39話『諦めない心』
短めです。
体が重い。
今のアユムは使徒としての恩恵をアミーラにほぼ渡しており、元々かなり恩恵も薄い状態であった。
だがそれでもこの現代日本以上に過酷な世界で生きていくには十分な程は残っていた…しかし今はそれすら無い。
「ぐっ…ゴハッ…はぁ…」
「お、そっちは立てるのか?いいぜガッツがあるじゃねぇか」
倒れていたダガリオは近くの木箱に手をつきながら立ち上がり、拳を構える。
「僕…が、時間を稼ぐ…サヨ…アユム…を…」
「おいおい、寂しいじゃねぇかお前だけ死んでいくのを俺しか見てやれねぇってよぉ」
「ガッ…!」
「ダガリオさん!」
近づき…その頭を掴みムウは持ち上げる、力が入らない両手でその腕を掴むが今のダガリオでは抵抗すら出来ない。
そしてそのまま地面に頭から叩きつけ…鈍い音が響く。
「ほれ、早く蘇生しろ」
「あ…ぁ……」
「さっさとしろよ、早くしねぇと蘇生出来ないくらいぐちゃぐちゃにしてもいいんだぜ?」
「あ、『主よ復活を祝福を与えたまえ…』」
ピクリとも動かなかったその体がビクンと動き…すかさずムウはもう一度ダガリオを壁に頭から叩きつけ…ダガリオの悲鳴すらなくその命を刈り取る。
「次だ」
「な、なんで…こんな…」
「なんでかって?そりゃお前が絶望するで続けんだよ、俺ァ混沌神の使徒だからなぁ?ギャハハ!!!」
「ぅ…うぅ…『主よ復活を祝福を与えたまえ…』」
復活しても殺され、復活してもすぐにダガリオは殺される。
サヨは言われた通りにしなければダガリオは蘇生すら出来ない状態にされる。
そうなれば二度とダガリオは目覚める事は無い…もう死ぬ運命から抜け出せないのなら止めればいい…だがサヨにその選択は出来ない。
「や、やめて…ダガリオさんが…死んじゃう…」
「殺してんだから死ぬに決まってるだろ?まだ元気だなぁ?次は腕行くかっ!」
「ぐあああああ!!!」
蘇生されたダガリオの腕をへし折り、悲鳴が響く。
サヨの目からは涙が零れ、その頬には飛び散ったダガリオの血が付く。
「さ…よ…もうい…い…」
「ダガリオさん…」
「僕…は…」
「話を遮って悪いなっと」
地面に落とされ、その首にムウの足が添えられ…骨が折れる鈍い音が響く。
何度目か分からないダガリオの死にとうとうサヨは杖を落としてしまい地面にへたり込む。
「いいぜぇ!いい顔するなガキ、ギャハハ!!!」
「ぁ…あぁ…あああああ!!!」
人を助ける為に使う蘇生を苦しむのを延長する為に使わされ続け、そしてこの絶望的な状況にサヨの心は壊れかかってしまう。
そして、物音が聞こえムウが振り向くと薙刀を杖にアユムが立ち上がっているのが見えた。
「なんだてめぇ、そんな死にたかったか?すまねぇなお前はもう興味無かったからよぉ」
「う…るせぇ…それ以上…俺の仲間に手を出すな!」
「あ?何も出来ねぇカスが何言ってんだ」
薙刀を構え、アユムはムウを睨む。
「ハッ!そう言えばお前他にもお仲間が居たんだったな…お前の仲間も今頃モンスターに食われてるんじゃねぇか?」
「舐めんな…俺の…仲間は弱くねぇからな」
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暴れるトロールの足を切り、背中を駆けその両目に短剣を突き刺す。
痛みに悶えるトロールから飛び跳ねて離れ地面に着地する。
「アミーラ!」
「『殲滅を開始します』」
動きが止まったトロールに6門の砲が襲いかかり…激しい砲撃によって倒れ屍になる。
「これで何体目だよ!」
「5体目ですね」
「これじゃアユム達探しに行けねぇぞ…」
