332話『ひと吹きの月明かり』
未だ雨が止まない曇天の空…静かな森の1部では大きな音と軋む音が重なりながら木々が倒れていき、まるで木が伐採されてるようだが伐採というよりも破壊の方が正しいのかもしれない。
強い衝撃と共に吹き飛ばされ雨によってドロドロになった地面を滑りながらどうにか着地し顔を上げるとすぐ目の前に振り下ろされようとしている錆まみれ刃が目に入る、ガードするのは不可能だと判断し咄嗟に横へ避けるとその勢いから地面が抉れ余波で吹き飛ばされ近くの木に背中からぶつかってしまう。
「がっ…」
「チッ!私が前に出る!アミーラ援護しろ!」
「はい!」
「スズランはダガリオを連れて下がれ!」
「分かったわ!」
必死に呼吸をしようとするが痛みで息が出来ず浅い呼吸をしているとスズランがやって来てダガリオの腕を掴み肩を抱いてその場から歩き始める。
「すまない…」
「謝罪は後!今は早く復帰しないと前が持たない!」
「………ジリ貧か」
視線を向けると邪魔な木々をその驚異的な怪力で破壊しながら攻撃を繰り出す落ち武者と、その周囲で避けながらも攻撃を続けるキュウソとリサとアミーラ…そして視線を前に向けるとサヨに治療を受けているロック達の姿があった。
「すまんの、囮にすらならんとは」
「掠っただけでも僕達では致命的です…サヨの加護とスキル込みの僕でもこの有様ですから」
「情けねぇ話だが…あの戦いについていける気がしねぇ」
「ギリギリ…ロックさんで何とかくらいだ」
落ち武者が再び現れてから5分…ロック達ベテランの実力でも落ち武者の一撃一撃を避けるのに1度でも失敗すればミンチになってしまう、掠っただけでも吹き飛ばされ肌がその勢いに持ってかれてしまう事もあり幸い死者はまだ出てはないもののロック達はほぼ落ち武者の攻撃に巻き込まれダウンしてしまった。
「キュウソとリサが抑えてくれてはいるが…」
「攻めに攻めれないようですね」
「アユムの意識を刈り取ったとされる黒い霧の手とやらを警戒するのは必然だがそれを警戒するがあまり削っていく戦法が取れん」
「一撃で倒せる何かがあればいいのだけど…」
「…一撃か」
激しい攻防…いや防だけとも言える戦いが続いておりキュウソ達は黒い霧の手を警戒してダメージを与えるのを躊躇している、かと言ってこのまま何もせずにいればジリ貧になるのは確実であり起きないアユムの事もあって早期決着を求められていた。
黒い霧の手をどうにかするのなら一撃で倒せれば何とかなるのでは?そんな思いでスズランは呟き、その言葉を聞いたダガリオはふと視線をある方向へと向ける…その方向は少し離れた場所で未だに起きずにいる…
「…いや、今は居ない者の事を考えても仕方ない」
「はい!これで大丈夫ですよダガリオさん!」
「助かった、サヨ」
「いえ…私が出来るのはこれくらいなので」
「……ダガリオ様、何か私に出来ることはありませんか?皆様のように戦えませんが…何か…」
「ヒストル…」
サヨの傍に居たヒストルが真っ直ぐな目でダガリオを見る…まだまだ幼い事もあり落ち武者と戦うには荷が重い、それを分かっている上でヒストルは何か手伝えないかと考えていた。
その真っ直ぐな目を見てダガリオは考えた…が…光魔法を使わせても落ち武者に傷をつけるだけで現状を打破する方法が思いつかない、現実的に言うなら何もしないがヒストルが出来ることだがそれを伝えるほどダガリオは人の心を失ってはない…だが…
「……なら…あいつ倒す為の準備を手伝ってくれ、ヒストル」
「ッ!その声は…」
どう伝えるか悩んでいたところに突然この場にいるはずのない声が聞こえ声がした方へと顔を向けるとそこには…
「…随分と長い休憩だったな、アユム」
「こんな非常事態にな…まぁ夢は最悪だったけど」
「アユム様!」
「アユムさん!?起きたんですね!」
「っとと、すまんこんな大変な時に…状況は?」
「あまり良くはないの…あの奇形の者に攻撃を躊躇して何も出来ん状況じゃ」
「…なるほど」
心配していたヒストルがアユムに抱きつき、それを受け止めつつアユムはロックと周囲を見てある程度今の状況を把握する。
