341話『海上、船の上にて』
大きな揺れもなく大海原を進む船は快適かどうか問われると普通だとアユムは海面を見ながらそう思っていると背後から足音が聞こえ振り向くとアミーラが立っていた。
「あれ、他の皆と探検しに行ったんじゃ?」
「大体見たので…他の方は今サオウさんとウオウさんと共に反対側で釣りをしてます」
「……ほんとだ釣りしてる…呑気というかドンと構えてるというか…」
「新鮮なのが釣れた場合は夕食に出るらしいですよ」
「ならマグロ釣って欲しいもんだよ…この世界マグロいるか知らないけど」
『私貝食べた〜い!』
「素潜りしてこい」
よく見ると確かにアユムから反対側に釣りをしている仲間達の姿があり楽しそうであった、今から危険な場所に行くというのに…と思っているとアミーラが隣に立ち同じように海を眺める。
夕日が沈みかけており今にも夜になりそうな時間帯のせいか、夕日に照らされる相棒はいつもと違う雰囲気に見え機械人形であるのを忘れそうになる…
「…そうだ、アミーラちょっといいか?」
「どうかしましたか?」
「少しここだけの話にしておきたい事があるんだ」
『え?なになに?告白?きゃー!タイ○ニックする?する?』
「タイタ○ックしたらこの船沈むじゃねーか」
「たい…なんですか?」
「あぁすまん話がズレたな……実は皆に言うかどうか悩んでたんだ、一瞬の事だったし気のせいだった可能性もあるから…………クラーケンを倒した時に『異物』の反応があったんだ」
「…ッ!?」
異物、アユムが破壊しなければならないものでありそれが存在するだけで周囲に影響を与える事もあるとんでもない代物だがアユムはその異物が近くにいた場合に感じる事が出来る…それを知っているアミーラは目を開きアユムの肩を掴む。
「何故それを早く言わないんですか!?」
「い、いやこれには理由があって…まず本当に一瞬過ぎて俺も確信出来ないんだよ」
「確信出来ない…ですか」
「そう…異物があると分かる方法が頭痛なんだけどそれもややこしさに拍車をかけててさ、もしかしたら気のせいだった可能性もあるんだよ」
破壊神から渡された『消滅』のスキルと異物との遭遇時に身体能力が上がるのと異物が近くにある時に起こる頭痛…アユムが異物を破壊する為のものだがクラーケンが絶命した瞬間にしたかどうか怪しい頭痛が一瞬だけあった、そして魔力を沢山使った時の頭痛が重なってしまったのだ。
「俺の気のせいかもしれないから下手に騒いで混乱するのを避けたくて今まで黙ってたんだ、ただ気のせいじゃなかったのを考えて今アミーラに伝えたんだ」
「…なるほど、他の方にはどうしますか?」
「この後集めようかなって、ちょうどアミーラが来たから先に伝えとこうと」
「そうですか…分かりました、念の為私も警戒をしておきます」
「助かる」
自信のない事は言わない、それが1番分かりやすく混乱を招きにくい…ただそれでも可能性が0ではないのなら知っている者にだけでも警告の意味も込めて伝えるのが最適だろう。
そう思いながらアユムはふと海面を見ると丁度夕日が完全に沈んで星空が強く輝き出している時間になっている事に気づく、漁業協会の船員達がランタンに火を灯して明かりを確保しており夜の船上は思ったよりも暗くならない…そしてアユムは偶然近くを通りかかった船員の女性に話しかける。
「すみません目的地まではあとどのくらいですか?」
「距離で言えばそこまで遠くはありません、あと数時間もすれば到着するくらいです」
「数時間…思ったよりも近いですね…?」
「海に下り坂も上り坂も何も無いですから、それにこの船は最新式で大型船ですが他の船に引けを取らない速度を出せる故の時間です」
