343話『船上防衛戦』
日本古来より幽霊には塩が効くと言われているが海水がいっぱいの海では塩が効くという話は通用するのだろうか、目の前にいる幽霊は海賊の幽霊…その肌は白く病的だが幽霊に健康云々は関係ない無いだろう。
そしてその顔だが…酷く目が窪み骸骨手前のような見た目をしており不気味という言葉が出てくる。
「う…うぁ…」
「ッ…た、助けないと」
「まてサヨ!確かに急いで治療しないといけないのは分かるがまずはあれの対処をしてからだ」
「わ…分かりました…」
刺され床に転がされた船員は生きてはいるがかなりの傷でそう時間が経たないうちに死亡してしまうだろう、サヨは息があるうちに助けようとするがアユムがそれを止める…先に海賊の幽霊をどうにかしなければならないため祈りが使えるサヨは安全な場所に置いておきたい。
「サヨ、ゴーストの対処法は?」
「昔に授業で知識だけは…ただ私のやり方じゃ時間がかかり過ぎます!…こんな時にホーラさんがいてくれたら…」
「おいおい!それじゃあなんだ?あの海賊はどうするんだよ!このままお帰り願うか?」
「いえ、少し強引ですがこの方法を使います!『我が主よ!彼らに退散の加護を!』」
そう言ってサヨは背負ってた杖を手に取り構え祈りを始め…この場にいる全員に淡い光が灯る。
「おぉ、これはなんだ嬢ちゃん」
「これで皆さんゴーストに触れる事が出来ます!後は簡単です、幽霊さんを倒してください!そうすれば幽霊さんは霧散して消えます!」
「確かに強引だが気に入った!相手は1人だからなんと…か…」
「1…1人…?」
多少強引だが幽霊を倒す方法が出来た、後は海賊の幽霊をタコ殴りするだけ…だったのだがウオウが喋ってる間にアユム達とは反対の船の手すりに白い手がいくつも見え海側から多くの『海賊の幽霊』が姿を現し船の上に降り立つ。
「…あーあ、ウオウさんフラグ立てるから」
「俺のせいなのか!?なぁ?!」
「なるほど、僕達が見た時に誰も居なかったのではなく既に船に接近していたから居なかったという訳か」
「冷静に言ってる場合じゃないでしょ!」
「…相手がこちらに危害を加えるのなら容赦する必要はありません、ここで全て祓います!」
「「「「うおぉぉぉぉぉお!!!」」」」
武器を手にこちらを見ている海賊達、既に1人刺されたのもあって漁業協会の船員らは血の気が立っており…シーナの合図と共に全員一斉に幽霊を祓う為に武器を手に襲いかかり海賊達もまた武器を手に迎え撃つ。
「私らはどうすんだよアユム!」
「俺達が今出来ることなんてたかが知れてる!最優先は負傷者の安全確保だ、サオウさんウオウさん!」
「おうよ!」
「俺達が先陣切るぜ」
「シーナさんは危険ですからここに!皆行くぞ!」
「おう!」
護身用の武器で海賊達と切り合う全員達、アユム達は子供になってしまったせいで戦力はガタ落ち…無理に戦わずまずは刺され倒れている船員の命を救うためウオウサオウの2人にそこまでの道を作ってもらう。
手斧と銛を構え2人は一気に駆け出して行き船員達と切り合っていた海賊を吹き飛ばすように薙ぎ倒し少しずつ道が開かれていく、重たい薙刀をどうにか持ち上げシーナに残るよう伝えアユム達もウオウサオウに遅れないように行動を開始する。
「ヒスイこれ短くなったりしない!?」
『霧雨を如意棒かなんかだと勘違いしてない?振り回すのは諦めて私から離れないようにするだけにしとくこと!』
「ちくしょー!まだちょっと動きにくいのに…!」
氷の力を使うにはヒスイと近くにいる必要がある、そのためヒスイが入っている薙刀を持ち歩かなければならないのだが自分の背丈2倍以上ある薙刀は非常に持ちにくくまだ認識の歩幅と実際の歩幅が合わないため動きにくい。
以前に女性の体になった経験から何とか動けるアユム、他の面々はというと運動センスが違うのか思ったよりも動きにくくしておらず…ダガリオ達のスペックが高い事を再認識して心の中で涙を流しているとウオウサオウはあっという間に怪我人の場所までの道を切り開いてみせていた。