異変を聞き現れるモンスターを処理しながら孤児院に向かった2人はポメ達と出会い、子供達を避難所になっているギルドまで送り届けアユム達を探しに向かったがあまりにもモンスターが多過ぎて動けずにいた。
「…しかし意外だな」
「何がですか?」
「お前がアユム探しに突っ込んで行かない事だよ、あいつが倒れた時あんなに焦ってたってのに」
「その事ですか」
砲を周囲に漂わせながらアミーラは遠くを見る。
「確かにあの時私はアユムが消えていくような気持ちでした、ですが今思えばそんな事結構あったと思いまして」
「…そんなあったか?」
「あったんです、そしてアユムはいつも最後は生きて戻ってきました…なら私は信じるしかないんです」
「…信じるねぇ」
「それにアユムなら…町を頼むと言うでしょうし」
「…確かに言いそうだな、んじゃさっさと終わらせて見つけに行くぞ」
「はい」
そのまま2人は走り次の場所へと向かう。
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「そうかよ、で…お前はどうするんだ?逃げてもいいぜ?お前のお仲間も殺ってやるからよ」
「逃げねぇ…よ、仲間置いて逃げれねぇんだ」
「今のお前に何が出来るって言うんだ?力もねぇ能力もねぇ使徒でも無くなったお前が!」
ダガリオから足を退けてゆっくりとアユムに近づく、薙刀を構えるがもうアユムには動く力も逃げる力すら残ってない。
「………知ってるか?日本には七転八起って言葉があるんだ」
「あ?」
「俺は負けるまで…立ち上がる、もうあの時みたいに…」
初めてこの世界に来た時、ドラゴンを前にアユムは絶望し何も出来なかった。
だが今は違う、仲間を守るため自分を奮い立たせる。
「もう諦めない」
「そうかよ、なら立ち上がってみろ」
近づいたムウはその拳を振りかぶって殴り掛かる。
その1発は今のアユムでも十分に即死させれる、そして…その拳がぶつかった瞬間アユムの頭部が勢いよく吹き飛び窓ガラスを突き破り吹き飛んでいく。
勢いが凄まじかったからか血が噴水のように飛び出てはこず…アユムの体はその場に留まったままだった。
『その心意気は良し、力を貸してあげる』
「んだ…こりゃ」
1番最初に異変に気づいたのはムウだった、殴り飛ばした筈のアユムの体が『氷』になっていたからだ。
殴り飛ばした筈の頭部を見る、窓の外に転がっているのもアユムの顔のような形の氷であった。
「どういう事だ?」
ふと、背後から冷気が感じた。
今はまだ冬には遠い季節だ、ならば何故?
そう思いムウは振り向く。
「サヨ、ダガリオを頼む」
「あ…あゆむさん…?」
「あぁ…頼りにしてるぞ」
そこには既にボロボロの筈なのにアユムが何事もないように立っていた。
その手には薙刀を、そして周囲にはその場だけ冬のように冷たい風が吹雪いていた。
「…てめぇ何した?俺のスキルの前ではてめぇの…」
「あぁ、俺も今理解するのに忙しい所なんだ…」
薙刀を振るうとサヨとダガリオを守るように氷が形成され、2人とアユム達を分断するように氷の壁が作られる。
「これで2人っきりだ…いや、『2人と1神』だな」
「あ?」
アユムの体に白い風が吹き…そしてその背中に人型の何かが現れる。
それは黒く長い髪に和服を着ている言わば大和美人と言うべきか。
あまりにも冷たく、だが美しいその姿はまるで…神のような神々しさもある。
「…第2ラウンド開始だ、ムウ!」
異世界転移者にして神になった少女『林道氷翠』を背にアユムは氷のフィールドを形成していく。