「なるほど…それほどの船を持ってるとは流石漁業協会ですね」
時間にして半日も経たずに目的地、その近さに驚きと討伐依頼をエレファムルに出すはずだと思いながら船員と話していると突然船員が1歩前に来る。
「えぇそうでしょう!漁業協会は凄いのです!」
「うお!?そ、そうですね…あの近い…」
「私の親の代からと歴史はあり漁村だったセイレーンを交易の町へと作り上げたのも漁業協会なんです!」
「そ、それは…あと近い…」
「初代会長のニシンさんはとても勇ましく海のモンスターや海賊に遅れを取らずこの海に平和を…」
「すみません、あまり近づかないようお願い出来ないでしょうか?」
熱心に語り始めアユムにピッタリひっつく距離の船員だったがアユムと船員の間に無理やりアミーラが入り込み鋭い目つきで船員を睨むと、船員は我に返り慌てて離れる。
「す、すみませんつい…」
「あぁいえ俺は大丈夫なんで…ところでそのニシンさんっていうのは?」
「漁業協会を設立した方で先程も言った通り初代会長をやっていたんです、昔ここら辺はモンスターと海賊がいた事で被害が大きく村を捨てる事を考えていた矢先ニシンさんとその奥さんであるシャチさんが共に尽力し平和をもたらしたのは有名な話です」
「ニシンと…シャチ…」
『あらあら〜?どっちが上か何となく分かりそうね〜』
捕食者と食べられる側を思い浮かべ苦笑する。
「つまりシーナさんは2代目?ニシンさんは今どこにいるんですか?」
「………それが…」
船員の話し方と今の会長がシーナであることからニシンという人物が会長をしていたのは過去の話に聞こえアユムはあの騒ぎの時何処にいたのだろうか、と思い聞こうとしたが…船員の表情が少し暗くなる。
「…15年前に海へ漁に出てそれから行方不明に…奥さんのシャチさんや船員もその時に」
「それは…」
「1度ニシンさん達の娘夫婦が帰ってきたという噂を聞いたのですが誰も姿を見ておらず…以降親戚であったシーナ会長が2代目に」
「…そうですか」
「私あの町で生まれあの町で育ったので…町を守り築き上げてくれた漁業協会を大事に思ってるんです、それで少し熱が入り…」
「気にしないでください、嫌だったとかそういうのじゃないので…………ん?」
町の英雄とも言える存在が作った組織、その組織を特別に思う者がいてもおかしくはないだろう。
頭を下げる船員の頭を上げさせていると…先頭の方が何やら騒がしいのに気づく。
「なんだ…?」
「…まさか!」
そう言って船員は船の手すりに掴まり身を乗り出して船の先頭方面を見る、何が起きているのか分からないがアユムとアミーラも同じように先頭の方を見ると…先頭側から大声が聞こえてくる。
「霧が出たぞーーー!!!」
「あれが…凄いな…」
身を乗り出して見えたのは月明かりによって照らされる『濃霧』だった、もはや海面に広がる雲だと思えるほどの濃さで海を広がっておりすぐそこまで迫っていた。
「あれがウオウサオウさん達が言っていた霧でしょうか」
「日が落ちれば出てこないとは言ってなかったし濃霧とは言ってたが…運が悪かったんですかね?………あの?」
「…………………」
ここら辺の海では霧が出るという話は聞いていたが想像以上である、だがそれがここの日常なのだろうと船員に話を振るが…船員はすぐには返事せずゆっくりと振り向きアユムを見る。
「……こ、こんな濃ゆい霧は聞いた事がありません…明らかに異常です!」
「ッ!だから他の人達も慌ててるのか」
視線を周囲に向ければ明らかに動揺している船員達とウオウとサオウ、そして霧がどんどん広がり船まで近くなっていくところで船内からシーナが出てきて目の前まで迫っている濃霧に目を見開く。
「これは…回避!」