「それで、倒すための準備…と言うとアユムは何か作戦があるという事なの?」
「そういう事…その為に皆の力を貸して欲しい」
未だに暴れている落ち武者を横目にスズランはアユムに尋ねると…アユムはこの場にいる全員の目を1人ずつ見る。
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轟音と共に頭上を通り過ぎるなまくらの刀に冷や汗をかきつつリサは苛立ちながら近くにいるキュウソを睨む。
「おい!いつまでこの状況を続けんだ!」
「…奴に攻撃を仕掛けると傷口からアユムくんの意識を奪ったあの手が出てくる、それに掴まれれば全員アユムくんのようになるだろう…やるならば全員のタイミングを合わせるべきだ」
「ってもよ…全員仲良く攻撃させてくれるようなタイミングいつくんだ…?」
落ち武者の攻撃は見切れなくはない、だがどれも一撃が重く当たらなくても何かしらの影響が出る…そして接近しているキュウソとリサをランダムで攻撃してくるため一斉に攻撃を仕掛けるにしても1人は必ず囮になる。
この場にはリサとアミーラとキュウソ…落ち武者の攻撃を見切れるのはキュウソとリサのみでありどちらかが囮になるしかない。
「(…いや、待てよ…確かアユムの奴このキメェのが異物だって言ってたよな)」
当たれば即死の攻撃を避けつつリサはヒスイが言っていた事を思い出す、アユムがやられる前にこの落ち武者が異物であると。
「(…父さんの形見でもあるこれは狙った奴に1番効く攻撃をぶつけられる、今ここでキュウソの野郎やアミーラのあのボカボカえげつねぇ攻撃よりも効果があるかもしれねぇ)」
ホルダーの中にある拳銃を触りリサは思考を巡らせる、キュウソの強さはかなりのものであるが今この場で落ち武者へ効果的な一撃を与えられるのは自分ではないか?とリサは考えた。
「……おいキュウソ!私とアミーラがこいつに一撃叩き込む!お前はそいつの気を引け!」
「勝算は?」
「これ使う!てめぇこれ知ってんだろ!」
「…いいだろう、外すなよ!」
「アミーラ!」
「はい!『安全装置解除』」
拳銃を見せるとキュウソは納得し1度下がってから一気に落ち武者へと向かってサーベルを振り下ろす、落ち武者はすぐに刀でサーベルを受け止め左手をキュウソへと向けるがキュウソは左手を避け力強くサーベルで刀ごと落ち武者を押し距離を取る。
完全に落ち武者の意識がキュウソへと向けられた、その瞬間を見逃さずリサは拳銃を抜くと体が変化を初め瞬き一瞬の次の瞬間には大人と言えるくらいの体へと成長していた。
「……食らいやがれ!」
「『目標確認、目標を殲滅します』」
ぶつかり合うキュウソと落ち武者が離れた瞬間にアミーラの砲撃とリサの拳銃から弾丸が放たれる、キュウソと戦っていた落ち武者はそれに気づく間もなく1発目の砲弾が頭部に命中…更に腹部に弾丸が当たりそこから続々と砲撃と弾丸の雨が落ち武者へと注がれていく。
激しい砲撃によって地面が抉れ雨によって土煙は起こらずその場には落ち武者の残骸が転がっていた、生きている…あの状態を生きていると言うのかは定かではないが生きている様子は無い。
「………んだよ、案外何とかなるもんじゃねぇか」
「弾薬は使い果たしましたがね」
「気にすんなって戻って補充すりゃいいだろ、しっかしちゃんと効いてくれたかは微妙だがこれで…」
「…………」
「あ?どうしたんだよキュウソ」
落ち武者だったものを見て胸を撫で下ろしながらリサ達は落ち武者だったものの近くに集まり見ると刀すら原型を残さず粉々になっている、確かに強敵だったが何とかなった事に安堵していたリサだったが…その横でキュウソがジッと落ち武者だったものを見ていた。
まるで何かを見落としていないかと見ているかのようにじっくりと…ゆっくりと…………
「……ッ!!!避けろ!!!!」
「あ?」
突然キュウソはアミーラとリサを突き飛ばしキュウソの怪力に耐えれる筈がなくバランスを崩した2人の目の前を『手』が
通り過ぎていく。
「なッ!?」
「これは…」
その『手』は黒い霧によって人の手のような形をしていた、そしてその黒い霧の手はスッと伸びておりそれを辿っていくと……落ち武者だったものがいた抉れた地面が『黒い霧で覆われていた』