「運ぶなら急いでくれ!敵のど真ん中だから四方八方から狙われてるぞ!」
「よしっ!んじゃ私とヒストルで運ぶぞ!」
「待ってください!動かしてしまうと出血が酷くなって出血死します、蘇生しても血が足りなくその人が死んでしまいます!」
「となると…ここで治療をするんだな?サヨ」
「はい!」
「嘘だろ!?ここで治療すんのか!?」
「ハッ、そうしないとならないのなら…やるしかないな」
「私とリサとヒストルさんが中心に動きましょう、アユム達は内側から援護を!」
「しょうがねぇな…!」
「が、頑張ります!」
どんなにサヨが蘇生しても無いものは生み出せない、死にかけている船員を救うにはその場での治療を行わなければならないが無理に進んだため敵のど真ん中に来ており左右前から海賊が武器を構えにじり寄って来ている。
幸い漁業協会の船員達が少しずつ前線を押し上げているおかげで後方だけは道は残っている、逃げるのは簡単そうである…ウオウサオウ、そしてアユムから氷刀を受け取ったアミーラと短剣を構えるリサそして不慣れな手つきでレイピアを構える獣人化したヒストルは海賊達を近づけまいと応戦を始める。
「ダガリオ!スズラン!これ渡しとくから使え!」
「なにこれ?」
「名ずけてこおりまきびし、俺達が何かしたところで大した攻撃にならないのは分かりきってんだ!少しでも相手注意を分散させる!これを足元に投げろ!」
「なるほど、足元にこんな鋭利なトゲが生えた物体があれば近づこうにも下も注意する訳か…嫌な事ばかり思いつく」
「ヒスイはもう俺の魔力気にせず皆の援護!頼んだぞ!」
『一応低燃費で行くよー!アユムが使う分残しておかないといざって時大変だからね!』
まだ子供組で戦えるリサは良いとしてアユム達はどうするかというとサヨの周辺を守りつつアユム作成の氷撒菱を敵の足元に投げまくっていた、踏んだらとても痛い上に魔力が込められてるため踏むと足裏にくい込み反しを作って取れなくする嫌がられを通り越してウザったい攻撃をしていた。
アユム達の多少の嫌がらせとウオウサオウの戦い慣れた者の攻撃にアミーラ達の牽制、更にヒスイが常に実体化と解除を繰り返す事で突然現れて攻撃する全体のカバーと突貫ながらもかなり安定して防衛をする事に成功していた。
「大丈夫ですか!」
「ぅ…うぅ…」
「息を浅く、細かく呼吸て下さい!もう大丈夫ですからね…治療します!」
「早めに頼むぜ嬢ちゃん!」
「『我が主よ!この者を癒したまえ!』」
そしてアユム達が時間を稼いでいる間にサヨは倒れている船員に向け治療を開始する、みるみるうちに傷が治っていき数十秒と経たずに完治するだろう…もっともその数十秒が大変なのだが。
「アミーラ!出来るだけ刃先は相手に真っ直ぐ向けるんだ!距離感を誤らせればそれだけで時間稼ぎになる!」
「助かりますダガリオさん…ッ!」
「今の貴女なら軽く振るだけで相手には脅威な筈よ!落ち着いて、慎重に動くのよ!」
「は、はい!」
氷刀とレイピアを手に海賊と斬り合っているアミーラとヒストルに剣術に精通せているダガリオとスズランの的確な指示が飛ぶ、アユムが渡した氷刀は刀身が透明なためそれだけで視認しずらく真っ直ぐ向けられた刃は横から見なければ一瞬距離感が分からなくなり海賊の幽霊は動きずらそうにしている。
更にヒストルは獣人化している事で大人顔負けの力を発揮しその1振りがとんでもない風切り音を出している、近づいたら武器ごとやられると気づいた海賊は攻めるタイミングを躊躇していた…戦えなくてもやれる事をやっている2人を見てアユムも何か出来ないかと戦っているリサを見る。
「頑張れリサ!こうガーッ!とブゥン!って感じでドカッ!とやってやれ!」
「うるせぇ喋んな無能が!お前は黙って氷撒いてろ!」
「酷いっ!」
『まぁアユムがやれる事は既にやってるからねぇ〜』
