333話『いずれわかる』
報告
未開拓地にてロック含め3名を無事発見したが魔王軍幹部を名乗るキュウソという吸血鬼に遭遇し戦闘、ロック達が残った原因と町へモンスターを向かわせていた犯人である事が判明した。
キュウソから逃走するのが不可能と断定し討伐に切り替えたが王都に出現した化物…そして未知の者に遭遇、急遽一時的にキュウソと共闘し倒した……と思われる。
未開拓地に何故王都にも現れた化物が出現したのかは謎のままであり未開拓地へと向かう場合には細心の注意を払う必要がある、また細かな報告はギルドマスターへ直接する。
以上、開拓者アユム。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
夜も深まれば賑やかな酒場の声が下から微かに聞こえる開拓最前線の町エレファムルのギルド2階、その一室にはギルドマスターの部屋がありそこではギルドマスターであるセシリアと開拓者であるアユムが机を挟んで向かい合っていた。
「報告書は見たわ、ひとまずお疲れ様…帰ってきて早々大変だったでしょう?」
「まぁ久しぶりの未開拓地でしたから鈍った感覚取り戻すには丁度良かったですよ」
「ならいいんだけど…私が言うのもあれだけど無理だけはしちゃダメよ?無理して死んでいった冒険者や開拓者は大勢見てきたんだから」
「…気をつけます」
紙をピラピラさせながらセシリアはアユムに心配そうな目を向ける、ギルドマスター…それも開拓最前線ともなれば様々な事を見てきたのもあってかセシリアの心配の目は冗談とも軽いものでもなく心からであるのを知っているためアユムはその気持ちを受け止め改めて無事に戻る事の大切さを再確認する。
「話が逸れたわね、それでまず本題なのだけど…エレファムルにモンスターを送り込んでいた者がこのキュウソという吸血鬼だったのよね」
「はい」
「…こうして貴方達が無事に帰って来たのを考えるとある程度予想が出来るけど、どうなったの?」
「それは…」
「で、改めて戦うかい?アユムくん」
夜空を見上げていると近くにいたキュウソがそう尋ねる、落ち武者から出てきた黒い霧を消滅…させた…かは分からないが一応は倒した後…キュウソの言葉にアユムは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「………お前それマジで言ってんの…?」
「ははは、元は一時的に休戦だったがこうして共通の敵を倒した今手を取り合っている必要は無くなったわけだ…が…」
「…………」
共闘していた理由は落ち武者が現れた事による一時的なもの、敵対は継続しており落ち武者がいない今理由が無くなった訳だが…アユムは頭をかきながら大きくため息をつく。
「はあぁぁぁぁ…もう戦う体力がない、今お前と戦ったところで勝てるか怪しい」
「さっきのは凄まじいものだった、それを考えれば私を倒す事は可能ではないか?」
「そう安く出来るもんじゃないっての…」
消滅のスキルは燃費が悪く何度も撃てるものではない、更に言えば異物が居なくなった事で次撃てば確実にアユムは意識が飛ぶのは目に見えているため撃つつもりもない。
多少なりともキュウソも消耗しているとしてもこの場の全員で挑んでも何人死ぬか分かったものではない、無謀な突撃とはそういう事を指すのだろう。
「……それに」
「ん?」
「やるなら聞かずにさっさと殺れば良かっただろ、そっちは別にもう俺達とやり合うつもりはないんだろ?」
「…まぁね、これでまだやると言われたらどうしたものかと思ったよ」
「………ただ、俺達としてはここでやり合わなくてもお前と戦う理由はあるけどな」
その性格から一度は共闘した相手を不意打ちで殺す…という真似はしないだろう、そして対話を始めたという事はそのつもりはないという意味でもある。
だがお互い今戦う意思は無くてもアユム達にはキュウソと戦う理由が存在していた、それはキュウソがエレファムルにモンスターを送り込んでいる事…問題となっているその犯人であるキュウソをどうにかするまでは帰れないがキュウソは暫く考えるように上を見上げつつ微妙そうな顔をする。
「……実の所もう君達の町にモンスターを送り付ける理由はないんだよね」
「…そうなのか?」
「そう、だからこうしよう…お互いあの異形の者を倒した仲としてここは何もせず去り私はモンスターを送り付ける事もしない…どうかな?」
「…………」
お互いに血を流さずに問題は解決される、こちらとしてはモンスターを送り付ける事を止めるのであれば願ったり叶ったりでキュウソとしてはその目的というのが達成しているためする必要がない。
その言葉を信じずに戦いを始めるか、信じてお互い去るか…例え共闘した仲と言えども相手がしてきたことはことである…だがこちら側はかなり苦しく選べる立場かも少し怪しいためアユムはチラッとロックを見るとロックは小さく頷く。
ロックとしてはその提案は飲んでも良いという判断らしい、今は帰るのが重要だと。
「……分かった、紳士協定といこう」
「それは良かった…そろそろ夜明けだ、私はこれにて失礼させてもらおう」
