342話『霧の先』
あまりにもさっきまでと違う視界に困惑し周囲を見ていると『同じ目線で目が合う者がいた』。
「お、お前ダガリオ…か?」
「…どうやら夢でも錯覚でもない…ようだ」
「ちょ、ちょっと見ないで!」
「なんなんだよこれー!」
アユムの目の前に広がっていたのは銀髪に澄んだ空のような青いクリクリな目を持つ1人の美少年と言うべきか、身に付けていた防具が重く動けなくなっておりその面影からダガリオだとアユムは一瞬遅れて気づく。
そしてその後ろには金髪のボサボサ髪の少女と緑髪の目付きが凄く柔らかい少女がおり自身の姿に混乱していたり落ちた服を掴んで自分の体を隠したりと何がなんだが分からない状況になっている…そんな中でサオウとウオウはひとまずリサとスズランに自身の羽織っていた服を被せる。
「何が何だが分からねぇがひとまずこれで隠しな!」
「潮臭ぇ」
「ひでぇな?!」
「これは…一体…」
「シーナさん、このような事は以前にもありましたか?」
「い…いえ…そんな話は一度も…」
「となると…アユム」
「あぁ、異物の可能性があるな」
「異物…?」
「話せば長くなるので手短に言うととんでもない現象を起こせる何かだと思ってもらえると、それなら俺達が子供の姿になったのも納得が出来る」
こんなとんでも現象を引き起こせるのは異物くらいだろう、そして…
「間違いない、あの濃霧は『異物によるもの』だ…あの時異物の反応があった」
「つ、つまり皆さんの体が小さくなってしまったのも」
「異物だろうな…だるいよぉ…なんで女になったり子供になったり…俺が何したってんだよぉ…」
「嘆くな、今度は僕達も被害が出てるんだぞ」
「被害……なんかこう見るとダガリオとスズランは凄く賢そうなのにリサお前なんだその髪は」
「う、うるせぇ!昔は父さんに整えてもらってて…何言わせんだ!」
「しふぅんでいっふぁんたろぉが!」
「あぁお二人共おやめください!喧嘩なんてしてる場合ではないではありませんか!」
「そのまま2人を抑えといてくれヒストル、今ならアユムなら君でも抑えられる」
「……アユム様が私より力が…弱い………」
「あっ!ちょ!ヒストル…ヒストルさん目が怖い!ちょ!つっっっよ!?え!?嘘だろ12歳に負けるの俺!?だ、誰か助けて!嫌な予感する!俺のシックスセンスが危険だと言ってる!誰か!誰かァァァァ!!!」
「体の調子はどうだスズラン」
「少し慣れないけど今のところは小さくなったくらい…ダガリオは?」
「昔を思い出すくらいにはこの体に見覚えがある、アユムの言う通り異物の影響と考えるのが自然だろう」
「…船の確認を!他にも体に変化が起きた人がいないかの確認もしてください!」
「は、はい!」
目が怖くなったヒストルを置いて落ちた上着でひとまず服を着る3人、船員達は船と周辺の確認にこの場にいない船内の乗組員の確認へと向かいその場にアユム達とウオウサオウとシーナが残った。
「異物ってのがよく分からねぇがこれからどうするよシーナ会長、俺達の頼みの綱がこんな姿になっちまって」
「…皆さんはその姿で戦えますか?」
「…情けない話だが今は武具の1つすら重く感じている、どうやら身体能力も姿形通りになってしまったらしい」
「私は幾分か動けるがよ…それでも動きにくいのは変わりねぇ」
「レイピアが大きくてまともに振れないわ、戦うのは無理ね」
「…サヨ、皆さんの体に何か呪いのようなものがかかっているのでは?」
「私もそう思って調べてみたんですけど…私が気づけてないだけか分かりませんかそれらしきのは…」
「そうですか…困りましたね、私とサヨ、ヒストルさんしかまともに戦えないとなるとはっきり言って厳しいですね」
よりによって前衛組が全員子供になってしまった事でアユム達のパーティーの戦い方は出来なくなってしまった、半吸血鬼である状態のリサは通常よりも動けるがそれでも元の姿の半分以下でスズランの目を使うのも難しいだろう。
「…今の状態でクラーケンに遭遇すれば戦うのは厳しいでしょう、船を反転させ今からでも町へ戻り…」
「多分だけどそれは無理だシーナさん」
予想外の出来事に帰還をしようと言おうとしたシーナだったがそれをヘロヘロになってるアユムが止める。
「無理?何故そう言い切れるのですか」
「過去の経験から異物に遭遇したら大体は逃れられない、それに多分戻っても俺達は元に戻らないし戻れてもここに来ればまたこの姿になる」
「…つまり」
「『この姿のまま異物を破壊する』…それしかない」
「おいおい戦えるのかよ!?」
「まぁ確かに武器は振りにくいですけど氷は使えます…な?ヒスイ」
『ヒスイちゃんにお任せ!』
「うお!?なんだこいつ!?」
「あーあれです、精霊です」
『精霊じゃないけど!?』
「んだよ精霊かよ!」
『納得するんだ!?』
異物とは前文明のもの、それらと遭遇したら最後逃れる事は難しい…だが幸いにもヒスイとの契約は切れておらず魔力は元の体の精神のままだからか十分にある。
突然現れたヒスイに驚くウオウに説明が面倒で精霊とよく言われるので精霊と話をしてシーナを見上げる。
「ただ決めるのはシーナさんです、シーナさんは船員達の命を背負ってるんですから」
「……クラーケンを討伐しなければこの先も被害が出て今日のように港まで来る可能性を考えれば早期決着が求められます…出来ますか?」