無能の烙印を押されアユムは落ち込みながら言われた通り氷を撒く、その間にもウオウとサオウは向かってくる海賊の幽霊を次々と倒していき倒された幽霊は切り口から霧散するように消えていく。
「ウオウさんとサオウさんすげぇな、エレファムルの冒険者並に強いんじゃないか?」
「エレファムルとはまた違った過酷な環境が彼らを強くしてるんだろう、海は未開拓地のように未知なる場所だからな」
「サヨの治療は…あと少しか、この調子なら何とかなりそうだ」
船員達も苦戦しつつも海賊達を押しておりもうすぐそこまで来ている、治療が終われば安全な場所まで移動させるのは難しくないだろう…海賊達は幽霊というインパクトに驚かされたものの荒々しい武器の振り方から戦闘は並程度であり魚と日々格闘している者達にとっては相手するのは難しくない、このまま何事もなく戦いが終われば…
「……ん?」
「ちょっと!なに手を止めてるのよアユム!」
「…いや、今なんか…」
氷を撒いているスズランに手を止めた事を怒られるがそれよりもアユムは一瞬、海賊の幽霊の中に何かが見えたような気がして手を止める。
「…今一瞬目が合ったぞ、なんだ?一体何が…」
氷の撒菱を撒くために視線を周囲へと向けた時、アユムと目が合った幽霊がいた…その幽霊は他の幽霊とは違い武器を振りかざし向かってくる訳ではなくジッと真っ直ぐに…
「………ッ!皆気をつけろ!『一気に来る!』」
「ッ!?」
「何!?」
嫌な予感がしてアユムがそう叫んだ瞬間、海賊の幽霊の間からダガーを手に素早く向かってくる海賊が現れる…その数4人で真っ直ぐ『サヨの方へ』と向かっていた。
「こいつらサヨを…止めろ!何としても!」
「通しません!」
「行かせるかよ!」
『このっ!』
回復役を真っ先に潰すのは定石でありこの突貫の防衛の隙を突かれウオウサオウ達とは別方向の守りが薄い方から4人の海賊がサヨへ向かっていく、咄嗟にヒストル、リサ、ヒスイが海賊の幽霊に一撃を叩き込み何とか抑え込む。
だが問題は別にあった。
「アユム!」
「このっ!『氷縛』!……嘘だろ…!」
それは防衛を突破した1人が真っ直ぐ向かって来ている事、他の面々は目の前の敵で手一杯でありサヨと間を隔てるのはアユム達のみ…咄嗟に床に冷気を流し拘束を試みたが海賊は何かを感じ取ったのかすぐさまジャンプして飛び上がりアユム達の上を飛び越えた。
着地点は治療をしているサヨであり構えられたダガーはしっかりと狙いを定められていた、海賊の中でも生前は実力者であったのだろう海賊の幽霊とサヨを見てアユムは駆け出す。
「(大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫!致命傷でも最悪サヨに蘇生してもらえばいい!そう、酷い有様にならなければ…まて子供の姿で酷い有様ってどのくらいだ?大丈夫だよな?そんな考えてる場合か!)」
自分の体を盾にサヨを守ろうと走り出したが少なくとも死は免れないのは確定している、ならば蘇生をしてもらえばいいだけだが蘇生に関する話を思い出しながらアユムは考える暇もなくただ急いで間に入ろうとしていると…アユムの真横を通り過ぎる人影が視界の端に見えた。
「なっ…シーナさん!?」
それは漁業協会の会長であるシーナであった、シーナは子供のアユムよりも早くサヨの傍に駆けつけそのままサヨの体を覆うようにサヨを抱き締める…まるでアユムと同じように自分を盾にする為に。
何故そこまでの事をする?シーナにとってサヨは身も知らずの子供でありサヨが蘇生を使えることも知らない筈である、何故そこまでするのか?アユムには分からず飛び上がった海賊がダガーを振り下ろすまでがゆっくり見え………
「………こ…これは…?」
そのダガーはシーナにもサヨにも当たらなかった、シーナが何も起きない事に疑問を感じ顔を上げるとそこには……『水の壁』が出来ていた。
その水はアユムが撒いた氷が溶け床に広がっていた水であり、まるで生き物のように床を貼って海賊のダガーを受け止めていた。
