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おまけコーナー・八ページ目『ちょっとした日に』


穏やかな風が赤子をあやすように頬を撫でて流れていきカンカンに地面を照らす太陽の光によって気温が上がりかなりの暑さになっている、そんな夏になった空模様の下で開拓最前線の町であるエレファムルはいつも通りの日常を送っておりその中で一際人が集まっている場所があった。


「うん、太陽がかなり上に来てるからそろそろ切り上げに入るわよ!皆あともう一息!」

「「「おーーー!」」」


作業を見ていた帽子を被った女が空を見上げつつ声をかけると忙しなく動いていた者達が返事を返す、ある者は荷車を動かしある者は運びある者は魔法を使って…その作業をしている者達の間を通って帽子を被っている女は1人の男の傍に来る。


「お疲れ様、ちゃんと水分摂ってる?アユム」

「い…一応水分補給はしっかりと……してますよ…セシリアさん」


帽子を被っている女…ギルドマスターのセシリアは作業をしている男…アユムに声をかける、アユムは首に巻いていたタオルで汗を拭いながら顔を上げて立ち上がり周囲を見る。


「しかし今日は開拓者かなりいますね、いつもの2倍いるんじゃ?」

「ちょっと人手が欲しいからいくつかのパーティーにはお願いしてたのよ、今回は大事な仕事だって」

「確かに大事ですね…石畳の道とは」


そう言ってアユムは視線を下に向けると土を掘り返しそこへ石を敷き詰められているのが目に入った、そうこの場にいる者達は全員開拓者であり暑い中頑張ってやっている作業というのは土の道を石の道に変える作業であった。


「かなりこの町も安定してきたからそろそろいいかなって」

「まぁいつまでも土だと…雨が降ると最悪ですからね」

「交通が滞るし泥がねぇ…」


開拓最前線は不安定な場所というのもあっていつでも町は捨ててもいいように作られている、だが最近は町もかなり活気に溢れモンスターの襲撃も1部除いて減ったため町への工事を決行したらしい。


「完成はいつくらいなんです?」

「1年後くらいかしら」

「1年!?」

「魔法使えばもっと早いけど必要な道以外はそこまで急ぐ必要はないから全部の道で1年ってこと、ここから北門と南門までは早めにしたいからここの完成で言えば数日」

「はー…」

「それに長期的な仕事にすれば町の人達がこの仕事の依頼受けて働けるからそこまで急がなくていいの」


元の世界では建てたり舗装したりと現代技術を使って1ヶ月から1年とかかるが流石はファンタジー、魔法を使えばちゃちゃっと済ませれるらしい。

だがそれもお金がかかるのは当たり前で重要な道は魔法と人の手で早めに石を敷き詰め残りはゆっくりと人の手らしい、いくら安定したと言っても開拓最前線…町を捨てるとなった時を考えればお金を沢山使って魔法で終わらせるのは難しいようだ。

そして町には仕事によって暇になったり仕事が無かったり急にお金が必要になった者がいる事がありその人達向けという意味もあるらしい、町のことをよく考えている。


「それじゃ私は確認作業があるから、続きは夕方なる前だから遅れないように」

「了解です」


現在時刻は11時頃、朝の8時頃から初めて太陽が高く暑い時間を避けて夕方4時頃に再開するとのこと…熱中症は馬鹿に出来ないため必要な事だ。

現場監督のように忙しくあっちこっちへ移動しているセシリアを見送りながらアユムは作業を再開していると視界の端にある光景が目に入る。


「…………」

「ん?どうかしたのかアユム」

「あ、いやすみません!」


見えた光景というのは荷車で運ばれた大きな岩を中級開拓者である魔法使いの女性が魔法でスパスパと切り取っている所だった、開拓者の魔法使いはこの町に長くいる開拓者のためアユムも会ったら挨拶はする程度の面識があるが相手は急にジロジロ見られて驚いておりアユムは慌てて謝ると杖の先を揺らしながら首を傾げられる。


「まぁアユムもそういう年頃だから仕方ないが同業を狙うのは…」

「なんでそうなるんですか!」

「はははは!冗談だよ、ほらこれで最後だ」

「うぅ…」


英雄やらなんやらと言われるがこの町ではアユムは下っ端も下っ端、中級が多いこの町では中級だが上級並の者が多く彼らからしたらアユムはまだよちよちヒヨコちゃんである。

決して侮られてるや舐められてる訳ではなく先輩故の後輩に対する優しさであり有難く思いつつこういう冗談はやめて欲しいと思いながらアユムは敷き詰める用の石を受け取り作業に戻りながらさっきの光景を思い出し空を見上げポツリと呟く。