「頑張ります」
「…そうと決まればまずは服をどうにかしなければなりませんね、その格好では締まらないですから」
「た、たしかに…」
「裁縫が得意な者を探し服を作らせましょう、それからでも遅くはありません」
「あ!私孤児院の皆の服を作った事があるので手伝います!」
「……ん?どうしたアユム、僕とスズランをジッと見て」
「いや…子供の頃からそんな顔整ってるの見てると腹立つなって」
「何よそれ…」
「なぁアユム、私は?」
「ガキ大将」
「…………」
「いででででで!!!おい!こっちは10歳パワーだぞ!」
異物を相手するのに時と場合を選べれるとは限らない…10歳前後になってしまった4人に何故か無事のサヨとヒストルとアミーラ、そして付いてきてくれたサオウとウオウに漁業協会の人達……このメンツでクラーケンも異物も相手するしかない。
厳しい戦いになりそうだと半吸血鬼パワーに負けてされるがままになっていると…
「…………ッ!2時の方向!何かがこちらに向かって来てます!」
「……なんですって?それは本当ですか!」
「間違いありません!」
「…交易の船、じゃないですよね?」
「ありえません!こんな夜間に航海する船がセイレーンに来る報告など来てませんから!」
周辺警戒をしていた船員の報告にシーナは眉をひそめる、この海上で何かが見えたということは2つの可能性がある…1つは海系のモンスター…もう1つは船。
だがシーナの言う通りならこの時間にこの場所で船があるのは不自然らしく他の船員達の顔に緊張が走る、シャツだけを着て絞ってアユム達は手すり近くまで行き見えたというその方向をジッと見ると確かにつき明かりに照らされている物体が2つ真っ直ぐアユム達が乗っている船へと向かって来ていた。
「暗くてよく見えませんね…灯永玉の準備を!」
「とうえいだま?」
「ずっと光り続ける玉の事さ、いつもは夜間における居場所を知らせたり視界を確保するためのもんよ…まぁ水に濡れたらすぐ消えるから長持ちしねぇけど」
「なるほど」
「灯永玉、用意出来ました!」
「まだ民間の可能性もあります!照らす程度に!」
いわゆる照明弾と似たようなものらしく船員が持ってきたのも両手に持てる程度の筒で発射口と反対には引き金用の紐が見える、シーナの合図と共に船員は狙いを定め紐を引っ張った瞬間…ポンッ!という気持ちのいい音と共に球状の物体が勢いよく謎の物体へと飛んでいく、そして数秒もしないうちに海から数十メートル上で眩い光が迸る。
「……あれは…」
「船…ではあるが…」
「ボロボロ…ね」
小さいせいで手すりに登っていたアユムとダガリオとスズランは明かりに灯された謎だった物体を目撃した、それは確かに船であった…しかしそれは船ではあったがあまりにも『オンボロ』と言える。
船全体が苔にほぼ覆われ海藻やヒトデなんかも引っ付いていたりとオンボロ船と言うのかこれほど正しいものはないだろう、言うなれば海底に沈んでいた船を浮かべてるかのような酷い有様だった…それを見た他の面々も息を飲む。
「…おいおい、なんであんなのが浮いてんだよ?あぁいうのは沈むもんじゃねぇのか?」
「誰かが乗っている…ようには見えませんね、砲撃しますか?」
「おいおい!嬢ちゃんのあれここでやるってのか!?流石にやり過ぎじゃねぇかと俺は思うぜ!?」
船には誰かがいる痕跡も様子もなく、向かってくると言ってもこちらを追尾してるようではないため衝突する心配もなくただただ不気味という何とも言えない雰囲気になる。
そんな中でスズランを後ろから抱き締め少し青ざめているヒストルが恐る恐る船を見る。
「ほ、本で見たことあります…海で無くなった方々が亡霊となり海を漂うと」
「亡霊…タイムリーな話題だな…」
「か、会長…まさか海賊の亡霊じゃ…」
「…ありえない話ではありませんが、今までこの海域でそのような話は一切ありません…しかし……」
この世界にゴーストは存在する…そしてセイレーンの付近では昔に海賊が居たという話もついさっき聞いたアユムは再度、船をよく見るが亡霊らしきものは見当たらない…亡霊が見えるのかはさておき…オンボロ船はそのまま通り過ぎるように船の横を通り抜けようとしていく。
本当に何も無い、何故2隻も海を漂っているのか?そんな不気味な光景だからか悪寒が走りまるで体温が奪われるかのように暑さが嘘のように引いて……
「……?」
何かがおかしい、アユムがそう思った瞬間。
「ぎゃあああああああああ!!!!」
「ッ!?」
突如背後から悲鳴が聞こえアユム達はすぐに背後を振り向いた瞬間、そこには船を見に来ようとしていた1人の船員…だがその体の胸から『鈍く光る刃』が飛び出しており傷口は僅かに白くなっていた。
そして船員の体が大きく動き横へ倒れ…その背後にいた者が姿を現す。
それは輪郭が白くボヤけ、だがそれでもしっかりとそこに『いる』と言わんばかりにその着ている服は質感が感じられる…全身にフジツボや海藻がこべりついておりその肌は生気を感じさせない真っ白であった。
「…か、海賊の…亡霊?」
誰かがそう呟いた、そう…そこには黒を基調とした服を身に纏うサーベルを手に持った『海賊の亡霊』が確かにそこに存在していた。