「な、何が起きたんですか?会長さん苦しいです…!」
「あ…ご、ごめんなさい」
「ぷはー!………なんですか…これ?」
『とりゃ!2人とも大丈夫?!』
ダガーが水によって受け止められ一瞬止まった海賊にヒスイが氷の薙刀を叩きつけ霧散していく、そして役目を終えたと言わんばかりに水は重力に従って床へと落ち床を濡らす。
「い、今のヒスイさんが?」
『え?知らないよ?シーナさんがやったんじゃないの?』
「私は何も…」
「……………」
「お、おいまた船が来てるぞ!」
「ッ!?」
水は床に落ち広がっていきシーナの魔法かと思っていたがそうではないらしい、少しシーナに疑問の目を向けていたアユムだったがその時負傷者を運んでいた船員が船の外を見て大声を出す…全員の視線が一瞬だけそちらに向けられそこには大きな船が1隻アユム達が乗っている船に近づいており戦っていたせいですぐそこまで接近しているのに気づかずもう目と鼻の先まで来ていた。
「新手か!」
「…けどよ、なんかさっきのと違くねぇか?ボロっちいけど明かり付いてるぞ」
「どういう事?まさか他の生存者の船?」
「そんな筈はねぇぜ!ありゃどう見たってもう現役引退レベルだ、あんなので航海する奴なんていねぇよ!」
「じゃああの船は一体…」
「………あれは…まさか…」
「?シーナさん?」
「いや…そんな筈が…もう何年も…前に…」
「お、おい!誰かいるぞ!」
「てかまて…これ…ぶつかるぞー!!!!」
突如として現れたその船はかなり古くアユム達が乗っているものより一回り古いと言えるだろう、戦いながらも何故こんな所にそんな船が現れたのか分からずにいるとサヨを抱いたままシーナが何かを呟いておりアユムがシーナを見たその時…船員の1人が指を向けた先、新たに現れた船の先頭に『誰か』が立っていた。
その人物は明かりが灯っている前にいるせいで顔は暗くよく見えないがかなりガタイがいい女性…に見える、そしてその船は留まるところ知らず真っ直ぐアユム達の船に向かって来て……激しい衝突音に軋む船そして大きく揺れる船体。
「野郎共!この海の礼儀ってもんを教えてやりな!」
「「「「おおおおおおおぉぉぉぉお!!!」」」」
「ッ!来るぞ!」
ぶつかった瞬間、その誰かの後ろから多くの人影が現れたぶつかった衝撃で船が隣接し大勢の人影が船へと乗り込んでくる…新たな敵に船員達が武器を構え………その人影達は船員達を無視して海賊に武器を振り下ろす。
「なッ…?」
「塩忘れんじゃないよ!そいつらの目ん玉にふりかけてやりな!」
「明日の朝食ですかいキャプテン!」
「馬鹿言うんじゃないよ!朝飯の足しにすらなりやしないよ!」
「確かに!」
「な、なんだ?あんたら誰だ!?」
「おう下がってなボウズ共!この礼儀知らずの海賊にはこうするのが手っ取り早い!」
そう言って白い粉をかけた手斧を海賊の幽霊に振り下ろすとアユム達と同じように切られた幽霊は切り口から霧散していき消えていく。
「幽霊の倒し方を熟知している…?」
「敵なの?味方…なの?」
「僕には分からないが少なくとも今は敵ではない…と思う」
「この船の船長はあんたかい!ん?あんた何処かで見た事あるね」
海賊の幽霊を手馴れた手つきで蹂躙していく者達に船員とアユム達が呆然としているとアユム達の前に船の先頭に居た人物が降り立つ。
「…あ…貴女は…まさ…か…」
「ん?なんだい私を知ってるのかい?」
「そんな…もう昔に…死んだと…」
「死ぬぅ?ハッ!バカ言うんじゃないよ小娘!私を誰だと思ってるんだい?」
そう言ってその人物は二の腕に巻いていたバンダナを頭に巻く、その姿はまるで海のギャングを彷彿とさせ海に反射する太陽よりも眩しい笑顔をアユム達に見せる。
「海のモンスターだろうが海賊だろうが私を見れば逃げ去っていく、『リオネ・シャチ』とは私の事だよ!」
「シャチ…?」
そう言ってシャチと名乗る女性はサーベルを床に突き刺し腕を組んでニヤリと笑うのであった。




