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340話『いざ行かん大海原』


時刻は昼を回っておやつ時…氷山をゆっくりと解除する事でクラーケンがようやく港に降り立ちその大きさにその場にいた者達は思わず声が漏れてしまう。


「すげぇなこれ、漁師生活15年になるがこんな大きいのはそうそう見ないぞ」

「流石はクラーケンってところか?見ろこの大きな吸盤、これじゃあ小型どころか中型船も簡単に掴まれてひとたまりもない」

「こんな怪物を倒しちまうなんて大したもんだ…俺の息子と変わらないくらいの子だっているのに立派な奴らだ」


クラーケンに縄を引っ掛けて港の邪魔にならない方へと引っ張っているのを眺めながら漁師の男達は視線を向けると人集りが出来ている場所がありその中心にはクラーケンを討伐したアユム達が居た。


「やるじゃねぇかボウズ!綺麗にクラーケンの眉間ぶった切れてたぞ!」

「ぶった切ったというかクラーケンの体重を利用したというべきかですけどね…」

「最初見た時はこんな若い奴らで大丈夫か不安だったがそんな考えはいらなかったみてぇだな!」

「そうそう、クラーケンを討伐出来たのはあんたらのお陰だ!」

「…私は何も出来てないけど」

「そう言うなスズラン、それを言ったら僕だってそうだ…君と僕はどうしても活躍できる場が少ないから適材適所というやつだ」

「…分かってるわよ」


アミーラによってクラーケンを海上へと誘き出し吸血鬼のリサと獣人化したヒストルによる大人何人分にも及ぶ力にサヨが加護をかけることで全員にバフがかかり、アユムがクラーケンを倒す…対人特化のスズランとダガリオは引っ張るのを手伝っただけなのを気にしてるらしい。

ダガリオの言う通り適材適所というものなためアユムは特に何も言わずそっとしてると人混みを掻き分けシーナが現れる。


「シーナさん」

「お疲れ様です、皆さん彼らを困らせてはいませんでしたかね?」

「何言ってんですか会長!俺達漁師が他人に迷惑かけるだなんてそんな」

「足元を見て交渉してきた商人が急に腹痛を訴え寄生虫だったため数日寝込んだのをお忘れですか?」

「ウッ!け、けど今度は感謝してるんだ!そんな事するわけないだろ?」

「まったく…」

「ははは…それでシーナさん話は終わったんですか?」

「えぇ今から来ます、その間見に来る人々をどうにかしなければですが…」


そう言ってシーナは頭を抱える…クラーケンを慎重に地面に降ろすため氷山をゆっくり溶かしていたアユム、その間にシーナはクラーケンの解体をする為に町中の料理人や冒険者と開拓者を集めていた…この暑さアユムが冷やしてるとは言っても腐るのは目に見えてるため早めに解体しなければ動かす事もままならない。

そして解体したのは食べれる部分は漁業協会によって調理されクラーケン討伐の宴として振る舞われ、食べれないもしくは食べきれない部分は海に返すため力仕事として漁師達と冒険者と開拓者が呼ばれる事となった…そしてアユムが視線を町の方へと向けると漁業協会の人達が壁となってるが多くの人が集まっているのが目に入る。


「まぁクラーケンを討伐と聞けば気にはなるでしょうが…町の活動がストップして混乱が起きてる所もあります、討伐して頂いたのは嬉しい事なのですが…少し頭痛が…」

「は、ははは…ま…まぁ何がともあれ…クラーケンを討伐出来て良かったです」

「……えぇ無事討伐され今後のセイレーンの被害は少なくなるでしょう…数々の無礼な言動お許しください」

「いいんですよ、確かに俺達は若い奴ばかりなのは間違いないですから不安に思うのは仕方ない事です」

「…寛大な対応感謝致します、今回の依頼についてはエレファムルのギルドマスターに伝えておきましょう…とても素晴らしい方々だったと」

「って事はつまり…だろ?アユム!」

「あぁ」


しっかりとした頭を深く下げる謝罪、この町の漁業を支える長が下げる頭というのは何よりも重たい…それを考えれば…というよりも元よりアユム達に対して不安に感じ疑った事に対して許すのはごく普通の事である。

そしてアユムの脇腹を肘で小突きながら見上げてくるリサにアユムは頷く、このクラーケン討伐は上級試験の依頼…つまり依頼が達成されたということはアユム達は帰れば晴れて…


「おい退いてくれ!通してくれ頼む!こいつに見せなきゃならないんだ!」

「?」


話していると突然クラーケンを一目見ようと集まっていた人混みの中から騒ぎが聞こえ何事かとその方向を見ると…人混みを掻き分けその風貌から冒険者であろう男が酷くやせ細った女に肩を貸しながら歩いて来ているのが目に入る。


