337話『漁業協会会長』
漁業協会、その名の通りなら漁業をしている漁師達の集まりであり地図の通りならクラーケンの討伐を依頼したのも漁業協会という事になる。
建物自体は3階建てで周囲に比べ少し古いがかなり大きく人もそこそこいるようで出入りも多い、肌が綺麗な小麦色のガタイの良い男性や女性が建物から出てきたり入ったりしてるのを見ながらアユム達は建物の中へと入っていく…中に入るとまず見えるのは1階の広々としたフロアだ。
例えるならば役所だと言えば想像しやすいだろうか、受付があり向こう側では大勢の人が仕事をしてロビーには待つための席が用意されているが今は待っている人がいる様子は無い…入って来たアユム達に気づいた受付の男性が片手を上げながら口に手を添えて手を振る。
「そちらのお客様こちらへどうぞー」
「あ、はーい」
仲間達と顔を見合せアユム、ダガリオ、アミーラがひとまず受付の方へ行きリサ達は一旦席の方へと向かい待機する…受付まで行くと受付の前にある椅子に座るよう進められひとまずパーティーリーダーであるアユムが座ると受付の男性はにこやかに笑う。
「ようこそセイレーン漁業協会本部へ、本日はどのようなご要件で」
「あ、えーっと…依頼の件で来たんですが…」
「依頼…?」
「あーちょっと待ってくださいね」
慌てて鞄から手紙を取り出し依頼主の名前を確認する。
「えっと…漁業協会の会長、シーナさんからクラーケンの討伐の依頼が…」
「クラーケン…!?」
手紙には依頼主の名前が書かれてるため確認しながら名前を読み上げていると突然、受付の男性が机を叩きながら立ち上がり前のめりになる…よそ見してたせいでアユムは思わず手紙を手から落としそうになり慌てて空中でキャッチしてると男性はハッとなり振り向きながら走り出す。
「す、少しお待ちを!」
「………行っちゃった、なんなんだ一体」
「…どうやら想像以上に問題になっているようだ」
「え?」
走って奥の扉から出ていってしまったのを見ながらアユムはポカーンとしてると後ろに立っていたダガリオがアユムの肩を叩き叩かれた方を少し見る。
「あれが次の奴らか…大丈夫なのか?ガキばっかりだが…」
「エレファムルって場所に依頼を出したって聞いたけどエレファムルってどこ?」
「知らないよ、何がともあれさっさと討伐して欲しいもんだ…」
「……なーんか…注目されてるな」
『やな感じ〜』
視線を向けた先、そして周辺にいる漁師や協会の人々がアユム達を見ながら小声で喋っているのが聞こえてくる…聞き取れたものだけで判断するならばどうも依頼の話はかなり広まっているようだ。
「…次…ってことは俺達意外にも依頼出してるのか?」
「まぁそれはそうでしょう、この町にも冒険者や開拓者はいるでしょうから」
「ただ…セシリアさん達に依頼を出そうとする辺り良い結果にはならなかったようだな」
「…お、来た来た…」
話ではクラーケンによる被害が出ているらしく近海で目撃も多い、港町のこの町で海の問題は深刻であるのは間違いなく早めの解決が求められるだろう…そうなったらまず頼られるのはこの町にいる冒険者や開拓者だ。
だが周囲の反応からしてあまり上手くいっている様子はなくダガリオが言う通り良い結果は出せてないようだ、今まで陸地での戦いをしてきたのもあって少し不安に感じていると奥へと引っ込んだ受付の男性が足早に戻ってきてアユム達がいるロビー側に出てくる。
「お待たせしました、シーナ会長がお待ちです…皆様こちらへ」
そう言って受付の男性はアユム達と席の方に座ってるリサ達を見てロビーにある階段の方へと向かって行く、2階へ行くようでアユム達は立ち上がってその後に続く…階段を上がり2階の廊下を進んで男性が1つの扉の前に立ち止まってノックをする。
「会長、例の…」
『通しなさい』
中から声が聞こえ受付の男性が扉を開ける…開けられた扉の向こうには広い部屋が繋がっており壁には巨大な謎の魚の魚拓のようなものが飾られていたり、魚の骨が置かれてたりといかにも海の近くにある部屋といった内装だった。
そしてその部屋には大きなソファーと小さなソファーと机が置かれておりその小さなソファーの前に1人の女性が立っていた。
「お入りください」
そう言われアユム達は中に入ると部屋の扉は閉められる、ソファーの所まで行くと女性はアユム達をジロジロ見ておりあまり気持ちのいいものではない。
「どうぞおかけになってください」
「では…」
7人座るには少し狭いのでアユム、アミーラが先に座りサヨとヒストルを座らせ他はソファーの後ろに立つ。
意外にも座り心地が良いなと思いつつ目の前で小さなソファーに座る女性を見る。
「初めまして、私はこの町の漁業協会現会長をしていますシーナと申します」
「開拓者のアユムです」
漁業協会の会長シーナ、白髪の目元がタレ目でおっとりとした雰囲気があり髪色からある程度の歳なのかと思ったが肌のハリや姿勢の良さから推定30代後半くらいだろうか?
