37話『嫉妬』
宙に放り投げられ、硬い地面に落ち…手足を縛られてる為受け身が出来ずそのまま地面に倒れてしまう。
「大人しくしてくれよぉ嬢ちゃん?俺は本当はやりたくねぇんだよォ…こんな誰も居ねぇ場所だと、どうも調子が悪ぃ」
「……何で私を」
「何でも何もよぉ、そろそろ来る頃だが…おぉ来た来た」
大男は入口を見る、サヨもつられるように視線を向けると見知った2人組が入ってくるのが見える。
「マルさん!ミュリサさん!?ここは危ないです!早く逃げて…」
「ぁ?何勘違いしてんだぁ?お前ここに連れてくるよう言ったのこいつらだぞ?」
「え…?」
「その通りよ、馬鹿な小娘」
名前を呼ばれた2人は、軽い足取りでサヨに近づき…倒れているその腹を蹴る。
強い衝撃に肺から息が全て口から出ていき、更に何度も何度も蹴られサヨは口から吐瀉物を吐き出す。
「うぇ…ェ…ゲホッ…!ゲホッ…」
「汚いわね、私の靴にも少しかかったじゃない」
「ほらサヨさっさと舐めとってあげなさいよ、あんたのせいだからね」
「マル…さん…ミュリサさん…なん…で…」
信じられない目で2人を見るサヨだったが、マルとミュリサは互いの顔を見てニヤッと笑う。
「なんで?そうね、あんたが何故今ここに汚く転がってる事か教えてあげる…気に食わないからよ」
「……?」
「キャハハハ!無様ね、これが最年少で司祭候補生の姿?気取ってるからこうなるのよ!」
「いた…痛い…やめて…」
ミュリサはサヨの髪を掴み引っ張り上げ首の角度が限界まで持ち上げる。
「いい?これはあんたが悪いから、仕方ない事なの」
「調子に乗ってるよねぇ、エレフォムルに来たと思ったら最年少で司祭候補生って私達がどれくらい苦労したか分かってる?」
「その上面倒な慈善活動を丸投げして1人楽してるって何様のつもり?」
「わ、私は…主の…命によって…」
「はいはい聞いたわよ2度も同じ話しないで」
「グッ…」
髪から手を離し、地面にサヨの顔が落ちたのを見計らってその頭に足を乗せ…サヨの吐瀉物がある方まで足で移動させ押し込むように足に力を入れる。
「ほらほら、無様ね」
「ゆっくり殺るのはいいけどよぉ、俺ァもう行っていいか?暴れてぇんだよ」
「もういいよ、こんなガキ1人私達でも出来るから」
「あ?そのガキ殺すのか?」
「えぇ、そのつもりでここまで連れてこさせたのだから」
マルは足で踏みつけながらしゃがみこみ、サヨによく聞こえるように耳元まで顔を近づける。
「まずはあんた、そして次はあの孤児院の子供達…確かシスター居たわね、それも…」
「や、やめて…なんで…そんな…」
「言ったわよね、あんたが悪いって…私達より若く候補生になって偉そうなあんたが気に食わないの」
「そん…な…理由で…?司祭候補生として…恥ずかしくないんですか?」
「うるさいわね、あんたが死んだ後私達は町の人々を治療して食べ物を分け与えそしてガバラマド教国からは賞賛され司祭になるのよ」
「あんたは可哀想にモンスターに食べられちゃって死ぬ、良かったわね大好きな孤児院の連中も一緒よ」
踏みつけられた状態で立ち上がろうとするが、サヨの力では立ち上がる事も足を振り払う事も出来ない。
「お願い…します…皆を…家族だけは…」
「は?何言ってんのこいつ、小汚い居るだけで邪魔な奴らが家族?お似合いねあんたも同じようなものだし」
「…お願いします…」
「ねぇマル、どーする?」
「そうねぇ…いいわよ?」
「あ…ありが…」
言い切る前にマルは足に全体重をかけ、サヨは痛みで言葉が出なくなる。
「あ、ちゃんとお礼言えなかったわねぇ?そんな態度取るならだーめ」
「マルったら酷いわね〜」
「い、いま…マルさん…が…」
「うるさい、さっさと死ね」
