いえ」
「保険に傍聴席を同志たちで固めていたが、必要なかったようだ」
「いえ、それがあればこそ、落ち着いて立ち回ることができました。ありがとうございます、王島さん」
王島!
そう! この女性こそが王島照子! ギョウザ・コアを偶然ながら受け継ぎ全ギョウ・ザーンのリーダーに選ばれた者である!
「あと、俺に任せてくれたことも、ありがとうございます。――僕みたいな子供に」
王島に頭を下げるギョウ・ザーン!
後半の口調は立派な体格に見合わぬ幼子のようなものだった! そういえば幼い設定だった!
「なに、構わんさ。いよいよとなったら実年齢を晒して無罪を勝ち取る、そういう作戦だったのだから。むしろ君が手を上げてくれたからこそこの戦いに踏み切れたと言える。さすが、自ら志願して同志になっただけはある。なぁ少年。いや――マナブ」
マナブ!
そう! 今回法廷に立っていたのは第一話に登場した北川マナブ少年だったのだ!
「いえ……奴らは両親の仇ですから」
そして彼と妹の両親は三話でお茶漬けにされた学園の教職員だった! つまりあのどさくさで死んでいる! かわいそう!
「そうだったな。とはいえ――こいつらは帝国そのものではなかったようだが」
言いながら彼女が法廷を見渡すと爆散したサイバンチョたちが――否! 新たなギョウ・ザーンたちが置き上がりはじめていた!
「やれやれ、してやられましたね……」
「だが、目が覚めたよ」
「間違っていたのは僕たちだったね……」
「「「「異議なし」」」」
その姿は言うまでもなく真っ赤に燃える全身タイツ!
「歓迎しよう、新たな同志たちよ」
王島が言う!
傍聴ギョウ・ザーンたちも「よろしく」と口々に言う!
「ちなみに判決は?」
「もちろん無罪です」
「けっこう。――と、いうわけだ、諸君」
と、ここで王島は関係各位に向き直った! 彼らはびくりと身を震わせる!
「そう怯えることはない。君たちには何もしないよ。証人になってもらわなければならないからね」
「証人……?」
「そう。特に新聞社から来ている君たちだ」
ぴ、と二人の人物を指す王島! 彼らはびくりと身を震わせる!
「だから怯えるなというのに……まぁいい。とにかく君たちには、今日この場で起きたことを世間にそのまま伝えてもらいたい」
「……あんたたちの都合のいいように、か?」
記者の一人が低い声で問うたのを王島は鼻で笑い飛ばした!
「そのつもりなら君たちにも餃子を食らわせているさ。マスゴミとか呼ばれている連中と一緒にしないでほしいね」
「だったら……」
「そう。あくまで公正に、偏りのない報道を期待しているよ」
その言葉を最後に王島率いるギョウ・ザーンたちはぞろぞろと退廷していった! 残された関係各位はそれでもまだ何かあるんじゃないかとビクビクと肩を震わせ続けていた!
――かくして!
のちに法廷史上最低最悪と評され歴史の転換点となった餃子裁判は幕を下ろした!
その全容はマスコミを通じて社会に伝えられ! 大きな衝撃をもって人々に受け止められた!
そうして世界は二つに分かれることとなる!
すなわち餃子派と帝国派である!
ギョウ・ザーンとなった者は帝国怪人の現れる限り立ち向かい続け! 帝国に組した者らはうんこを処理する仕事を主に担うこととなり!
どちらに対しても直接の伝手を持たない大多数の一般市民たちは互いに疑心暗鬼になりながら怯え暮らすこととなった!
そして!
そんな彼らの救いとなる第三勢力が現れた!
「善行を行いなさい。悪心を捨てなさい。さすれば餃子は帝国からあなたを守ってくれるでしょう……」
意外! それは宗教!
多くの人々がこれにすがった!
そうなると必然的にこれに便乗して利益を得ようとする輩が湧くが!
「悪い心はこの聖なる壺に封じてしまいましょう。今なら十万円で」
「そこまでた! 食らえ!」
「ぐわーうまいー!」
「それでは今から大司教である私があなたに祝福を授けましょう。服を脱いでそこの祭壇に」
「そこまでた! 食らえ!」
「ぐわーうまいー!」
「駄目よ外に出たら怪人にされちゃう! ぼうやは私と一緒にずっと家に」
「そこまでた! 食らえ!」
「ぐわーうまいー!」
ギョウ・ザーンがそれらを見逃すことはなかったので結果的にまともな宗教組織だけが残ったのだった!
――かくして!
世界からは『ギョウ・ザーンVS帝国』以外の争いがなくなり! 比較的平和になったのだった! めでたし!
おわり!
以上で完結ですありがとうございました