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文明開拓のすゝめ  作者: パル
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5話『牢の中』

夜の町に響く一際騒がしい場所がある。

そこは酒場とギルドが一体化してる巨大施設であり、1階では大勢の人影がある。


「見ろこの爪をよ!これは開拓先に居たポイズンウルフのもんだ!俺だから狩れたんだぜ!」

「聞いたか?森林があった未開拓地域に向かったチームが行方不明らしい」

「我が名はダガリオ!私と組む開拓者はいるか!」

「誰がお前と組むかよ、ダガリオ!」


自分の力を誇示する者

酒を飲み談笑する者

情報交換をする雰囲気が違う集団

様々な姿形の種族すら違う者達が集う場が広がる1階とは対照的に静かな2階…

その2階の一室に2人の人間が話し合いをしていた。


「セシリア、俺は可能なら早急に始末するべきだと思う」

「だめよ…何かしら情報を得る必要があるし他国の人間の可能性もあるわ」

「だがもしも魔族の手先だった場合、またこの拠点を手放す事になるんだぞ」


ぴょこぴょこ動く猫耳を伏せながらセシリアと呼ばれた女性は困った顔をする。


「それも分かってるわ、だけど今のところ暴れもせず大人しくしてるのよね?」

「今は地下牢に入れてるが…何をしてくるか分からないぞ」

「そうねニック、それらを知る為にも1度会う必要かあるわ」


ニックと呼ばれた大男はセシリアの言葉に絶句し、強く机を叩いて身を乗り出す。


「駄目だセシリア!危険過ぎる、行くなら俺が」

「魔法使いのあんたが行っても仕方ないでしょ?ごちゃごちゃ言ってても仕方ないから2人で行きましょ」


椅子から立ち上がり、机の上に置かれた報告書に目を向ける。

簡単な似顔絵と先に聞いていた未開拓地域から来た2人の名前を見る。


「トミタニアユムとアミーラ…ね」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「…終わりだ…」

「………」

「まさかこんな事になるなんて…」

「………」

「どうすりゃいいんだよー!」

「……………満足ですか?」

「…うん…」


ひとしきり叫び、看守らしき人物に睨まれ座り直したアユムはため息をはく。


「アユム、もう過ぎた事を考えず次の事を考えては?」

「アミーラはポジティブだなぁ…けど俺としてはファーストコンタクトが失敗したのはどうしても…」

「はぁ…」


この町に来る前に決めた事は自分達は旅人である事、そしてアミーラの様付けをやめてもらう事だった。

服装はどうしようもなかった為ごり押すつもりで門番に話しかけた時に最初からこの事前準備は無駄になった。


「誰が分かるかよ俺達が来た方向に人間が住んでないってよぉ…」


血相変えて捕まえてきた瞬間に門番は『魔族』や『人の皮を被った悪魔』等騒ぎあれよこれよのうちに地下に幽閉されて現在に至る。


「あの感じだと俺達が来た方向には魔族やら悪魔が居るのか居るとされてるのか…」

「まぁ特に怪我もせず良かったじゃないですか」

「そりゃ暴れなかったから…てかアミーラが大人しく捕まってたの意外だったんだけど俺が暴れなかったから?」


アユムは突然の拘束に反応も出来ずいたがアミーラは周囲を観察してるようだった。


「あぁ、それはですね今私の武装が壊れてるからです」

「あ〜………えッ」


勢いよくアミーラが座ってる方を見るがパッと見何処か壊れてる様子はない。

見ている事に気づいたのか看守を眺めるのをやめてアユムを見返す。


「まだ説明してませんでしたね、私は『戦略機械人形』になった時に『砲』という武装を初期装備として備わってまして」

「うんうん」

「ドラゴンとの戦闘の際に全て壊れました」

「な、なるほど…」

「一応物理戦闘は可能ですか砲を活用して行う戦闘プログラムの方が効率的なのであの場では何もしませんでした」


何故かドヤ顔する相方に目眩を覚えながらアユムは今後の事について考える。


「(ひとまずは…ここからの脱出だよなぁ…アミーラの修復もしないとだしこの世界の事について調べないといけないし…)」


黙々と考えていると、地下から地上に向かう階段から足音が聞こえてきた。

来たか!とアユムは立ち上がり鉄格子の前に立つ。

ここからが肝心だからだ。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━



地下に現れたのは2人の男女だった。