「無理です!避けれません!!!」
「霧の中に入るぞ!全員中央に集まれ!」
「アミーラ!」
「はい!」
既に船の先頭が霧に呑まれ避ける事は不可能、目の前すら見えるか怪しい霧の中で端の方に居たら落ちる可能性がある…急いで乗組員達と共に船の中央付近へと集まり身を固めていると霧の中へどんどん船は入っていき………視界が完全に霧に包まれていく。
船に波が当たる音と風が吹く音…そして人の息遣いと船が軋む音だけが聞こえ視界は最悪と評価せざるおえない。
「皆さん無事ですか!」
「船内に残ってる奴ら以外全員居たはずですぜシーナ会長!」
「冒険者と開拓者の方々は!」
「ウオウいるぜ!」
「サオウもいるぜ」
「俺達も全員いるのは見ました」
「……困りましたね、全員無事なのは良かったですがこんな濃霧に出くわしてしまうなんて」
「シーナ会長は悪くねぇですよ、航海士すらこんなの予測できるとは思えねぇ」
「…ひとまずこのまま皆さん動かないように、これほどの濃霧でも船が動いてる限りいずれ出る事が出来る筈です」
「と言ってもどれほどかかるか分からねぇがな…」
とりあえずはぐれた者がいる様子はなく船内にいる者以外全員が集まれたようだった、しかし視界が0に等しいこの状況で下手に動けば海にドボン!というのも無くはないので霧から抜け出せるまでその場に留まる事になった。
『──────♪』
「…?なぁダガリオ近くにいるか?」
「どうしたこんな時に」
「何か聞こえないか?」
「……何を言ってるんだ君は?」
「いや、今確かに聞こえたんだって!なんか………そう!オルゴールの音色っていうか」
霧の中で何も出来ずただ突っ立っていたアユムだったが突然、その耳に『音』が聞こえてきた…それは何かの音色のようにも聞こえ困惑していると…
「…おいお前が変な事言うから私まで聞こえてきたぞ」
「リサ?」
「…嘘でしょ?私も聞こえてきた…なに…?どこか優しい…」
「………アユムの戯言かと思っていたかったが…僕も聞こえてきた」
「おいおい!お前達何言ってんだ?!こんな静かな霧の中で何が聞こえてるんだ!?」
確実に聞こえてきた音色、それをリサ…そしてスズランとダガリオも聞こえたと言い始めたがウオウの困惑した声が聞こえてくる。
どうやら聞こえているのはアユム達だけ…らしい。
「ッ!?」
そして鋭い頭痛が走り思わず手に持っていた薙刀を落としかけ掴もうとすると…『薙刀が重く掴めなかった』。
「え?」
薙刀は誰にもぶつからず床に転がったようでカラン…と転がった音が広がる、そして何が起きたのか分からずにいると…
「キャッ!?」
「な、なんだ!?体が…重い…!?」
「ちょ!服が!」
「一体何をしているんですか!」
「シーナ会長!霧が!」
霧の中から聞こえてくる3人の声が妙におかしいと思っていると視界が終わっていた霧がようやく薄まってきており、どうやらようやく霧を抜け出せたようだった。
どんどん視界が元に戻っていき…それと同時に不可解な光景が広がっていく。
それは…
「…な、なんか大きくなった?アミーラ」
「…………いいえ……アユム…………貴方が『小さくなってるんです』……!」
そこには、アユムを見下ろすアミーラと周囲の船員達…そして薙刀がいつもの2倍大きく見え着ていた服がブカブカでズボンに至ってはずり落ちてしまっていた。
そして自分の手を見てみるとゴツゴツとした見慣れた手ではなくハリがあり若々しいぷにぷにな手があり…自身の頬を触りようやく自分の状況を理解する。
「………か…体が縮んでるーーー!!!?!?」
その姿はまるで子供…20歳手前の冨谷歩はその半分の10歳程度のちっちゃな子供の姿になってしまっていた。