「……魔法…使ってみたいな」


異世界に来たらまず考えるであろう魔法の使用、先程の魔法使いを見てふとそう思うのであった。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



いつもならまちまちな客の出入りなギルド1階酒場、冒険者と開拓者が利用する事が多く昼頃は近場の依頼に向かったパーティーが帰って来たりするくらいなのだが今日に限ってはかなり賑わっている。

それはギルドが依頼を出した道整備によって開拓者が多く町に残った事で昼休憩も兼ねての来店が多いからであった、そして忙しく料理を運んだりしているギルド職員を横目に見てカウンターに座ってたアユムは前を向き指パッチンをする。


「ヘイマスター!腕利きの魔法使いをここに!」

「暇なら帰ってください」

「冷たいなぁポメェ!俺の氷かて!」

「うわ…めんどくさ…」


氷入のジュースが入ってるコップをアユムの前に差し出しながらギルド職員でありポメラニアンの獣人であるポメが面倒な奴を相手するかのようにジト目でアユムを見る…実際のところ面倒な奴ではある。


「で、魔法使いの方ですか?それまた何で」

「いや聞いてくれよー実はさっき見てふと思ったんだよ、俺も魔法使えるのかなって」

「……使ってるじゃないですか、いつも氷を」

「あー…」


そう言われアユムは指先をコップに付けると木製のコップが白くなり中身が若干凍っていく。


「いや違うんだよポメ聞いてくれよポメ」

「はいはい」

「確かに魔力使ってやってる事だし魔法って言えば魔法の部類なんだろうけど違うんだよポメ」

「何が違うんですか」

「なんかこう…自分の得意な属性とかさ?あるじゃん例えばクールなら風!熱血なら炎!とか、ね?」

「ね、と言われましても…そもそもなんでまた急にそう思ったんですか?アユムさんですし何か理由あるんでしょう?」

「……まぁ…ほら今町で道整備してるじゃん?町も安定して新しい事をしてるように俺もそろそろこの町来て1年…何か新しい事に挑戦しようかなって」

「あー…そっかあれからもう1年ですか?早いですねぇ…」


アユムが異世界に転移してからそろそろ1年…この世界にも慣れてきて生活も安定して来た今、新たな事に挑戦してみるという考えがあった。

あと異世界に来たからには魔法を使いたいという欲望もあった、その話を聞いたポメはアユムと初めてあった日の事を思い出してるのかしみじみとしつつも耳をパタパタさせる。


「理由は分かりましたけどなんで僕に聞いたんですか?魔法ならアユムさんのパーティーにも確か使える方いましたよね?」

「…ヒストル達は今買い物中でな…俺が道整備の依頼を受けたのもやる事無かったからなんだ」

「あ〜……」

「それにヒストルが使う魔法は多分俺には使えないんだ…頼むポメ!知り合いにいない?サクッと魔法教えてくれる人!」

「それ魔法使いの方の前で言っちゃダメですよ?んー…アユムさんも知ってる方だとモルさんとかになるますが…」

「…モルさんか」


開拓者でありカンミール、ミルマの2人とパーティーを組んでいる魔法使いであるモル…多種多様の魔法を扱いその実力はアユムもよく知っており知り合いであるのも含めて教えを乞うという事に関して言えば適任ではある…あるのだが…


「今はもうエレファムルにはいないからな…」

「そうですねぇ…今頃はルモンドに向かってる最中でしょうか」


今この町にカンミール達はいない、依頼を受けているなどそういった理由ではなく完全にこの町からいないという意味である。


「いつの間にか上級試験をクリアして上級になっちゃってたと思ったら別れの挨拶も無く行ったもんなぁ…まぁ手紙はあったけど」

「アユムさん達が王都に行ってる間でしたから仕方ないです、それに今生の別れではないですからまたきっと会えますよ」

「……だといいが…」


カンミール達が上級試験を受けていたという話は四家の件で王都へと向かう前から知ってはいたがアユム達が王都にいる間に上級試験をクリアし、そしてエレファムルにいる人達に別れを告げアユムには手紙を残して町から去ってしまっていた。

彼らが上級を目指していた事もその理由も知っているアユムにとってこの町から去った事は不思議では無かった、だがそれでも様々な事を教えてくれたカンミール達が手紙を残してくれたといえ言葉を交わさずに行ってしまったことに多少なりとも寂しさを覚えてしまいコップに入っているジュースと共に飲み込む。


「一応他にも魔法使える知り合いはいるけど…大体が王都か外国なんだよな」

「気楽には会えませんねぇ」

「…てか、この町魔法ギルドとかないの?美食ギルドとかあるくらいだし」


王都には魔法学と魔法を扱うサードとセカンドやチャンマルがいてガバラマドにも何人かいるがそうそう会える人達ではない、どうしたものかと考えていると…ふとある事に気づく。