下の階の人達とは違い肌は焼けておらず白っぽいためあまり外に出ないのだろう、会長というのだからもっと歳を取った人が出てくるのだと思っていたが思ったよりも若い…元の世界基準では若い人が出てきたと驚いているとシーナが順番にアユム達を見ており…突然ピタッと止まったのが目に入る。
「?どうかしましたか?」
「い、いえ何もありません」
目が合って首を傾げるサヨにシーナはすぐに目を逸らす…知り合いにでも似てたのかとアユムは思っているとシーナは改めてアユムを見る。
「それで…貴方達が集いし英智…ですか?随分とお若い方達で…」
「あーーー…その件で少しお話が…これを」
どうやらアユム達を見ていたのは想像よりも若い奴らが来たからだったらしい、アユムは急いでさっき出した手紙とは別のギルドの印が押された手紙を取りだしてシーナの方へと机の上に置く。
「俺達はセシリア…ギルドマスターである集いし英智の人の代理で来ました、その手紙に詳しい事が書かれてる筈です」
「……なるほど…少し拝見いたします」
そう言ってシーナは手紙を取り封を開けて中に入っている紙を取り出して読み始める、アユム達が受ける前提で書いていたものらしく受ける事を伝えに行ったその時に渡されたものである…ギルドの印と上等な紙から嘘ではないとは信じてはくれるだろうが……問題は別にある。
「…分かりました、貴方達が集いし英智の代わりに来てくださったのですね」
「はい、集いし英智は既に解散していたらしく…そこで俺達が」
「そうですか…昔に集いし英智の方々のお噂はかねがね聞いていたので彼らならと思っていたのですが……残念です」
「おっしゃる通りです、ですが彼らに変わって……」
「貴方達がクラーケンを討伐してくれる…と?」
「………」
話しているシーナの目が僅かに疑いの目に変わった。
「噂を頼りに文を書いた私が言うのも失礼ですが…あなた方がどの程度の人達なのか、集いし英智の代わりになる方々なのか少し疑問に思います」
「…ごもっともな話ですね」
「…以前よりこの町にいる冒険者や開拓者の方にクラーケンの討伐を頼み尽く失敗……果てには犠牲者が出てしまいました、海を熟知してる方々でもです」
「………」
「そして漁師達による大規模なクラーケン狩りをする話も出てきてしまい…この依頼が失敗したらそれが現実になるでしょう、多大な犠牲を出して」
そう話すシーナの表情は苦痛にも感じられるほどの決断に迫られている顔をしていた、噂を頼りに手紙を出すほどクラーケンによる被害を問題視する漁師が増え犠牲を出してでも漁師達による討伐が決まりそうな程にシーナは決断を迫られているようだった。
恐らく集いし英智が来ても駄目なら決行されるのだとアユムは理解すると同時にシーナの疑いの目の意味を理解する、アユム達によってこの町の未来が大きく左右される。
「……あなた方は少し…若過ぎると感じます、手紙には集いし英智以上に頼りになると書かれていましたが私には…」
「…んじゃなんだよ、このまま何をせずに帰れって言うのか?」
「おいリサ…」
「まてアユム、今は彼女に任せよう」
「…怒って依頼取り消しされても知らないからな」
今後の未来をこの若い奴らに任せられるのか?そう思うのは当たり前だとアユムは思っていると突然後ろにいたリサが話し始める、確かにここまで来て帰る訳にもいかないが相手の考えもある…止めようとするとダガリオに止められ渋々黙る。
「確かにあんたの目にはガキに見えるかもしれねぇがよ、私らは何度も死線くぐり抜けて来た…あんたが思うほど私らは弱くねぇよ、それにギルドのお墨付きだぜ?」
「それは…」