「見てても面白くねぇな、俺は行くからな」
ニタニタと笑う2人と、それを眺めていた大男は欠伸をしながら倉庫から出ていこうとする。
サヨは全てに絶望していた、両親が死んだ時…誰もサヨを助けてくれなかった。
偶然リードに見つけられなければ野垂れ死んでいたであろう。
孤児院の生活は裕福では無かったが温かさがあった、誰も手を貸してくれない…なら自分がとガバラマド教国まで行き勉強し候補生にまでなった。
「(どうにか…しない…と…)」
ふと、昨日冒険に出た時の事を思い出す。
初めて孤児院を出てから自分のした事を褒められ、助けられ、肩を並べて協力する事を体験した。
あの人達が助けてくれるかもしれないという淡い希望を持ちかけ…アユムを監視していた事で良い顔をされてなかった事を思い出す。
「(迷惑だった…だろうなぁ…)」
理由があった、それはサヨの仕える神からの神託である。
だが他言無用だったのもあり説明は出来ない、今もアユムには疑われているであろう。
なら自分なんて
「(助けてくれないよね…)」
諦めるように目を閉じる、マルとミュリサの手には刃物が握られている。
自分の手で殺るつもりなのだろう。
たがサヨは怖くはなかった、誰にも助けられず静かに死んでいくのが運命だったのたと自分に言い聞かせ最後は主神の所へ行けるのだろう…と。
「さよ…う…な…ら…」
「別れはまだ早いぞ」
倉庫の窓が破壊され、2人の影が入りマルとミュリサを蹴り飛ばす。
「ギャッ!?」
「グッ…?!」
倉庫内の置いてある木箱に叩きつけられ、地面に倒れる。
かなりの衝撃だった為意識が持ってかれたのか動く気配はない。
「あ?んだよ、やっぱ生きてんじゃねぇか!なぁ!おい!てめぇ!」
「あんたは後だ」
「んだよつれねぇな」
両手を上げ嬉しそうに入口から戻ってくる大男だったが待てをされ、しょぼくれながら大人しくその場に待機する。
「ごめんな、あれが離れるのを待ってなければ…」
「しかし何故か待ってるがアイツとあの場で戦えばサヨも巻き込んでいたぞ」
「そりゃそうだけどよ…ほら、可愛い顔が台無しだ」
ポケットから取り出したハンカチでサヨの顔を拭きながら…アユムは肩を叩く。
「よく頑張った、助けに来たぞ…サヨ」
「あ…ゆむ…さん…?」
しゃがみこんでサヨと目線を合わせるアユムとその傍に立って大男を警戒しているダガリオがいた。
「あゆむ…さん…なんで…私なんか…」
「おい、私なんかって言うな…ほらリードさんとか子供達とかリサとか…助けないとうるさいのが多いって言うか」
「そこは素直に心配だから助けに来たと言えないのか?」
「うるせぇ」
「わ…わたし…怖くて…怖くて…だけど…私何とかしようと…けどアユムさん私…監視して…だから…」
と、話を始めるが内容がごちゃごちゃしていて聞いていたアユムは目が回って両手を合わせパン!と音を出す。
「確かに俺なんか監視宣言されたし怪しんでたけど、それで助けない理由にはならない!以上!ほれ、ハンカチ貸すから涙拭きな」
「……ありがど…うございまず…」
「いいって…さて…」
最後にサヨの頭を撫で、アユムは立ち上がり律儀に待ってくれている大男の方を向く。
「待たせてすまないな」
「いいぜぇ?俺は楽しみはじっくりと味わうタイプなんだ」
「…アユム、どうする?僕達で敵う相手かも分からないぞ」
「ここから逃がしてくれる様子も無い、誰かを呼ぶ余裕も無い…今ここでやるしかない」
薙刀を取り出し、構えアユムはダガリオを見る。
ため息をしながらダガリオはロングソードを構える。
「頼むぜ」
「君と一緒にいると疲れる」
マントを破きながら放り投げる大男と薙刀とロングソードを構えるアユムとダガリオは倉庫内で戦闘を始めようとしていた。