それは魔法ギルドの存在、冒険者・開拓者ギルドや美食ギルドなどあるからには魔法ギルドなるものが存在してもいいはずである…ギルドと言わず魔法学会的なのがあれば魔法を教えて貰えるかもしれない、そう思いアユムはポメを見るとポメは難しそうな顔をする。


「あるにはありますが……あまりオススメはしませんね」

「なんで?」

「一応彼らも魔法のプロというか…アユムさんのように軽い気持ちで行くと多分キレられますよ」

「…それはごもっとも」

「随分と暇そうだな、ポメ」


プロなりのプライドがある者達の前に軽い気持ちで魔法を教わろうとしているアユムが現れれば良い気はしないだろう、魔法を教わるのにガチの本職の人達に行くのは良くないとはこれいかにと思いつつ諦めた方がいいかと思っていると背後から声をかけられ振り向くとそこには…


「ニックさんお疲れ様です」

「あぁ、体調は大丈夫か?」

「これでも体力は付いた方なのでご心配なく、ふん!」

「それは頼りになる」


アユムの後ろに副ギルドマスターでセシリアの右腕であるニックが立っておりアユムの隣の席に座る。


「水を1杯、それと他の職員が君を睨んでいたぞポメ…会話は程々に」

「す、すみませーん!」


周囲を見ると他のギルド職員達は忙しそうに動いているのにポメはアユムと話してるだけで確かに睨まれても仕方ない、ポメは急いで水が入ったコップをニックの前に出して他の仕事へと行きニックはやれやれとため息をつきながら水を飲む。


「…随分とお疲れですね、道整備の件で?」

「あぁ…セシリアが魔法ギルドに話を通さずに開拓者の魔法使いに頼んでいたのが発覚し、その上相手にバレた事で謝罪に行っていた」

「…大変ですね」

「魔法ギルド側は機嫌が良かったのもあって大目に見てくれたおかげで話は滞りなく進むことになったから結果オーライというものだ」


そう言ってニックは笑う…セシリアとニックはギルドの長とその右腕に留まらずこの町の顔役でもある、開拓最前線の町で貴族が統治しているのではないためこういった苦労が全てセシリアとニックに来るのもあって気苦労が絶えないだろう。

ニックは恐らく雑務のほぼ全てを行っているからか厳しい人物であり最初アユムもかなり怪しく見られていた時期があった、しかしある一定から今のように笑顔を見せるようになって信用してくれるようになった…のだろうか。


「それで、ポメと何を話していたんだ?」

「え?あぁ…実は」


話を振られアユムはポメと話した内容を伝える、魔法を使ってみたいけど教えてくれる人がいない…と。

話を終えるとニックは顎に手を当て暫く考え…


「ふむ…本当なら私が教えてあげたい所なんだが…」

「え?ニックさんが?」

「これでも元は上級Aの魔法使いではあったんだぞ」

「……ニックさん…が…」


記憶を遡ってニックが魔法使いである事を言ったことがあるか思い出そうとするもニックは2m程の身長がありかなり体格がいい、その男が魔法を使うと考えてしまい思考が停止しているとニックは少しムスッとした顔になる。


「なんだ…私が魔法を使えては悪いのか?」

「いや悪いという訳では…」

「…昔からセシリアにも同じような事を言われた、確かにサインが居たのもあって大剣を握っていた事もあったが…」

「サイン?」

「集いし英知のメンバーだ、彼女も魔法を扱いで風を操らせれば右に出る者がいない」

「へぇ〜…」


セシリアとニックは元冒険者・開拓者であり王都にいるテコッタも元は同じ集いし英知というパーティーのメンバーだという、そのサインという人物には会ったことはないがセシリアやニックにテコッタと見ていれば癖が強い人物なのだろうと勝手に予想してしまう。


「話がズレた…私が魔法を教えてもいいが…生憎忙しい」

「それはまぁ…仕方ないですね」

「……ただ、アユムが何の魔法を扱えるか調べる事は出来る」

「え?何の魔法??」


忙しい身のニックに教えてもらう訳にもいかないので納得したアユムだがニックから出てきた言葉に首を傾げるとニックは更に続ける。


「魔法というのは使う者の魔力によって決まる、アユムは疑問に思った事はないか?火を扱う魔法使いは何故水を使わないのかと」

「…それはまぁ…ありますね」


今までにも魔法を扱う者は多く居たがその殆どが全てを扱える訳ではなく単体多くても2種類しか使ってない、ヒストルなら光魔法だけを…のように。


「魔法は才能が殆どだ、必ずしも使えるとは限らず望むものが使える訳でもない…他者の魔力に触れる事で火なのか水なのか風なのか…ある程度は把握する事が出来る」

「じゃあ…お願いしてもいいですか?」


魔法の事は詳しく知る機会がそう多くなかったのもあるがそのような仕組みがある事を知り複数使用していたり組み合わせたりしていた者は凄かったのだと思うと同時にド派手な魔法は使えないが全て使えていたモルは更に凄かったのだと思いながらアユムはニックに促され手を差し出す。