「あれは…?」

「…彼らはクラーケン討伐へと向かい生き残った冒険者の1人です」

「となるとこの町の冒険者でしょうか」

「はい、クラーケンが目撃され討伐の依頼を出した際にいの一番に名乗り出て下さった方々でした…ですが結果はご存知の通り…生き残った者はクラーケンを恐れ海から離れるように町を去りクラーケンから生き延び、この町にいるのは彼女だけです…クラーケンに襲われ仲間を失った事で食事を受けつけないようでして…」

「…酷く怯えている、彼もまたクラーケンに心を折られた1人なんだろう…だがそれでもこの町に残っているのは執念…か…」

「見ろ!クラーケンは討伐されたんだ!もう奴はいない!」

「…………」


仲間を失い体が思うようにならなくなってもそれでもこの町に残り続けるのはクラーケンが討伐されるのを待っているからなのか…虚ろな目をした冒険者の女は男に促され顔を上げて港から解体しやすい場所まで移動させられているクラーケンを目撃し……………


「ち……がう」

「……違う?」


1歩、また1歩とクラーケンの方へと男の肩から離れて歩き始め…『違う』と呟く。


「お、おいどうしたんだよ?まだ1人で歩くには…」

「ちが…う…………違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!!!!」

「!?」

「な…なんなんだ?あいつ頭いかれてんじゃねぇのか?」

「…………」

「……違う」

「アユム」

「あぁ…確かに『違う』」


まるで恐れるようにヒステリックに叫び女はクラーケンを見て違うと叫び続ける、その場にいた全員がクラーケンが討伐された事でとうとう精神がおかしくなったのかと哀れみの目を向けるが…アユムとスズランだけはその女の目が『怒り』に満ちている…と分かった。

そして女は目から涙が口の内側を歯で食いしばっているのか口の端から血が流れ…口を開く。


「『……奴じゃない』」

「奴…?」

「私を…私の仲間を殺した…奴は『こいつじゃない!』」

「ッ!!!!」


その言葉にその場にいる全員に動揺が広がっていく、この町でクラーケンを目撃した者はこの冒険者の女だけ…そしてその女が自分が見たのは『このクラーケンではない』と言い出した……巨大で誰もがこいつが件のクラーケンだと疑わなかったがもしそれが本当ならとんでもないことになってしまう。


「ちょっと待てよ、ならあのクラーケンはなんなんだ?」

「もしかしてクラーケンは2体いる…?」

「だとしたら…恐ろしいぜ…あれよりも大きいんだろ?」

「…見間違い記憶違いという可能性もあります、ですが確認するまでは断定できない」

「…………」

「…新たに依頼があります、内容はクラーケンの目撃された海域へ向かい調査をすること…そしてクラーケンを発見した場合」

「『討伐』……ですね?」

「…はい、1度ならず2度も討伐をお願いする形になりますが貴方達しか頼める人がいません…どうか…」


そう言ってシーナは再度アユム達に頭を下げる、セイレーンの今後の為に一抹の不安をも取り除いておかなければならない…そしてクラーケンを討伐出来るのはこの場でアユム達しかいない。

クラーケンを討伐、という依頼自体は達成している…だがアユムは『ある事』が気がかりでもあり仲間達を見ると全員アユムに一任するらしく頷きアユムはシーナを見る。


「分かりました、その依頼受けます」

「…ありがとうございます」

「ただその…俺たち船の技術とかはからっきしでクラーケンの目撃情報の場所まで行くのに案内してくれる人と船を頼みたいのですが…」


内陸に位置するエレファムルで船を動かす技術を知る機会なんてある訳もなく仲間内に船乗りなんていない、アユムも船の動かし方なんて知ってるはずもなくクラーケンの目撃場所まではセイレーンの住人の誰かに頼むしかないのだが……クラーケンの危険さはこの場にいる誰もが見てしまったため漁師達は目を逸らす。

危険な航海になるのは確定しているのに行きたがる人はいる訳がないかとアユムはシーナを見ると…シーナは頷く。


「私が行きましょう」

「え?」

「か、会長!?何を言ってるんですか!?」


思いがけない事にアユムがキョトンとしていると近くにいた漁業協会の男が慌てながらシーナの横に来る。


「自身の立場をお忘れですか?!クラーケンが出た場所に行くなどもしも何かあれば…」

「危険も承知です、ですが漁業協会の長としてこの町を守るためなら私の命など軽い」

「で、ですが………………あーもう!分かりました!今から漁業協会で用意出来る乗組員と船を用意しますので会長は何もしないでください!いいですね?!」

「それで構いません」

「…どうやらしたたかな人のようだ」

「おぉおぉ可哀想な奴ら、死ぬかもしれねぇ冒険に巻き込まれるなんてな」

「わ、私が皆さんを死なせたりしません!」

「…………」


シーナが折れる気がないのに気づいた漁業協会の男は頭を抱えながら急いで乗組員と船を用意する為に走り出していく、大人しい雰囲気で厳格な人なのかと思っていたがどうやら思ったよりやる時はやる人のようだった。