「嘘だろ…くそっ!」
すぐに立ち上がったリサは黒い霧へと拳銃を向けて数度発砲する…が…弾丸は黒い霧に当たらず…当たらないというよりも霧をすり抜けてそのまま奥へと飛んでいってしまう。
「はぁ?!なんで効かねぇんだよ!」
「…何故かは分かりませんが…困りましたね、肉体を失っても動く…これは幽霊の類でしょうか」
「分からん、だが今言えるのは…今の私達では手も足も出ないという事だ」
黒い霧はまるで生き物のように蠢き霧から人の形をした霧の手が何本も伸びて広がっていく、落ち武者の姿をしたものから掴めない霧状へと変わられると物理的な攻撃は効果は見込めないだろう…そして黒い霧は抉れた地面から這い出てくるように地面へ広がっていきリサ達は1歩下がる。
「どうするよ、このまま風に乗って消えるのを待つか?」
「消えてくれるようには…思えませんね」
「……………」
「…チッ…こんな時あいつがいれば…」
「リサ!アミーラ!キュウソ!」
「…ッ!?」
まるで膨れ上がるかのように広がり始めた黒い霧を前にどうしようも出来ないリサだったが突然名前を呼ばれ振り向くと…そこには…
「…てめぇ…タイミング見計らってやがったのか?!ちくしょうめ!」
離れた場所、そこにはアユムが立っておりリサ達へ向けて大きく手を振っていた。
「アユム…起きたのですね」
「…どうやって目覚めたのか興味があるが…今はその場合ではないか」
「…ん?」
元気に立っているのを見てホッとしたリサだったが…1番奥にいるアユムよりも気になるところがあった、それは何故か後方に下がってたダガリオ達が綺麗にアユムを中心にリサ達へと左右に並んでいたこと。
例えるならアユムを頂点とした三角形の形と言うべきか、リサ達から見たら突然左右に並んでいる状態であり何をしているのかと疑問しか出てこない。
「お、おいお前らこんな時に一体何を…」
「リサ上だ!」
「なっ…」
手を振っていたアユムが一瞬で険しい顔になった事と警戒の声が聞こえた瞬間にリサは前へと飛んで転がる、するとリサが立っていた場所に黒い霧の手が地面に当たり地面に沿って広がっていく…あと少し反応が遅れれば掴まれていた事だろう。
「こっちだ!リサ!『俺を信じろ!』」
「ッ!!!こいつ…!アミーラ!キュウソ付いてこい!」
アユムの言葉に目を見開いたリサは思わず笑みを浮かべアユム達の方へと駆け出ず、すぐにアミーラとキュウソもその後に続き走り出した瞬間…黒い霧は膨張するように爆発するように広がり弧を描きアユム達へとその手を伸ばす。
「よし!今だ!」
「これは…」
「ほほほ!わしら今からどえらいもの見れるかもしれんの!」
「り、リサさん大丈夫ですか!」
「走りながら喋ると舌噛むぞサヨ!さっさと走れ!」
後ろから霧の手が、そしてリサ達が通る時には左右に広がっていたダガリオ達が中心に集まるように走り出しリサ達の周りにダガリオ達が集まる…1つの集団になった事で広がっていた霧の手がダガリオ達を追いかけ中心に1つに…
『アユムの目の前に』
「『消滅』」
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目を開くと目の前にはアユムが立っていた、一瞬雨が止んだかと思ったらまたパラパラと降り始め…振り返ると同じように振り向く仲間達。
振り向いた先には地面や木々が抉れたようにくり抜いたようにくっきりと消えており…黒い霧がいた場所もまた抉れて消えていた。
ふと、パラパラと降っていた雨が止まり空を見上げると雨雲が消えていき満月の月明かりが地面を照らす、そしてひと吹きの風が空中を漂っていた霧を吹き飛ばしていき黒い霧は空中に霧散していく。
「……随分とまぁ慣れたもんだな、いつから当てないように選べるようになったんだ?」
「…ぶっつけ本番」
「……よくもまぁそれで信じろって言えたなアユムお前」
「いいだろ上手くいったんだから」
「…ま、それもそうか」
「……破壊完了…?か?」
月明かりと満天の星空を見上げながらアユムはホッと一息つくのであった。