片方は赤髪で身長が低く猫耳とシッポが生えた美女…言うなれば獣人と呼ばれる存在なのだろう。

もう片方はかなりの高身長で190はあるのではないかと思われる栗毛の恐らく人間の男。


「貴方がトミタニアユムね、私はセシリア…ここエレファムルのギルドマスターよ、となりはニック…副ギルドマスターをやってもらってる」

「…………」

「…どうも」


喋らないニックという人物から刺されるような視線を向けられながらアユムは必死に思考を巡らせる。


「単刀直入に聞くわ、貴方は何者?何故この町に来たの?」

「…俺とそこに居るアミーラはダンジョンで目覚めてドラゴン倒したらここの近くに飛ばされたんだ」

「門番には旅人だと言ってたわね」

「こんな事言っても信用されないじゃないっすか…」


どう言ってもこの事は避けられないので細かい事を省いて言うが、あまり信用ならないのかニックや看守の顔が険しい。

だがセシリアは顔1つ変えない。


「門番達に捕まる際暴れたりはしなかったの?」

「下手に暴れて殺されたくないので…」

「そう…もう一度聞くわね、貴方は何者?」

「…………少なくとも貴方達が思うようなものじゃない…とは思う」



実は異世界から来た人です!と言う訳にもいかず敵ではないアピールをするが…


「セシリア、どうだ?」

「……特に動揺する事も呼吸が乱れる事も無いから嘘はついてないようね」

「…だがドラゴンはここ最近は確認されてない、ましてやこの戦いをやって来なかったような見た目の奴がだぞ」

「…そうね」


ひとまずは早速始末!という事は回避出来たようだが話した内容が未だに信じられないらしい。

証明しようも倒したアミーラの武器?が壊れてる為に証明すら出来ない。


そう思ってた瞬間、ドタバタと比喩なしに転がり落ちるように1人の冒険者らしき人物が地下に落ちてくる。


「おい!誰だ入れたのは!」

「ぜぇ…ぜぇ…無理言って入らせてもらった…セシリア大変だ!」

「確か貴方森林が発見された場所に向かったチームの…」

「あぁその通りだ、俺以外は死んじまったがな…」


看守に水を貰い一息ついた男はセシリアとニックが居るのを確認して震えた手を握る。


「『行軍』だ、それもロックゴーレムが中心にポイズンウルフと催眠コウモリがうようよこっちに向かって来てやがる」

「何?!それは本当か!」

「あぁ、俺達が見つけた時には始まってた…この町に戻ってくるまでに俺の仲間を巻き込んでな…クソっ」

「……あとどのくらいで来そうなの?」

「ロックゴーレムが指揮官だからだろうな、だいぶ遅い…だがあと1時間もかからねぇ」


その報告を聞きセシリアとニックは厳しい表情をする。


「…ニック、今いる冒険者と開拓者の数は?」

「今は殆ど未開拓地帯に向かってる、全部合わせて40居るか居ないか…」

「そう…」

「セシリア、せっかく作り上げたこの町を捨てる事になるが俺はこの町を放棄するべきだと思う」

「けどニック!」

「分かってる、だが防衛するにも指揮官を狙うにも人数も足りない…それに今いる冒険者と開拓者も怪我人や下級の流れ者が殆どだ」


その言葉を聞いてセシリアは俯き、拳を握りしめて苦悩する。

彼女はギルドマスターと言っていた、恐らくこの町の決定権がある人物なのだろうと分かる。

だからアユムは1歩前に出て鉄格子を掴み話に割り込む。


「俺達ならその行軍?ってのを何とか出来るぜ」

「なっ…何を言って」


突然喋ってきたアユムにニックは黙らせようと近付こうとするが、セシリアはそれを止めてアユムに目を向ける。


「その根拠は何かあるの?」

「それは…」


アユムはアミーラに目線を向け、アミーラは立ち上がりアユムの隣に立つ。


「こいつがドラゴンを倒したからだ」

「…貴方じゃないのね」

「……はい…」


しゅん…となるアユムを横目にセシリアはアミーラを見る。

アミーラは特に何も言うわけでもなく立っているだけであるがセシリアにとっては奇妙な存在だった。

呼吸の乱れ、脈が絶対に一定なこの存在が。


「…ニック、貴方が現場の指揮をとって移動の準備を」

「セシリアはどうするんだ?」

「私は…」


看守から鍵を受け取り、セシリアはアユム達の牢の扉を開け…アユムとアミーラの肩に手を置く。


「この子達に賭けてみる」




━━━━━━━━━━━━━━━━━


この夜、いつにも増してこの町エレファムルは騒がしくなる。

モンスターの大移動、行軍から逃げる為に。

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