これで行く宛が出来た…のだがアユムは他の面々に指示を飛ばしているシーナの横顔を見ながらある事を考えていた。


「(…本当に『それが理由』なのか?)」


町のため自分が死ぬかもしれない冒険に出る…街のことを考えたシーナの行動、だがそれにアユムは少し違和感を覚えていた。


「(町の為に組織の長が危険を顧みず真っ先に名乗り出る…ねぇ………まだ会って数時間だがシーナさんなら自分にもしもの事があった時を考えてむしろ残ると思ったんだが…)」


そうと言われればそうなのだと思える程度のちょっとした違和感、何か不利益や駄目な所がある訳でもなくただただ感じた違和感…


「(……考え過ぎ…か?)」

『考え過ぎじゃない?』

「(…ナチュラルに俺の考え見るのやめてくれません?)」


問題がある訳でもなくアユムは久々にヒスイに思考を読まれながら出発の準備へと向かうのであった。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「おぉー…」

「大きな船ですね!」

『おぉだけに?』

「は?」


夕日が見え始めた頃、アユム達が港に戻ると荒れた港には1隻の大きな船が停まっていた。

船の種類で言えばガレオン船というものだろうか?大きな帆が目に止まり大勢の人々が船に荷物を運んでいたりとさながら大航海時代を見ているかのような光景である。

大きな船に全員の目が奪われていると港に居た2人の男がアユム達に気づき近づいてくる。


「よぉお前ら!」

「ん?…えーっと…どちら様でしょうか…?」

「ひでぇな!?俺達だよ昼の時一緒にクラーケンと戦った冒険者と開拓者!」

「あ、あー!思い出した!」

「この短時間で忘れるのか…まぁ自己紹介もしてないし仕方ないか、俺はサオウ」

「そんでもって俺がウオウだ!よろしくな」

「アユムです…ところで2人はどうしてここに?」

「そりゃお前、俺達も一緒に行くんだよ!」

「え?」

「海の知識がある冒険者と開拓者がいた方がいいだろ?それに1度クラーケンとは遭遇したんだ、足でまといにはならないぜ」


そう言ってサオウとウオウは青髪を揺らしながらサムズアップする…格好が水に濡れてもいいようになのか半袖半ズボンで海水浴にいるマッチョなナンパしてそうな風貌だが確かにアユム達に海の知識は皆無、乗組員達は多少戦えるとしても本職が居た方が安心感がある。


「ならよろしくお願いします、頼りにしてますよ」

「まぁクラーケンが出たらお前らに任せるんだけどな!ガハハハハハ!」

「ははは…ところで聞きたいんですけど」

「ん、どうした?」

「なんで夕方に出港するんですか?確かに早く出た方がいいですけど夜は暗いですし…」


クラーケンの事を考えれば早めの解決が望ましいのは変わらない、だがシーナ達はもう今すぐにでも出港する勢いで準備をしており夕方には出港予定である…夜は暗く視界も良くないため朝や昼の方がいいのでは?そう考えていたアユムだがサオウはポンと手を叩く。


「そうかお前達は知らなかったな、それはここら辺の海の事情が絡んでるんだ」

「海の事情?」

「そんな高頻度じゃねぇんだが霧が出るんだよ、そりゃ濃霧でよ!シーナ会長は多分それを考えて夕方に出港する事にしたんだろうな!」

「霧ねぇ…霧っていうと……」

「霧…ですか」

「…?どうしたのですがお二人とも?アユム様を見て」

「な、なんでだろーなー、ははは」


霧、と聞いてリサとアミーラがアユム…というよりも薙刀を見る。

思い浮かべたのは氷翠が居た古城付近の事だろう…あの時も確かに濃霧で大変な思いをした、あまりいい思い出ではない。


「出港するぞー!」

「お、そろそろだ…行こう」


話してる間に荷物を全て運び終えたのか合図が聞こえアユム達は船へと乗り込んでいく、大型船に乗る機会がそう多くなかったアユムだがいざ降り立ってみると意外とこんなもんがと言った感想が出てくる。

そして全員が乗り込んだのを確認し乗組員の漁業協会の会員達が錨を上げて帆を張る。


「出港ー!」

「頼んだぞー!」

「クラーケン討伐したら持って帰って来てくれよー!」

「生きて帰って来いよー!」

「なんか1人とんでもないこと言ってる人いなかった?」


船が港を離れ港に集まったセイレーンの住人達の声を聞きつつアユム達が乗る船はクラーケンが目撃された地点へと向かっていく。


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