「あんたも話聞いてりゃほぼお祈りに近かったんだろ?ならあんたは私らに全部託して私らは死ぬ気でそれに応える…それでいいだろ?」
「…………」
ギルドの印付きの手紙を見てシーナもアユム達がギルドから信用されて送り出された実力者達である事は分かってはいた筈である、だがそれでもこの町にいる数々の信用していた冒険者や開拓者が依頼失敗と共に帰ってきたのを…そして集いし英智の代わりに来た自分よりも1回りも2回りも若いアユム達を見て信じるのが難しくなってしまったのだろう。
「……どうしますかアユム」
「何かシーナさんを信じさせれる事が出来れば彼女も安心して俺達に任せられる筈だ、ただそれがな…」
「クラーケンが出てきてくれれば話が楽なんだけどね」
「おい滅多なこと言うなよスズラン、知ってる?言霊ってやつ」
「なにそれ」
「あの」
『言葉に宿る霊的な力ってやつ、言ったことが本当になるんだよ〜』
「へぇ…似たような話は昔に聞いた事あるけど…けどそれが1番手っ取り早いじゃない」
「そりゃそうだけども…」
「あの!!」
今のシーナに任せても大丈夫だと思わせるにはアユム達がどのくらいの実力なのかを見せつける事、しかしそれを見せつけるにも証明する方法が無い……スズランの言う通りクラーケンでも出てきてもらってそれを倒すのが1番早いのだがシーナに討伐を見てもらうのは危険な上に見れる場所といえばすぐそこの港ぐらいだろうか?
港にクラーケンでも出たら被害が出ちゃうので出てきたら大変な事である、もし本当に出てきたら依頼も片付いて楽であるのだが…そんな上手い話なんてないのだ。
言霊の話をコソコソ話してると突然隣に座っているヒストルが大声を出しアユムは驚いて少し跳ねる。
「ど、どうしたヒストル?」
「あ…すみません……あの…何か聞こえませんか?」
「?聞こえないかって…何がだ?」
「その…悲鳴…?のような」
「悲鳴?そんなの何処からも…」
「会長大変です!」
何か聞こえる、そう言ってヒストルは周囲を見るがアユム達には何も聞こえてこない…獣人の血も流れているからか人の状態でも耳が良くなったのかそれとも幻聴が聞こえるようになってしまったのかと心配しているとバンッ!と部屋の扉が勢いよく開かれ先程とは違う漁業協会の男性が部屋の中へ入ってくる。
「何事ですか、今はお客様が…」
「申し訳ありません!ですが…み…港に……『クラーケン』が!!」
「なっ……」
「ッ!」
その名を聞きアユムは急いで立ち上がり窓へと向かう、この部屋の窓は海側を向いておりそこから港までよく見える場所でもあった…急いで窓から外を見るとそこにはとんでもない光景が広がっていた。
漁業協会の建物から海までは500〜600m程度の距離がある、その距離でも目視出来るほどの大きな何かが『いる』…そして遠目では分かりにくいがそれでも大きな船が揺れ崩れていくのが見えた。
「あれがクラーケン…?」
「随分とデケェな、あんなのが暴れりゃそりゃ被害出るわな…」
「…これじゃ…あの時と…」
「?シーナさん?」
港が襲われている…その光景を窓から見ていたアユム達だがその隣で見ていたシーナが何か呟き、そして真っ直ぐな目でアユムを見る。
「…信じても構わないのですね?」
「…はい、クラーケン…討伐してみせましょう」
「………避難指示はもう出てますね?馬を用意しなさい!私も現場に行き指揮を取ります!」
「は、はい!」
シーナはアユムの言葉に頷き入って来た漁業協会の男に指示を出しながら部屋から飛び出していく、そしてアユム達もまたお互い頷き合い…
「よし!皆行くぞ!」
上級試験であり討伐対象のクラーケンを討伐するべく行動を開始する。