視線を向けると確かに空の境界線が明るくなっておりあと数十分で朝日が拝める時間だ、キュウソはマントを広げ自身を包めるようにすると足元に血が溢れ血溜まりが発生する。
「それでは諸君、またどこかで会おう」
血溜まりの中に沈むようにキュウソは消えていく、緊張の糸が切れたのかヒストルやサヨは座り込みアユムもまたホッと息を吐いて何とか片付いた事に安堵する。
「無事に貴方達が戻ってこれて良かった、あれからモンスターの襲来が無かった事を考えれば約束は守った…というより本当に目的が果たせたようね」
「目的…か」
「…ダガリオの考えでは威力偵察と言っていたのよね?」
「そうですね、本人の前で話したそうですが反応的にそれっぽかったとロックさんが」
「……そうなると…エレファムルの防衛状態やどれくらい耐えれるのかを調べてた可能性が高いわね」
「…あのセシリアさん」
「分かってるわアユム…魔王軍…今では過去の話になったけどまさか最悪が現実になるかもしれないとはね…」
キュウソが自ら明かした事を真実とすれば威力偵察の意味は『侵略のため』の可能性が大いにある、そして動き出したという事は…
「…とにかくその話は国に任せましょう、私達はそれよりその王都に現れた化物っていうのが未開拓地にいるかどうかを調べなきゃだし」
「……そうですね、あの後少し見て回ったんですが居る様子は無かったです…もちろん完壁に調べた訳では無いのでいる可能性はありますが…」
「そうね…今回の件も考えて暫くは未開拓地への調査は慎重にさせないと…ありがとう、ひとまずは問題は解決したとしましょう」
「分かりました」
「下でポメに報酬を受け取っといて、行っていいわ」
未開拓地に現れた化物はごく当たり前に現れるものなのか、それとも何か条件で現れるのか…まだ分からない事だらけだがアユムは軽く会釈をしてギルドマスターの部屋から出ていく、足音が遠ざかっていくのを聞きながらセシリアは大きく伸びをして耳をパタパタと忙しくなく動かす。
「……あの子が来てから怒涛の日々ね…そろそろ1年……か」
どこか遠くを見てふと引き出しを開ける、ごちゃごちゃした引き出しの中に真新しい手紙を手に取ってセシリアは中を開いて軽くため息をつく。
「アユムも自由に動いても大丈夫な頃だろうから考えといてあげないと……『上級』…ねぇ…」
何かを思い出しているのかゆらゆらとしっぽの先を揺らしながらセシリアはそう呟くのであった。
扉を閉めて一息つく、報告までが冒険とも言うがこれでやっと町に戻って来たと思える…アユムはそう考えながら廊下を歩いているといつの間にかヒスイが実体化してアユムの隣を歩いていた。
『ちょっと、話があるって言ってたのはそっちなのになーに普通に帰ろうとしてるの?』
「ん、そうだった忘れるところだった」
『しっかりしてよね〜』
「すまんすまん」
プンスカと怒っているヒスイにアユムは笑いつつ謝罪をする、報告が終わった後に話なあると伝えていたアユムだったが安堵のあまり忘れかけてしまっていた…周囲を見て人の気配がないのを見てアユムは階段手前で立ち止まる。
「話っていうかなんというか…聞きたい事があるんだ」
『聞きたいこと?』
「あぁ…ヒスイは『東雲一郎』って男知ってるか?」
東雲一郎…あの落ち武者でありアユムが精神世界で出会った神殺しを最初にした転移者である、転移者…つまりヒスイと同じタイミングでこの世界に転移してきた者である可能性は高く相手はヒスイの事を知っている様子であった。
正気を失っているようで話を聞けなかったがヒスイがもし知っていれば何か聞けるかもしれない、そう思い東雲一郎の名前を出した……のだがヒスイは首を傾げていた。
『東雲…しののめ…シノノメ………うーーーーん?』
「知らないのか?」
『いや、何となく聞いた事あるような…無いような…』
「どっちだよ…」
『んー…多分人間の方の私が知ってるかもしれない』
「……そうか」
『なになに、その東雲一郎さん?って人がどーしたのさ』
ヒスイは2人いる、肉体に縛られアユムによって解放された林道氷翠と神と成ったヒスイ。
そして記憶は林道氷翠とヒスイで共有していた訳ではないようでヒスイは人間の方の記憶が無いに等しい、ある事にはあるらしいがあまり期待出来ないと言ったところだろう。
「…東雲一郎、そいつなんだが…」
アユムはヒスイにあの落ち武者が東雲一郎という前文明の転移者である事、その東雲一郎と会った事を全て話す…この事はまだ誰にも話しておらずひとまずヒスイだけに打ち明ける事にした。
仲間達に話すには突拍子もない事で精神世界うんたらと話したところで理解するのは難しいだろう、その点で言えばヒスイは同じ転移者である上に精神世界というのは理解してる側である…下手にこの話を広めるよりもヒスイや同じ転移者で勇者のユリなどに限定する方が混乱を招かず良いだろうという考えであった。
『ふんふん…確かアユムあの落ち武者と化物が異物だって言ってたよね』
「……あぁ」
『……もし、落ち武者が東雲一郎さんって人ならさ…あの化物達は何なんだろうね』