魔法を使う者によって決まるのなら自分はどうなのか、差し出した手をニックは掴む…まるで水面を触るかのようにアユムの手からアユムの魔力を触れたニックは暫くそのままの状態で静止してアユムは息を飲んで待つ。


「……なるほど」

「わ、分かったんですか?」

「………アユム、君は」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



時刻にして15時頃、日もそこそこに落ちて来てはいるがまだ日差しが強い中でとぼとぼ歩いている男が1人…アユムは肩を落としながら一旦帰路についていた。


「……まさか…まさかなぁ…まさか……何も無いなんて…」








「アユム、君は…何も無い」

「………え?」


息を飲んで待っていたアユムだったがその言葉に思わずポカーンとしているとニックは難しそうな顔になる。


「魔力を操る事も出来て十分な魔力がある…だが…アユム、君は魔力を使えるが魔法として使う事が出来ない…本来なら魔力を炎や水に変換する事が出来るが君は……それすら出来ない何も無い状態だ」

「…ど、どういう…こと…」

「私にも分からない…初めての事だ……ただ、ひとつ言える事があるとすれば君は『魔法を使えない』という事だ」

「……え……えぇ…」

「ニックさーん!」


魔法が使えない、魔力を操作する事も魔力量もあるが魔法を使う事が出来ない…という事らしい。

呆然としていると出入口側から声が聞こえてくる、ニックを呼んでおりニックは席から立ち上がりながらアユムの肩を叩く。


「残念だが魔法を使えないからと言って死ぬ訳じゃない、そう気を落とさずこれからも頑張ってくれ」

「…はい…」


そう言ってニックは席から離れていきアユムだけが残される。









賑わっている町中で1人落ち込んでいるアユム、魔法を使えない事を知りそこそこガッカリしていた。


「なんかこう…異世界に来たから特別な魔力とかなんかそういうのを少しでも期待してはいたんだが…そんな事は無かったなぁ…」


使徒やヒスイといった恵まれている状態であるのは自覚しつつも天賦の才能のようなちょっとした淡い気持ちが無くはなかった、だがそれが見事に砕かれ魔法を使うというちょっとした思いは叶わずに終わってしまった。


「…はぁ……ん?」


もしかしたらというワクワクもあったせいで落差でどんよりとしていたところ、顔を上げると進行方向に見慣れた集団が目に入る。


「あ、アユム様!」

「あぁ?アユムお前ここで何してんだよ」

「それはこっちのセリフだっつうの、買い物行ってたんじゃないのか?」

「その帰りです、アユムさんも帰りなんですか?」

「いや…俺はこの後まだ続きがあるから一旦家に帰るだけだよ」


その集団とは買ったであろう物が入っている袋をいっぱいに持っているアミーラ達であった、どうやら買い物帰りらしくサヨの姿と…ダガリオの姿もあった。


「お前何してんの」

「君がギルドの依頼を受けたからと僕が代わりに荷物持ちをする事になってしまったんだ」

「ほぇ〜」

「流石の僕でも怒るぞ」

『あ、ちょうどいいじゃん!アユム持ってよこれ!』

「えぇ〜〜〜俺この後仕事…」

「つべこべ言わないで持ちな…さい!」

「ぐっ…はぁい…」

「それでは帰りましょう皆さん」


あれよこれよと荷物を持たされアミーラを先頭に移動が始まってなし崩しに荷物持ちをする羽目になってしまった、仕方なく荷物を持ちながら皆の後に続いて歩き始め仲間達が楽しそうに喋っているのを聞きながらアユムは目を閉じてため息をつく。


「…ま、皆がいるから別にいいか」

「?どうかしたか」

「なんでもねーよ、ダガリオ夕食はもう決まってるか?決まってないならウチ来いよ」

「有難い誘いだが……君が作るなら少し考えさせてくれ」

「てめぇー!俺の飯が食えねぇってのか!」

「君が時折作るオリジナル料理というのは大体がハズレだからな」


現代料理を再現しようとして毎回失敗しているのをいじられながらアユムは仲間達と帰路につく、魔法が使えなくても仲間達がいる上にヒスイの氷の力や消滅のスキルがある…淡い期待は打ち砕かれたが使えなくてもいいとアユムは考えるのであった。

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