「…分からん…ただ仮説を1つ立てるとすれば………あの化物達はもしかしたら『人間』なのかもしれない」
落ち武者と化物が現れたタイミングでアユムが異物だと感じ取った、化物が現れたのは王都の時と今回の2回…王都の時にも異物を感じ取ったのを考えれば化物自体が異物である可能性は高い。
落ち武者は東雲一郎という転移者、もし化物も同じなら…
『けど確証は無いし調べる方法もないから何とも言えないね』
「そうなんだよなぁ…」
『…けどもしそうならさ、なんで落ち武者は化物を倒してたんだろうね』
「…それは本当に分からん、本人に聞けば良かったか……」
仮説は仮説に過ぎず仮説を確定させるには情報が少ない、確かめる術がないのなら深く考えても仕方ない…そう考えていると階段の方から足音が聞こえ上ってきているのだと気づき階段の方を見るとその人物は踊り場でアユム達を見上げていた。
「アユム、もう報告は終わったのですか?」
「アミーラ…あぁすまん少しヒスイと雑談してたんだ、もう皆集まってるか?」
「えぇロックさん達も全員来てますよ、あとはアユムが来るだけです」
「っとそれは大変だ…急いで行かないと」
ギルドは1階が酒場となっておりギルドの受付と併用されている、そして今酒場ではロック調査に向かった達冒険者と開拓者達が集まっており無事を祝っての宴が用意されていた。
その席にアユム達も招待されており後はアユムが酒場に行けばいつでも乾杯が出来るところまで集まってるらしくヒスイを薙刀に戻しつつアユムは急いで階段を降りる。
「リサが怒ってましたよ、アユムの野郎はいつ来るんだ飲み物がぬるくなるだろって…」
「そりゃ急がないとな…ぬるい飲み物ほど微妙なものはない」
「あとロックさん達がお礼金を払いたいと、断ったのですが後で話をしに行ってください」
「…おう」
「それとテリシャさん美食ギルドからも御礼が………アユム?」
階段を先に降りつつアミーラは向かうまでに伝える事を伝えていると…突然後ろから足音が聞こえなくなり振り向くとアユムが階段の中腹のところで立ち止まっていた。
「アユムどうかしましたか?」
「……いや……何でも……ない…」
「………?」
「……………なぁ…アミーラ」
「はい、どうしましたか?」
「『アミーラ…だよな?』」
「……どういう事ですか?」
突然変な事を言い始めたアユムにアミーラは聞き返すとアユムはハッとした顔になりそそくさと階段を降りていく。
「いや…何でもない、行こう」
「……分かりました」
何でもない訳がない、だが自分にも言わないのなら無理に聞き出すこともないだろう…そう考えアミーラは深くは聞かずにそのままアユムの後を追う。
階段を降りながらアユムは何故自分がああ言ったのか分からず混乱していた、アミーラはアミーラであるはずなのに何故そんな事を聞いたのか?無意識にいつの間にか口にしていた言葉に混乱しつつもアユムはある事がふと脳裏に浮かぶ。
「(なんで…あの時ダジ様の顔が分からなかったんだ…?)」
精神世界から現実に戻る際に振り向いた瞬間、アユムはダジの顔が『黒く塗り潰されていた』
のを思い出す、一瞬だったため見間違いかもしれない…ダジの件とアミーラの件が同時に脳内をぐるぐる回り始めまるで薄い膜で包まれてるかのように頭がぼんやりとし始めていたその時……階段を降りた先から賑やかな声が聞こえ始めアユムは思考を切り替えるようにまっすぐ仲間達の元へと向かう。
無意識にその事を考えないようにするかのように…
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
雨が止んで数日…徐々に自然が元に戻そうとしている未開拓地にて星々の光に反射して1つの馬が地面を歩いている。
その馬は胴体を黒い鉄の鎧で身を包み首までを守る馬鎧という武具を付けておりよく磨かれているのか光を鈍く反射している、そしてその上に乗っている者がおりその者もまた黒い甲冑を着ておりただならぬオーラを出していた。
一見すれば騎士であるが未開拓地の人の手が入っていない場所に騎士が居るはずもなく不自然であるがそれ以上に不自然な点が1つ。
『……………』
黒騎士は馬を操り移動を続けていたがある場所で馬を止めて地面に降り立つ、そしてある場所でしゃがみこみある地点を…不自然に抉れた部分を見る。
『…順調か』
くぐもった声でそう呟き黒騎士は立ち上がって馬の元に戻ると馬はとても楽しそうに黒騎士に擦り寄り…その体が黒騎士の頭に当たり頭が地面へと落ちる。
簡単に落ちたその頭は『無い』頭の甲冑の中身は無く、胴体から繋がってる筈の頭が存在していない。
『…まったくいつまで経っても元気だな』
そう言って頭を拾いつつ黒騎士は馬の首を撫でる…馬の首から上にある筈の頭が無く黒騎士と馬は『デュラハン』と呼ばれる者達である。
デュラハンは馬に跨り頭を被り直して地面を見る。
『…楽園まであと少し…』
そう呟き黒騎士は森の中へと馬を動かして消えていく…雨が止み静けさを取り戻した森はただただそこにいる。




